プロローグ
「はぁ……今回も不採用か……。」
自宅に届いた書類を見て嘆く。これで15件目だ。
さらに、学生時代バイトでコツコツ貯めた貯金も、もう底をつきかけている。
「もう死ぬしかないかな……私……。」
せめて希望をと、スマホで求人募集のアプリを開く。
トイレの清掃 時給800円 経験者のみ 〇〇公園
ゴミ収集 時給700円 経験者のみ 〇〇清掃
動物園の糞清掃 時給750円 誰でも歓迎! 〇〇動物園
「ううっ!なんでまともな職がないんだ……。」
さらに職を探すため、〇〇募集!などのサイトを片っ端から見まくった。
その時に一つの募集に目が行く。
Vtuber募集中!給料は能力次第! モープライブ株式会社
Vtuber?確か絵が動いて実況するみたいなやつだったな。
「応募してみようかな……」
昔から声には自信がある。『声だけだったら可愛いのにな。』
と言われたこともある。当時は悔しくてたまらなかった。
でも、その声が注目されるかもしれない……。
気がつくと私はもう応募をしていた。
応募が完了した後の画面には〇〇ビルで×月△日▫︎時に審査をするとかいてあった。
運命の審査の日。ビルの外には1000人程度の人が集まっていた。
審査についての説明の後、私はビルに入った。
審査は用意された八行の原稿を読むだけの簡単なもの。
私の番になり、緊張しつつも原稿を読む。
試験自体はそこまで長くなかったはずだが、緊張のためか長く感じる。
試験は終わり、噛むこともなく読む事ができた。それでもやはり不安である。
「大丈夫かな……?」
その後、私はビルを出ると帰路に着いた。
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審査が終わった2日後にスマホにメール通知が来た。
スマホを握る手には汗が出ていた。
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〇〇様
いつもお世話になっております。
この度は我がモープライブ株式会社のVtuber試験に
ご応募していただき、誠にありがとうございます。
さて、今回の試験ですが
「
合格
」
いたしましたことを通知させて頂きます。
合格者の方は打ち合わせがございますので、試験会場と同じビルに
2日後の×時にお集まりください。
株式会社モープライブ
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「え、合格?嘘でしょ……。」
落ちても良いかな。程度の気持ちで試験に臨んでみたがまさか合格するとは……。
「少し……希望が見えたかな。」
2日後――
私は2日前に試験をしたあの会場にまた来ている。打ち合わせのためだ。
ビルに入り、まっすぐ進むと受付があった。
「ようこそお越しくださいました。御用件をお伺いします。」
そう聞かれ、
「あ、えっと〇〇です。Vtuber試験の打ち合わせで……。」
と答える。
フロントの受付嬢は落ち着いた様子で、
「はい、了解いたしました。〇〇様ですね。話は聞いております。では、本人確認をさせて頂きます。身分証などをお持ちでしょうか?」
と言った。
身分証……財布の中には……おっ。マイナンバーカードが入ってる。
「これで良いですか?」
マイナンバーカードを渡す。
受付嬢は、
「大丈夫ですよ。打ち合わせ室は、こちらまっすぐ行っていただいて、そちらのエレベーターで2階へ上がると正面にございます。」
「ありがとうございます。」
私は軽く礼を言うとエレベーターへ向かった。
2階へ上がり、エレベーターのドアが開くと、目の前に打ち合わせ室とスーツ姿の男性が立っていた。
男性はこちらに気づくと、
「〇〇様。お待ちしておりました。どうぞ中へ。」
と言った。
部屋に入るとそこには白い机と椅子が二つ。
机には何やら書類等が用意されていた。
「申し遅れました。私〇〇様のマネージャーを務めさせて頂きます、吉川と申します。よろしくお願いします。」
男性……吉川さんが挨拶をしてくれた。
「こちらこそよろしくお願いします。」
挨拶を返したところで吉川さんが席に座ってくださいとジェスチャーで伝える。
2人共席に着くと吉川さんが話を切り出した。
「ではまずこちらですね。契約書になります。印鑑かペン持っていますか?」
契約書についてらしい。印鑑を取り出し、判を押す。
「ありがとうございます。次にVtuberになるために必要な絵、ガワと呼ばれるものですね。こちらなんですが……」
話は約3時間程続いた。初配信の日程やSNSのアカウント作成、Yautubeのチャンネル作成等はこちらでしてほしいとのこと。
また、モープライブの方で私の声に合うイラストや決め台詞的なもの、さらに名前までも考えてくれたらしく、あとはこちらの同意があればすぐにでも完成させることができるらしい。
イラストはVtuberの命と言っても過言ではない。ただ、私自身そんなに絵が上手いわけではないので、イラストレーターの人に描いてもらったものを選ぶ感じだった。
私が選んだものは清楚系女子のイラストだ。髪の毛は長く、ツヤがあり、着物を着ている。
イラストは決まったのだが、決め台詞に関しては自分で考えることにした。初配信の4日前には決めておき、連絡をしてほしいとのことだった。
会社の方で告知をしてくれるそうだ。確か私は3期生だったかな?
私はマネージャーさんに挨拶をしてからビルを出て、家に帰る。
月乃 姫莉夜……。これが私のもう一つの名前。
「月のお姫様、か。」
私はそう呟くと、ふっ。と笑って青に変わったばかりの横断歩道を渡った。
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裏話ですが……
姫莉夜ちゃんの本名は少し話が進むとわかるようになります。
多分。