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ゲブラさんの価値観シリーズ

ひとを感動させるものの正体。

作者: エンゲブラ

感動 ―― 心を動かされること。


以前、何かで「AIの生成物も、人間の作品と同様に評価すべきだ」という意見を見かけたことがある。クオリティに対する批評としては、(おおむ)ね同意見だ。しかし、それが「感動」の評価軸ともなると、少々話が変わって来る。


「感動」にも、種類がある。


シンプルな美しさ、テンポ、波動。これらはクオリティとも重なる部分だが、感動を誘発する最大の装置は、やはり「物語性」にあると筆者は考える。


「物語」にも、ふたつある。


作品そのものが持つ物語と、その作品が生まれるまでに費やされた創作者の物語。そして(皮肉にも)最も強力な「感動の誘発」は、後者にこそある。


AIの生成物には、この「物語性」が欠けている。


非常に良いクオリティのものが生成されたとしても、そこに「物語性」を見出すことは、非常に困難。特定のミュージシャンや画家、小説家などの作品を学習させ、それらを現代に蘇らせる。―― といった手法なら、一定の感動は得られるだろう。だが、完璧にまでには程遠い。


AIと制作物で競い合う、これからの時代のクリエイターたち。彼らは、もっと「表現者としての自己の物語」をアピールしていく必要がある。創作物としてのカルピスの残骸(唐突の下ネタ)だけでなく、それをひねり出すまでの「工程も含めての作品」と考えるべきだろう。「創作物そのもののメッセージ性」も薄いのに、技術だけでAIと勝負しようと考えるのは、さすがに無謀を通り越して、呆れもする。



ゴッホの評価だって、彼が不遇のまま死んだ「物語」によるブースト効果が大きい。


生前、画家仲間が買った1枚しか、絵が売れることのなかったフィンセント。複数の精神疾患の症状を持ち、自ら左耳の一部を切り落とし、その2年後には自殺。そして「不遇の天才画家」というおくりなにより、死後に世界的な画家へ。


()()()()なしに、ゴッホの絵に「純粋に感動する人間」は、いったいどのくらいいるのだろうか?


おそらく、生前の世間の評価と同じくらいの反応しかないのではないか、と筆者は考えてしまう(現在では、インターネットもあるので、当時よりは遥かに売りやすくもなっているだろうが、「物語の切り売り」なしで「純粋に絵だけの評価」となると、どうなるだろうか?)。


ちなみにゴッホの「自殺説」は、2011年に出版された『Van Gogh: The Life』によって、非常に微妙なことに現在ではなっている。おそらく故意ではない「他殺、事故死」である可能性が強まってきており、またひとつ、ゴッホからその「物語性」が減算される要因ともなりそうだ。―― ゴッホ独特の色彩やデッサンのブレ、線の揺らぎが、シンプルに「視覚異常」から来ており、精神的内面を表現したものではなかったのではないか、というのも、すでに指摘されていたので。


「興覚めなことを言うな」というひとは、まさに「物語にこそ、感動を覚える」ひとで、間違いはあるまい。



琴線に触れるモチーフや装置を利用しないのなら、せめて「制作者側の物語」くらいは、切り売りしてくれなきゃ、「見る側」としても辛い部分がある。


「感情移入をさせるための導線」も用意せずに「俺様の作品はどうだ!」と言われても、どうとも答えようがない。クオリティでAIに劣るような作品なら、特にね。


―― AIが「物語性」まで獲得する時代がくれば、それこそ、僕らの「創作の時代」も終わるのかもしれない。残された時間も、そう長くはないのかもしれない。知らんけど。

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