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中編「戦い」

 熾烈を極める戦い。


 廃墟から出ると、ここが元いた世界かと見まごうばかりの破壊されつくした街の荒涼たる景色が広がっていた。

 それは世紀末、人類の終焉を感じさせるに十分すぎる光景だった。

 和也は息を飲む。

 由夏は二本の日本刀を両手に持ち、真横に構えた。

 屍の大群があてもなく彷徨っていたが、2人の姿を見た途端に襲いかかってきた。


 由夏は屍めがけ駆ける。゜

 一閃。

 斬撃が響く。

 ぽとり首が落ちる。

 彼女は踊るように舞いながら、慈悲など微塵も見せず、屍を斬り続けた。


「わわわわわ」

 和也は足が震え出し一歩も動けない。

 屍は容易そうな獲物へと標的を変え、彼に突進してくる。


「ぐもももももっ!」

 和也は肩を掴まれ、屍が頭に被りつこうとする。


 斬っ!

 背後からXの字に首を斬られ、屍の首が飛ぶ。

「しっかりして!こいつらは人間じゃない。分かっているでしょ」

 由夏は叫んだ。

「・・・だけど」

 あっという間に2人は屍の群れに囲まれる。

 この期に及んで和也の及び腰に、彼女は憤りと怒りを爆発させる。

「そんなんじゃ!あなたもあたしも本当に死んじゃうよ」

「!」

 和也は彼女の言葉でぷっつと心が切り替わった。

「うおおおおおおおっ!」

 屍たちにマシンガンをぶっ放し、次々と倒していく。

「それでいいのよ」

 由夏は踵を返し、背後の屍たちを斬り伏せる。

 

 戦いは一時間を過ぎ、二時間、三時間・・・果ての見えない2人の殺戮が続いた。

 だが、全く疲労感はなく、集中が途切れることはなかった。

 とにかく、倒して倒しまくる。

 気づけば和也は嬉々として屍を殲滅せんとする自分にゾッとした。

 そうして、空が白んでくる。

 屍たちは何処へと消え去り、戦いは終わった。


「ふう」

 由夏はその場に崩れ落ちた。

「・・・終わったのか」

 和也は息を切らせ片膝をついた。


「とりあえずね」

「とりあえずか」

「あいつらは、陽がのぼると活動が出来ないの」

「ゾンビだもんな」

「そう」

「これからどうするんだ?」

「ん、豪遊」

 彼女はしたり顔で笑った。


 かなりの過酷な運命を背負わされたゾンビハンターたちには、世界各国より、その生ある限り、かなりの優遇措置がとられていた。

 プライベートジェットで移動自由、すべての衣食自由、豪華ホテルにも泊まり放題、ありとあらゆることがフリーパスとなっていた。


 2人は、まず、現存する都市で、高級ブランドショップに立ち寄り庶民時代には、手が届かなかったスーツやドレス服飾品を身につけた。

 続いて、カジノで豪遊、ヘリコプターで空の散歩、ラウンジで一杯、そして3つ星ホテルへと着いた。

 スイーツルームのベッドに由夏は飛び込んだ。


「さぁ、明日も、もっと遊ぶわよ」

「元気だな」

「時間は少ないの。謳歌しなくっゃね」

「ああ」

「さてと、お風呂行ってくる」

「・・・うん」

「するよね」

「・・・何を」

「決まっているでしょ」

「うん」

「・・・一緒に入る」

「うん」


 2人は抱き合って愛しあった。


「じゃ、あと3時間ね。寝よっか」

「ああ」

 3時間後には、また地獄の戦闘が待ち構えている。

 和也は静かに目を閉じた。


・・・・・・。

・・・・・・。

・・・・・・。


 浅い眠りの中、和也は目を覚ました。

 由夏のすすりなく声が、嗚咽が聞える。

 彼は彼女の背中をそっと抱きしめた。



 ふたりは屍群から駅を守る攻防戦に身を置いた。

 今回は2人以外にも、ゾンビハンターが加わり共闘戦となった。

 わずか2日目にして、和也は屍との戦闘に才能を発揮する。

 寸分たがわぬ急所への攻撃精度は増すばかりである。


「和也、うしろっ!」

 由夏の声に、

「おう!」

 和也は応じて振り返り、屍こめかみに一発打ち込む。

 由夏が日本刀を一閃、首を斬り取る。


 次から次へと湧いて出てくる屍たち、時間の経過とともに初日とは違い和也に疲労の色がみえだす。

「くそっ」

 和也は血まみれの目をこすり、視界を確保する。

「一旦、建物の影に隠れましょう」

 由夏のアドバイスにふたりは身を潜めた。

「キツイ」

「でしょうね」

 彼女は涼し気に言った。

「どうして?」

「昨日は緊張していたからでしょ」

「だからか」

「多分」

「そっか」

「うん」

 2人は見つめ合い、苦笑する。


 瞬間。

 隠れたビル真上の窓より屍たちが飛び降りて飛来する。

「上っ!」

 見知らぬ声が響いた。


「サクラっ!」

「分かっている」

 屍を追いビルから飛び降りた2つの影、男性は鉄の鎖を放ち空中で捕える。

 サクラと呼ばれた女性は、チェーンソーで瞬時に屍たちの首を斬り落とした。


2人は屍たちの身体を踏み台にして着地の衝撃を和らげる。

「アンタ達、危なかったな」

 男は言った。

「シジミ、偉そうに」

「俺はシジミじゃない。ジミーだ」

「半分、死んでいるからシジミじゃん」

「・・・サクラ、全然面白くないぜ、それ」

「そう?」

「おっと!」

「散会っ!」


 4人の眼前の地中から屍たちが這い出て来る。

「マイコージャクソンのスリラーかよ」

「へー、やっぱアメリカ人ってマイコーって言うのね」

「五月蠅い。集中しろ」


「皆、しゃがんで」

 和也はそう言うと、反転しながらマシンガンを連射した。

 続いて由夏が駿足で屍の首を斬る。


「お返しされちゃった」

 サクラはてへぺろボーズをとる。

「ふん」

 ジミーは鉄鎖を宙で5回転させ、さらに地上へと湧いて来る屍たちを拘束する。

「はーい」

 ブィーン。

 サクラのチェーンソーが高い音をたてたかと思うと、屍たちの首が転げ落ちる。


 やがて陽が落ち、夕焼けに駅が染められ、血だまりの色と同化する。

 果てのない戦い。

 日暮れと共にこの日の激戦は終わった。



 果てのなき。

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