幸せになれる訳が無かった
私がこの地にやって来たのはもう3年前になるだろうか。
家を追い出され着の身着のままこの地にやって来た。
何も知らない私をこの地に住む人達は優しくしてくれた。
そもそもこの地は様々な事情で実家を追い出された人達が集まり出来た集落だった。
だから私も訳ありである事がすぐに理解出来たらしい。
私は住人達の助けを借りながらゆっくりとだが家事や炊事、洗濯を覚えていった。
今ではこの暮らしも慣れてきた。
そんな私の元に元実家である公爵家の使いの方が訪ねてきたのは私にとって驚きだった。
てっきり私の事など忘れて幸せになっていると思っていた。
「え、妹が亡くなった……」
「はい、先日の事です」
それは衝撃的な話だった。
「事故にあったんですか?」
「いいえ、その大きな声で言えないんですが……、レイナ・クルワール様は殺されたんです」
「こ、殺された……」
妹であるレイナ・クルワールは結婚式当日に暴漢に背後からナイフで刺され、倒れた所を更に何度も刺されたそうだ。
阿鼻叫喚になった事は想像出来る。
「そうですか……、あ、もしかして私が関与してるんじゃないか、て疑われてます?」
「いえ、そんな事はありません。 アリーシャ様が関係していないのは調査済みです。 実は3年前にアリーシャ様がレイナ様を虐めている、という噂が出され婚約破棄され家も追放された件ですが、それが全くの事実無根である事が証明されました」
そう、私はレイナに嵌められ嘘の噂を言いふらされ婚約者から『妹を虐める人とは結婚なんて出来ない』と言われ婚約破棄され両親からは『恥さらし』と言われ追放された。
そもそもレイナは口が上手く人を誑し込むのが上手かった。
他人が喜びそうな事をわざと言って味方をつける、気に入らない人物は悪い噂を言いふらし孤立させる。
ハッキリ言って性格の悪い人物だった。
「もう過ぎた事ですから気にしてないですし、私としても忘れた事なんですが、それが殺された事に関係あるんですか?」
「えぇ、実はレイナ様を刺した犯人はクリス・ドワートという人物なんですがご存知ですか?」
「確か妹と仲のいい友人の1人、と記憶していますが」
「そのクリスが『レイナに頼まれアリーシャ様に虐められている事を言いふらしていた、実際はレイナの自作自演でありアリーシャ様は一切悪くない』と証言したんです」
「えっ、そうなんですか。 どうして今になってそんな証言をしたんでしょうか……」
「どうやら結婚する約束をしていたそうです。 複数の男性にも似たような約束をしていたみたいです。しかし、結果としてアリーシャ様の元婚約者であるロイド・クナース王太子と婚約、結婚しようとしました」
それで裏切られたと思って凶行に走った、と。
「……私はレイナにずっと注意をしていたんです。いつか、その性格がその身を滅ぼす事になるから直しなさい、って。 全く聞く耳を持ちませんでしたが」
「えぇ、公爵様も明かされた事実にショックを受けて『アリーシャにとんでもない事をした、あの子の話をちゃんと聞いていれば良かった』と。 ロイド王太子も『アリーシャと向き合えていれば良かった』と後悔しているそうです」
「今更ですよね」
「私もそう思います。 それでですね……」
使いの方は大きな袋を机に置いた。
「これは公爵様からのお詫びの金です。 公爵夫妻は後始末を終えたら田舎に引っ越し隠居するそうです。後謝罪の手紙も預かっていますが」
「いただきます、あの両親はどうしていますか?」
「今回の件で公爵家の力は弱まるでしょう、夫人は倒れてそのまま寝たきりになりまして公爵は夫人の介護に忙しくげっそりしております。それからロイド王太子ですが王太子の座を自ら退きました」
「ロイド様がですか?」
「ロイド元王太子は『嘘も見抜けない自分が国王になれる訳が無い』と。 修行の為辺境に行かれました」
ロイド様も元々は真面目な方だから責任を感じているのね。
使いの方が帰られた後、私は手紙を読んだ。
そこには後悔と謝罪の言葉が綴られていた。
漸く、私は自分という人間が両親に認められた、と思った。
いただいたお金は集落の整備に使った。
私の人生は改めてスタートを切れた。