後編「終りの果てで夢をみる」
終りの果てで夢をみる。
私が自分の異変に気づいたのは、ほんのさっきのことだった。
ドクン。
私の歪な心臓が音をたてた。
その時が近いと、分かる、分かってしまった。
もうすぐ、屍になると、
「由夏どうした?」
隣に眠る和也が尋ねる。
「大丈夫。なんでもない」
私は言い聞かせた。
おかしい?
あと、3日はもつはずなのに・・・。
こんなのって。
悔しい。
私は悔しくて悲しくてどうしようもなくて震え続ける。
彼はそっと私を抱きしめてくれた。
翌日の戦いではその変化は収まっていた。
うん、なんとかなりそう。
さあ、今日も生きよう。
私たちは、前日と同じく駅の攻防戦に身を置いた。
ここを屍たちに突破されれば、一気に内の世界は崩壊する。
内の世界・・・ほんの数日前は私たちのものだった。
もう、これ以上、こんな思いをする人を増やしてはいけない。
そう思うものの、別にいいじゃんなんて考えている自暴自棄な私もいる。
私に残された時間はああとわずか。
一瞬、そんなことを思って、ぼんやりしていたのだろうか。
「由夏っ!」
和也の声に気がついた時には、屍に左肩を噛みつかれていた。
「痛いっ!」
くそう死ぬ前まで五体満足でいようと思ったのに、私は屍を蹴り飛ばした。
激痛が走り、肉がもがれた。
なんて日だ。
傷みも感じる分、私もまだ人間しているなと薄ら笑った。
「知るかっ!」
私は心を奮い立たせ屍を駆逐する。
数時間、血まみれの戦闘・・・もうすぐこの苦痛からも解放される。
死ぬことによって安息が得られるのだ。
不本意・・・・不本意だけど、仕方がない。
屍になって、こんなことをするくらいなら、この世にいない方がいいっ。
それは一瞬のことだった。
サクラさんとジミーさんが一瞬にして屍に飲み込まれた。
私たちの共闘中、突如、地がひび割れ崩れ、屍の湧き出る底へと消えて行った。
サクラさんは笑いながら手を振り、ジミーさんはサムアップをしながら・・・。
この期に及んで、どうして笑顔になれるの?
私は彼女の笑顔が脳裏にこびりついて離れない。
許さない。
絶対に。
私は和也とともに死地の中を踊り続ける。
夜が訪れた。
これが最後の日だ。
私はとびっきりの笑顔をつくり、愛する人を見た。
あっ、笑顔ってなるもんだなと、ふと、思った。
「和也」
私は彼を抱きしめる。
「ん?」
「ここでお別れ」
「え?まだ」
私は首を振る。
私の身体が人を留めるのは、もうあと少し。
「ダメだ!」
首を振る。
「嫌だ!」
大きく首を振る。
「ありがとう」
私は心からの言葉を彼に伝えた。
「一緒に生きてくれて」
空が完全に闇に覆われる頃、突如現れた金色の扉が開いた。
お迎えが来たようだ。
私は和也にキスをする。
彼は両手を震わせ、膝まづいた。
嗚咽が聞こえる。
私も涙かが溢れる。
そして、金色の扉を開いた。
なにもない部屋。
すると、ぱっと青の澄んだ昔見た世界が広がる。
そして美しい夕景へ。
「粋な演出ね」
私は、呟いた。
最後におだやかに死ねってことか。
目を閉じる。
愛する和也を思い浮かべる。
「ありがとう」
何度もそう呟いた。
自然と流れる涙。
嫌だっ!死にたく・・・。
乾いた音が響き渡り、彼女は崩れ落ちた。
終りの果てで夢をみながら。
完
完結まで読んでいただき感謝です。