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4.悪魔との契約

「……いったい何が条件だ?」

 ヘルムート様は探るような目でわたしを見た。

「いやですわヘルムート様、幼なじみの幸せの為にお力添えをすると申し上げておりますのに」

「それだけではなかろう」


 ヘルムート様は仏頂面で言った。

「おまえが入団してからというもの、魔術師団からベルチェリ商会への注文度合いは、飛躍的に増えている。今や我が魔術師団が購入する物品の半分は、ベルチェリ商会を経由したものだ」

「ご注文いただいた品すべてにおいて、非常に高いご満足をいただいているものと自負しております」

「……これ以上、何が望みだ。魔術師団を乗っ取りたいのか? それとも宮廷を?」

「何ということをおっしゃるのです」


 ヘルムート様の言葉に、わたしは目を吊り上げた。

「いくら何でもそれは言い過ぎですわ。商いは、商売相手あってこそです。商売相手を乗っ取って、それで何かベルチェリ商会に利するところがありますか? 太く長いお付き合い、それこそがベルチェリ商会の望むものです。商売相手の安定した金銭状況、ひいてはお幸せな環境こそ、ベルチェリ商会を更なる発展へと導くのです。敵対や乗っ取りなど、求めておりません」

 ベルチェリ商会は平和主義なのだ。金儲けできれば何でもいいという、死の商人と一緒にしないでいただきたい。

 ふんっと鼻息荒くそう訴えると、懐疑的な表情ながら、ヘルムート様はそれ以上の追求はやめてくれた。


「……まあいいだろう。おまえの目的はわからんが、確かにベルチェリ商会はこれまで商売相手と問題を起こしたことはないからな」

「お分かりいただけましたか」

「いや。……私が結婚できたとして、それがどうしてベルチェリ商会の利益につながるのか、さっぱり分からん」


 わたしはヘルムート様に噛んで含めるように言った。

「ヘルムート様、貴族同士の結婚にどれほどお金が動くか、ご存じないのですか。ましてやヘルムート様は、宮廷魔術師団長にしてマクシリティ侯爵家ご次男という尊い御身。さらにはご自身でもおっしゃっていた通り、ヘルムート様は貴族の中でもかなりの財力を誇っておられます。……そのようなお方のご結婚を取り仕切らせていただいたとなれば、どれほどの利益がベルチェリ商会にもたらされるか、お分かりになりますでしょう」

「ふむ……」

 ヘルムート様は顎に指をあて、考え込んだ。


「私の結婚にまつわる用意すべてを、ベルチェリ商会に一任すればよいのか? そうすれば、私の願いを叶えると」

「ご理解いただきまして幸いにございます」

 深々と頭を下げると、わかった、とヘルムート様の声が聞こえた。


「いいだろう、私の結婚に必要なものは、すべてベルチェリ商会に一任する。……その代わり」

「ええ、お任せください。必ずやヘルムート様のお望みを叶えて差し上げます。三か月、それだけいただければ、ヘルムート様は愛しい婚約者様をその手にお抱きになっていらっしゃいますわ」

「三か月……」

 本当か、と小さくヘルムート様がつぶやいた。


「ヘルムート様は、ご自分をお分かりではないんですわ」

 わたしは少し笑って言った。

 ヘルムート様は魔術の天才だが、ちょっと俗世に疎すぎるうえ、自分を客観視できていない。

「話し方や見た目、振る舞いを少し変えるだけで、ヘルムート様、きっとモテモテになりますよ!」

 なんと言っても顔はいいですしね! とあえて砕けた口調で言うと、ヘルムート様は毒気を抜かれたような、脱力したような表情でわたしを見た。


「……昔、同じようなことを言っていたな。私が、か……、可愛いから、将来モテるだろう、と」

「ヘルムート様、覚えていらしたんですか」

 少し赤くなってうつむくヘルムート様に、わたしは微笑みかけた。


「わたしは間違ったことは申しません。ヘルムート様は、きっとモテモテになりますわ! そして想い想われたお相手と、幸せな家庭を築かれるのです! すべてこの、ライラ・ベルチェリにお任せください!」

 わかった、とヘルムート様は頷き、そして小さく「なんだか悪魔と契約したような気がするな……」とつぶやいた。


 失礼な! 皆さまを支え見守る一生のお友達、というのがベルチェリ商会のモットーなんですよ!


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