10月30日(水)-1
朝8時、準備したバッグと共に道路へ出ると、既にキャンピングカーが停まっていた。私の姿を見て、運転席から片桐さんが出てくる。
「おはようございます。お時間、ぴったりですね」
「おはようございます。なんというか……立派なキャンピングカーですね」
私は挨拶もそこそこに、思わずキャンピングカーを見てしまう。
でかい。
キャンピングカー一台が、家と同じくらいの値段がすると言いう話を聞いたことがあるが、それも納得の大きさだ。
呆気にとられる私を見て、片桐さんはにっこりと笑ったのち、扉を開ける。
そう、扉。扉なのだ。車のドアではあるけれど、ちゃんとした扉がついている。
「お邪魔します」
思わず声をかけて入ると、ちょっとした部屋がそこに広がっていた。
家に比べればもちろん狭いのだけれど、そこにはソファのような座席、テーブル、キッチンになりそうな棚、小さな冷蔵庫がついている。端の方に小さな扉があり「お手洗い」と書いてある。完璧だ。
「すごい……本当に家ですね」
「はい。ちゃんとシャワーもついておりますので、住むこともできますよ」
将来、キャンピングカーを買って家にするのもいいかもしれない。駐車場を借りて、キャンピングカーで日本横断。夢が広がる。
まあ、その前にキャンピングカーを買えるくらいの貯金を手に入れないおいけない。となると、やっぱり今のアパートに暮らして時々旅行に行く、くらいがちょうどいいのかもしれない。
メンテナンス費だって、馬鹿にならないのだし。
「どうぞ、そちらの椅子に座って下さい。すぐに出発いたしますので」
「はい、分かりました。ありがとうございます」
私は答え、椅子に座る。そして驚く。
座り心地が、いい……!
ふわふわという訳ではない。適度に弾力がある。だが、体になじむ。座っていることが、苦痛にならない。
「ちょっと遠くですから、くつろいでいただいても大丈夫ですよ」
片桐さんが運転席から声をかける。
そうか、ちょっと遠くか。
それならば、と遠慮なく靴を脱ぐ。足を延ばした先に、足置きがあるのを発見したのだ。
少し座席の角度を斜めにして、ぐーっと体を伸ばす。
—―いい……快適だ……!
「喉が渇かれましたら、座席前のミニ冷蔵庫に飲み物が入っておりますので、遠慮なくどうぞ」
「ありがとうございます!」
至れり尽くせりだ!
こんなに快適でいいのだろうか。確かに圭たちを助けに行く手助けをするとはいえ、そこに至るまでが快適すぎる。
これは、かなり頑張らないといけないのでは。
私は使命感を強くする。
ここまでしてもらったのだから、できうる限りを尽くそう。もともと尽くすつもりではあったけれども。
「では、高速道路に入ります。途中、サービスエリアで一度休憩を取りまして、到着時間は12時となります。何かありましたら、遠慮なく仰ってください」
「はい、宜しくお願いします」
私はそう返事をし、そっと目を閉じた。
快適な車内と完璧な運転に、私はゆっくりと眠りに落ちていくのだった。