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1.藁人形を釘から外すことにした。


 橋の出口に辿り着いた瞬間に入口に戻される。

 橋の手すりに釘で打ち付けられている赤黒い藁人形は、この奇妙な状況の「鍵」になっていると思われる。



「…………」


『………ア』



 私が再度その藁人形に手を伸ばすと、彼女───幽霊とおぼしき制服姿の少女は、悲壮な声と表情でこちらに手を差し伸べる。

 やはりその藁人形には、触れて欲しくないらしい。


 そうしたやり取りの中で、1つ気づいたことがある。



「やはりそこから動こうとはしないな。

 いや……動けないのか?」



 彼女は橋の中央から1歩も動いていない。這ってくるようなこともしていない。

 彼女は今も焦りの表情でこちらに手を向けているが、それでもこちらに近づくことはない。


 このことから、私が次に起こす行動に対し、彼女が襲い掛かってくる可能性は低いと予測した。

 私の身の安全は保たれる。きっと、大丈夫であろう。


 私が橋の向こう側に行くには、やるしかない……と覚悟を決める。



「…………」


『アア』



 私は初めてその藁人形に指先で触れた。

 ───ヌチヤリ……とした粘液質の感触に、怖気おぞけが走る。



『アアア』


「あいにくと釘抜きは持っていなくてね。……私だって帰りたいんだ、よっ!!!」




 藁人形の足を掴み、思い切り引っ張ったのである。

 藁を引き裂くのではなく、ねっとりとした何かを引きちぎる感触であった。そして



『アァ……』


「ーーッ!!?」



 その瞬間を、私は目にしてしまう。

 やおら立ち上がった彼女の腹部が肋骨の方向に袈裟斬りに裂け、くの字に折れ曲がったのである。



『……ァ……』



 直後、その裂け目に吸い込まれるようにして彼女の身体が消えた。



「…………」



 私は呆然と、しばらくその場で立ち尽くした。

 ……何か酷く、とんでもないことをしてしまったのではないだろうか?


 気がついたら手で掴んでいた藁人形の残骸も消えていた。

 赤黒い液状物の汚れとドロリとした不快感が、私の手に残る。



「………帰ろう」



 橋の出口に向かってとぼとぼと歩き始めた。



■■■■■

■■■



 橋の出口の向こう側には、問題なく辿り着くことができた。

 やはりあの藁人形と霊の存在が、橋の向こう側、今となってはこちら側だが……に行けなかったことの原因、「鍵」であったらしい。


 つまり、彼女の施した結界? ……によって私は閉じ込められていた。

 そう考えると、私がやったことに罪悪感を感じる筋合いはないであろう。


 橋のこちら側は児童公園となっており、それを抜けた目と鼻の先に、自宅のアパートがある。



「…………」



 さすがにこんな遅い時間に人はいない……と思いきや、街灯に照らされた公園のベンチには一人の少年が座っていた。


 彼は黒いパーカーに同色のデニム、スニーカーといった格好で、腕や足、腹から肩にかけて、擦ったような赤い汚れがある。

 名前は知らないが、自宅のアパートで何度かすれ違ったことがある、同じアパートの住民……であったはず。



「?」



 一瞬彼と目があった気がしたが違ったか。

 彼は俯向うつむいていながらも、周囲にギョロギョロと視線を揺らしている。

 落ち着きのない子であったと私は記憶しているが……ここまで酷かっただろうか?



「…………」


「……ぉ……、……っ」



 私は怪訝に思いながらも、顔見知りであるため会釈えしゃくしながら、ぶつぶつと小声で独り言を呟いている彼の横を通り過ぎた。


 次の瞬間であった。







 ザリ……───ズン





「?」



 私の腰に、何かを突き入れられる感じがした。

 直後に熱を帯びてくる。


 何だろうと思いその箇所に手を当てるとドロリとした感触があり、激痛が走った。



「……ぁあ、あ゛」



 激痛に立っていられず、腰を手で抑えながら地面に倒れ込む。



「たすけ……ーーっ!!?」



 助けを呼んでもらおうと少年に振り向き、私はそれを見る。


 ポタポタと赤い液体……私の血液であろう───を滴らせた、剥き出しのアーミーナイフ。


 それを両手で握りしめ、刃先をこちらに向けて私を見下ろす少年。



「……ヒヒッ!」



 頬を引きつらせてわらうその表情は、明らかに常軌を逸していた。

 少年は……そいつは、ゆっくりとこちらに近づいてくる。



「────あ」



 出血で意識が朦朧とする中で、私は思い出した。


 私は、既に2度、それに刺されている!



「………」



 1度目は、あの少女とすれ違ってから橋を渡った後。


 2度目は、再度橋を渡った後。


 

「………な」



 橋の先の公園でこのように刺された後、橋の入口に元の状態で戻される。

 「元の状態」とは、私の記憶を含めたもの……だとすると、私の主観では、橋から出た瞬間に入口に戻されるものになる。



「………んな」



 そのような恐ろしく非現実的な現象を引き起こしていたのは何か?

 もちろん、あの少女と藁人形である。



「………そんな!」



 その藁人形と少女をこの手で壊してしまった私には、恐らく再挑戦コンテニューの機会は得られない。



「……そん……な」



 ……そろそろ痛みの感覚がなくなってきた。

 間もなく私は、息を引き取るのであろう。

 その時、今度こそ私は



「…………」



 これも、因果応報と言うのだろうか。

 失意に沈むとはこのことか?


 そんな人様にとっては取るに足らないであろうことを、最後の瞬間まで考えていた……。




 エンド1 新たな犠牲者



▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼



 情報開示(条件:エンド1到達)


 呪具「未練の藁人形」


 橋の上で腹部を刺された後に川に落とされて死亡した当時16歳の少女が、その時に感じた恐怖と未練によって生じた呪具。

 釘に打たれ血に染まった藁人形の形態を取る。

 被呪者である少女と、少女の死亡後に最初に通りがかった被呪者である男性を中心に、以下の3つの現象を引き起こす。



・現象1:「御霊縛り」

 少女の「あの世に行きたくない」との願いに応じて生じた現象。

 死亡した少女の魂を、その死亡した場所に固定する。

 本現象によって固定——縛られた魂は、その場所から一切動くことができない。


 なお、日本においてしばしば目撃されるいわゆる地縛霊は、これによるものである。



・現象2:「時遡り」

 少女の「無かったことにしたい」との願いに応じて生じた現象。

 生存中の被呪者が第三者に殺害されたことを条件に、過去の時間にさかのぼる。


 なお「時遡り」自体は被呪者の記憶を保った状態で過去に遡るものであるが、次の現象によってその記憶は自動的に失われる。



・現象3:「恐怖の忘却」

 少女の「恐怖を忘れたい」との願いに応じて生じた現象。

 上記「時遡り」の発生に応じて発生し、被呪者が殺害された時に感じた恐怖心を、その殺害時点までの一定期間の記憶ごと奪うことによって忘却させる。

 不安定な現象であり、そのように忘却された記憶は、被呪者が殺害された時と同様の体験をするなどのきっかけで戻ることもある。


これまでお読みいただきありがとうございます。これにて本話は一応のエンディングを迎えました。まあまあ面白いかな? などと思っていただけましたなら、是非ご評価・ご感想をお願いいたします! ……まだ完結はしていませんが。

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