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5.基本事項の通達

「まずはヘルムート様の生活環境を改善しなければなりません」

 わたしは、ボサボサの黒髪と目の下に紫色のクマのあるヘルムート様に、キッパリと告げた。


「毎日八時間、睡眠をとっていただきます。魔獣に襲われて逃げているとかでない限り、必ず毎日、八時間の睡眠を確保してください」

「八時間? 無理……「なら結婚も無理です」

 食い気味に言うわたしに、ヘルムート様が戸惑ったような目を向けた。


「……睡眠時間と結婚に、何の関係があるのだ」

「関係大アリです」

 わたしは力強く言った。

「ヘルムート様、ご自分を鏡でご覧になったことあります? ひどい顔されてますよ」

「おまえ、はっきり言いすぎじゃないか」


 ヘルムート様は顔をしかめたが、わたしは気にせずサッと手鏡を取り出し、ヘルムート様へと差し出した。

「ご覧になって、ヘルムート様。髪はボサボサ、お肌は荒れて目の下には紫色のクマがくっきり。まるで死人ですわ」

「……おまえ、もう少し言いようってものが」

「言葉を変えても現実は変わりませんわ」

 わたしはヘルムート様に、キッパリはっきり告げた。


「いいですか、ヘルムート様。女性の心を掴みたいと思われるなら、まずご自身を大切になさって下さい。ご自身を粗末にし、髪も肌も荒れほうだい、死体のようにボロボロのお方と、ツヤツヤの髪にぴかぴかのお肌をされた健康的なお方、他の条件が同じなら、みな後者を選ぶはずですわ」

「…………」

 ヘルムート様が沈黙した。


「今日中に、ヘルムート様に守っていただきたい項目を記した書類をお届けいたしますので、それをキッチリ順守なさってください。ヘルムート様が書類の指示に従ってくだされば、一か月後、わたし達は次の段階へ進めます」

「一か月……」

「お肌や髪に成果が出るには、最低でも一か月は必要なんです。今回は時間がないので、魔術にも頼って予定を少し早めさせていただくつもりですけど」


 わたしは頭の中で、素早く今後のスケジュールを組み立てた。

 三か月しか時間はない。が、土台をおろそかにする訳にはいかない。ここが一番肝心なのだ。手は抜けない。


「魔獣討伐に出られている間のお食事ですが、野営ですとどうしても栄養が偏りがちなので、簡易栄養補助食品もお出しいたします。必ず必要量を摂取してください」

「あれ、不味いんだが」

「好き嫌いを言えるようなお立場ではないということを、ご理解なさって下さいませ」

 ビシバシ言いながらも、わたしはにっこり微笑んだ。


「ヘルムート様、わたし達の目指すところは同じです。ヘルムート様のお幸せのために、わたし達は一丸となって努力しなければなりません!」

「う、まあ……、そうだな……」

 引き気味のヘルムート様に、わたしは念を押した。


「いいですかヘルムート様。細かいことは書類に書いておきますが、絶対に、これだけは! お守りいただきたいのです!」

 わたしはヘルムート様を見つめ、一語一語、区切って言った。

「睡眠は、八時間! バランスのとれた、栄養摂取! わかりましたか、さあくり返して!」

「す、睡眠は、八時間……」

「バランスのとれた栄養摂取!」

「バランスのとれた……、おい、言っておくが、今までだってちゃんと食べてたぞ」

「なに言ってんですかそんなボロボロのお肌で! どうせ肉と甘いものばっかり食べてたんでしょう!」

「甘いものを食べないと体がもたないんだ!」

「そんなの偏食の言い訳です!」

 わたしとヘルムート様は、机を挟んではったと睨みあった。


「……甘いものを食べるなとは言いません。が、量は減らしていただきますよ」

 ヘルムート様が絶望したように呻いたが、ここで甘い顔をするわけにはいかない。

「ヘルムート様、一か月です。一か月、わたしの言う通りの生活を送ってみて下さい。きっと一月後には、ヘルムート様ご自身も驚くほどの変化があらわれるはずですよ」

「……ほんとか……」

 詐欺にあってる気がする、という呟きは、聞かなかったことにしておこう、うん!


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