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リヴァイス・リヴァイバル〜果てなき世界の調律録〜  作者: 琥珀
第1章 『The Maiden's Requiem』
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87.攻略会議

「マリアルザの魔法は幻覚を起こす類のもので間違いないでしょう。ですが、当初の想定よりも遥かに強力で凶悪です」



 先程の僅かな交戦で起きた事実から、ヘーニオの思考が既にひとつの答えを導き出していた。



「私達が拠点に侵入して直ぐに魔力の『衝突反応』が起こり、その直後、マリアルザが出現して私は傷を負いました」



 ヘーニオが痛々しい傷口にそっと手を翳すのを見て、マキナは彼を無傷で守りきれなかった己の不甲斐なさに眉を顰めた。



「つまりマリアルザの魔法は、同時に魔力や気配そのものを感知する役割を担っているものと思われます」

「……本来別の効果を有する魔法が、魔力感知も担っているということですか?」

「おそらく」



 淡々と答えるへーニオとは対照的に、マキナは背筋に冷たいものを感じて思わず身体を震わせた。


 一つの魔法に全く異なる二つの効果を織り交ぜるという、言葉にすればシンプルだが、行われていることは魔法を扱えないマキナでも戦慄するほど驚異的な技術だからだ。



「では、拠点に侵入=会敵ということですね」

「魔力感知だけなら可能な限り露出する魔力を消すという対処法がありますが、そうなると幻惑魔法そのものに対応出来ません。実質その通りで間違いないでしょう」

「使える手が一つ減っただけ。別の手を考えましょう」



 事態の悪化を前にしても一瞬で次善策へと舵を切る彼女の姿勢に、ヘーニオもまた力強く頷いて応えた。



「ヘーニオさんが先程使った謎の発光体は?」

「あれは『魔素妨害(マジック・チャフ)』という魔道具です。一定の範囲内の魔素を一時的に不安定にさせ、魔力操作を妨害することができます」



 淡々と説明されてはいるが、魔力の土台そのものを妨害する兵器など、対魔法使いにおいて劇薬とも言える。


 帝国の恐るべき技術の奥深さに、マキナは密かに舌を巻いた。



「退避出来たところを見ると、効果はあると思います。ただ、過信はしないほうが良いでしょう」

「何故ですか?」

「『魔素妨害(マジック・チャフ)』は周辺の魔素を不安定にさせるもので、魔族、それも『クイントスクーロ』レベルともなると、間近で受けない限りは体内の魔力を乱すことは出来ないと思います」



 ヘーニオの冷静な分析に納得しつつ、マキナは口元に手を当てて深く考え込む。


 マリアルザとマキナの相性は控えめに言っても最悪だ。


 『ヴェノム・ストーカー』の体質とは異なり、物理攻撃が全く効かないわけでは無いが、そもそもあの幻覚の中では、渾身の一撃を当てることすら困難を極める。


 幻覚魔法特化ではないイニャスの蜃気楼にさえ惑わされ、危うく敗北しかけたことを踏まえると、正面から力技で打ち破るのは不可能に近いだろう。



「ヘーニオさん、幻覚魔法に対抗する手段にはどんなものがあるんですか?」



 素直にヘーニオの知識に頼ることを決めて尋ねると、ヘーニオは自らの知識をもとに答え始めた。



「掛けられた魔法にもよりますが、大きく分けて三つあります。基本的に幻覚は体内の魔力を乱されたことで見せらます。ですので、①魔法そのものを中和する、②自身で乱された魔力を整える、③他者に魔力を整えてもらう、の三つになります」

「……へーニオさんも魔法が使えないですから、③は不可能。となると①か②が可能性として残りますが……」



 僅かな希望にすがりつくように見つめてくるマキナの視線に耐えきれなくなったのか、へーニオは沈痛な面持ちで目を逸らして首を横に振った。



「まず②ですが、これは等級を与えられる程の魔法使いなら、誰でもある程度扱える技術です。魔力を整えることは安定して魔法を発動させるのに不可欠な技術ですから」



 そこで一旦言葉を区切り、ヘーニオは酷な事実を語る前触れのように、僅かに声のトーンを落とす。



「逆を言えば、魔法使い以外の者は知り得ない技術ということでもあります。仮に基礎を今から覚えても、マリアルザの幻惑魔法に対抗出来るほどの技術は得られないでしょう」



 ヘーニオの言う通り、マキナ自身も体内の魔力を精密に整える技術は身に付けていない。


 マキナが知っているのは、肉体強化の魔法と、空間内の魔力を感知する技術のみであり、魔力の制御は異なる次元の技術なのだろう。



「……そう、ですか。では中和()は?」

「残念ながら、こちらは更にハードルが高いです。中和というのは簡単なことではなくて、酸にアルカリ、火に水、熱に冷といったように、対になる性質を正確にぶつけないといけません」



 ヘーニオは一つ指を立て、その難易度の高さを強調して言葉を継ぐ。



「②と違い魔法を完全に無効化出来ますが、魔法の性質を見極め、且つ対になる魔法を発動できてようやく効果の出る対策方法です」



 魔法を使えない自分が魔法に対抗することが、決して簡単なことではないと分かってはいた。


 それでも理路整然とした説明を受け、より具体的に不可能だと突きつけられたことで、マキナは堪らず深く俯いてしまう。



「じゃあ……マリアルザに対抗する術は、私には無いんですね……」



 ヘーニオは何かを励ますように言いかけるが、薄っぺらい気休めにもならないと思い直したのか、結局その言葉を口にすることは無かった。


 重苦しい沈黙が岩陰の周辺を包む中、マキナの頭の中に再び彼女の言葉が鮮烈に浮かび上がる。



『結果が成されれば、過程もまた成されている』

『発想は悪くない。変えるべきは見方さ』



 その言葉が、行き詰まっていたマキナの想像力の枷を強引に解き放つ。



「結果が幻覚魔法にかかることだとすれば、過程はマリアルザの領域に足を踏み込むこと……」



 マキナが何かに取り憑かれたようにボソボソと呟きだすと、ヘーニオはヘルメットの奥で、その集中する様子をただ黙って見つめていた。



「変えるべきは過程……?マリアルザの領域の外から攻撃を仕掛ける……?いや、私にそんな攻撃手段は無いし、マリアルザの魔法が感知も備えているのだとしたら、攻撃手段があっても当てられない……」



