10月29日(火)-5
「まずは違和感の正体を確認することにし、桂木ともう一人を向かわせました。穴吹 水葉という、想創の力を持つものです」
「穴吹さんの、そうそう……?」
「思い描いたものを作り出す能力です。絵や文字にすれば、更に精度が増すようですが……おそらく、実際にご覧になられるか、本人に聞く方が早い能力です」
華嬢の説明に、こっくりと頷く。
うーん、分からない。
でも、簡単な説明だけで便利そうな気がした。思ったものを作り出せるなら、おにぎりとか作れそうな気がする。どうやるのかは分からないけれど。
「二人いれば、どちらかに何かがあっても対応できると踏んでいました。それに解決しに行ったわけではなく、確認のためだけに行かせたので。ですが、突如連絡が途絶えてしまったのです」
「連絡が……それは心配ですね。いつから連絡がないのですか?」
「今月21日に現地へ行き、翌日連絡があったのが最後ですから、今日で1週間になります」
1週間も音信不通になるとは。あの、圭君が。
「弊社社員に向かわせたり、依頼者である友重さんにも話を聞いたりしたのですが、分からないのです。あまり派手に動くと冬打村自体を刺激することになりますし、どういう状況でどうなったのかが分からない以上派手に動くのは得策ではないと思っています」
「そうなのですか? いっそ警察に捜索願を出してもいいくらいだと思うのですけれど」
私が言うと、華嬢は首を横に振る。
「音信不通になった原因の予測を挙げていきます。まず、何らかのケガや病気にかかり、身動きができない。これは近隣の病院に問い合わせた結果、違うことが分かりました。病院にかかれない状態での怪我や病気ならば、生存確率がほぼないと思っていいでしょう」
物騒な予測だ。だが、これは違うと思う。
圭ともう一人能力者である穴吹さんがいて、二人ともが同時に動けなくなるケガや病気にかかるとは考えにくい。
華嬢も説明しながらそう思っているようで、淡々としている。
「次に考えられるのは、連絡を取れない場所や立場にいる、ということです。穴吹の能力を使えば、連絡手段がないというのは変な話なのです。携帯電話などならば、電波のない場所で連絡ができないということはあるでしょう。ですが、穴吹はものを作り出す能力なのですから、それこそ伝書鳩なり作って送り込めばいいだけなのです」
おお、やっぱり便利そうな能力だ。
「ですが、現時点で連絡はありません。ということは、連絡を取らせないようにされているか、連絡を取ることにより調査が困難になるという状況に陥っている、ということなのです」
「そちらは可能性が高そうですけれど……圭君と穴吹さんの二人がいて、そのような状況になるものなのですか?」
「不可能ではないでしょう。調査だと思って警戒は下げた状態で行っているのですから、不意を突かれることもあるでしょう」
「捕らわれている、という事でしょうか?」
「可能性としては、あると思っています」
華嬢は真剣な表情で頷く。
「だからこそ、あなたに助力をお願いしたいのです」
「だからこそ?」
「厄付だからこそ、あなたという存在を桂木が感じ取れるはずです。また、厄喰らいの力を発揮できますし」
なるほど、能力への補給か。
「それに」
華嬢はそう言って、微笑む。なんだろうか、と小首を傾げるが、華嬢は「いえ」と言って首を横に振る。
「なんとなく、なのですけれど。あなたなら、大丈夫な気がして」
「ご期待に副えるかは分かりませんが、できる限りはやろうと思います」
私はそう言って、笑った。
自分にあるのは体質だけで、華嬢たちのように特殊能力がある訳ではない。それでも、その体質こそが助けになるのならば、助けないわけがない。