 マキナはこれまで、戦場におけるあらゆる困難を己の力技で強引に解決することが多かった。


 しかしそれは、驚異的な身体能力と回復能力を有するからこそ可能な荒業であり、同時にその極限状態での最適解でもあったのだ。


 その血みどろの数多の経験がマキナの直感を異常なまでに鍛え続け、必然的に必要な情報を感覚だけで得る直感型の戦士へと変えていった。


 だが、いまマキナは、これまで直感と力技だけで解決して来た壁を、ヘーニオから得た知性で解き明かそうとしている。


 得体の知れない恐怖が、知識によって明確な「越えるべき壁」へと変貌していく。


 これまで力技でしか突破できなかった重い扉を前に、マキナは全く新しい鍵を作り出そうとしていた。




「じゃあ見方を変えるのは結論部分……マリアルザの魔法に対抗するんじゃなくて、()()()()……」



 その瞬間、マキナの脳内にバラバラだったピースがカチリとはまり、ハッとした表情を浮かべ、一つの仮説を導き出した。



「へーニオさん!!ひとつ思いついたんですが……」





●●●





「……理屈の上では、確かに正しいです」



 マキナが興奮気味に仮説を伝えると、へーニオはしばらくの沈黙の末、絞り出すようにその整合性だけを肯定する。


 だが、肯定の言葉を紡いだ直後に落ちた重苦しい沈黙と、僅かに強張ったその声色が、彼女の案の孕む大きすぎる代償への危惧を暗に物語っていた。



「ですがマキナ様、それは余りにも危険です。一時とは言え、貴方も無防備に……」

「大丈夫、私は素の状態でも頑丈ですし、ちょっとやそっとの傷ならすぐに治るので」



 その自らの命と身体を軽んじるような発言を聞いて、へーニオは先ほどの怒りを思い出したのか、痛む腹を押さえて思わず立ち上がりかける。


 しかし、彼が声を荒げるよりも前に、マキナは兜を外した素顔のまま、静かに、しかし強い眼差しでへーニオの方を振り返った。



「自分を蔑ろにしているわけじゃないです。でも戦う以上、無傷で終わらせようだなんて甘い考えは捨てなくちゃいけない」



 淡々と紡がれたその声には、死線を越え続けてきた者だけが持つ、揺るぎない覚悟が宿っていた。


 幾多の命をかけた戦いを経て、肉体に刻み込まれた、『英雄』としての言葉である。



「へーニオさんの言葉や想いを忘れたわけじゃないです。寧ろ勝つために、生きるために、その覚悟が必要なんです」



 自己犠牲を厭わないその姿勢を、誰かがが真っ向から否定し、引き止めなければならない。


 そう頭では分かっていながらも、マキナの全身から放たれる凄絶な覚悟を前に、ヘーニオの反論は喉の奥で形を成す前に溶け落ちてしまった。



「……分かりました。それはきっと、私の経験だけでは測ることのできない覚悟なのでしょう」



 へーニオは小さく息を吐いて素直に降参の言葉を述べ、すぐに顔を上げて言葉を続けた。



「マキナ様、その作戦を実行するにあたって、一つだけ助言をさせて下さい」



 マキナが不思議そうに首を傾げると、へーニオはマキナの手にある兜を指さした。



「マリアルザとの戦闘中は、その兜を外して下さい。私が見たところ、兜……と鎧には簡単ながら強力な魔法がかかっていますよね」



 へーニオの指摘の通り、これらの防具には『エルゼルク王国』の魔法師団長であるシェリーによって、精神攻撃を弾くための魔法の強化が施されている。


 だからこそ、防御力を下げる「外せ」という指示は、マキナにとって非常に意外なものであった。



「マキナ様の建てられた作戦の場合、その兜に仕掛けてある防護の魔法が逆に障害となる可能性があります。万全を期すなら、一時外しておくべきかと」

「なるほど……でも……」



 理屈は分かるが、マキナは僅かに躊躇った。


 作戦に支障が出る可能性があるとはいえ、これはシェリーが自分のために誂えてくれた想いのこもった魔法防具だ。


 それを、強力な敵を前にしてそう安々と外してしまって良いのかと。


 その繊細な迷いを感じ取ったのか、へーニオは痛む身体でゆっくりと起き上がり、マキナの目の前で両手を優しく差し出した。



「もしご心配なら、私がお預かりします。とても大事にされているのは分かりますし、放置しておくのもご不安でしょう。マリアルザの戦いが終わるまでの間、私がこの手で握りしめておきます。もちろん信用していただけるのなら、ですが」



 差し出されたその大きく血の滲む手に視線を向けた後、マキナは迷いを振り切り、まっすぐにへーニオの瞳を見て力強く答えた。



「もちろん、信用しています」



 マキナはソっと、自分の命を預けるように、想いのこもったその兜を彼の手へ預けた。

※後書きです



ども、琥珀です。


SWの10月18〜25日の期間、毎日更新します!!


本日もお読みいただきありがとうございました。

次回の更新は金曜日の朝7時頃を予定しておりますので宜しくお願いします。

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