5.トリック考
「で、私思ったんですけど……たとえば、『出雲』で山陰本線に入る直前の京都まで行って、東海道本線で岡山へ。
そして、社長を殺し、出雲市のほうへ行く特急に乗ったとしたら、『出雲』の終わりのほうに間に合わないのですか?」
「え? なるほど……」
麗香は、その瑞穂の言葉に目を見開いて時刻表を開く。
「えっと……『出雲』が京都につくのが夜中の3:39……朝5:22の新快速で姫路で乗り換えて……岡山が8:53……で特急やくも……。
あら」
「どうなさいました?」
「『出雲』に追いつくには岡山で7:24のやくも1号に乗る必要があるわ。
でもそれでは間に合わないでしょう……」
「では京都や大阪から新幹線では……」
瑞穂は食い下がる。
「そうね……京都の始発の新幹線では無理かしら……。
新大阪なら……5:07の列車に乗れば新大阪到着は5:50……えっ!?」
「どうなさいました?」
急に大きな声を上げた麗香に驚きながら瑞穂が声をあげる。
「新大阪で、6:00発の新幹線に間に合って……岡山到着は6:51……」
「じゃぁ……」
瑞穂がうれしそうに声をあげた。
「ええ……岡山で7:24のやくも1号に間に合いますわ!
で、安来で『出雲』においつき、宍道で、春奈さんに駅名表示板を見せるには十分!
そして……岡山の駅からホテルまでは5分もかかりませんから、30分あれば社長さんを殺めて、岡山の駅に戻ってこれますわ!」
「麗香さん!」
二人は手を取り合って、喜んだ。
そして程なく岡山県警に聞き込みに行った真帆と美由香が戻り、事件は解決――のはずであった。
「あら、麗香が珍しくうれしそうじゃない」
「ええ……こちらの件は後回しにして……そちらの聞き込みの収穫を教えていただけません?」
うれしそうに麗香が答える。
「そうね……えっと、被害者は間違いなく、浜坂雅夫さん。
で、死亡推定時刻は、今朝四時半過ぎ……」
「えっ!?」
「そんな……!」
その報告に、麗香と瑞穂が絶句する。
「ん、何かあったのか、二人とも?」
不思議そうに鶴川警部が二人に問う。
すると、いち早く元に戻った麗香が事の次第を説明する。
「なるほどね……確かに、三十分ほどしかなければ、できそうな偽装工作もない……。
でも、死亡推定時刻は確実よ。
この事件では、死体の発見も早かったし」
「発見が早かったんですか?」
瑞穂が真帆に聞く。
「ええ。
6時前には県警についていたそうよ」
「ということは……」
「残念だけど……」
こうしてアリバイ崩しは振り出しに戻った。
「……とりあえず」
それから、麗香も瑞穂も元気がなかったが、先ほどの書類や春奈の話をしているうちに少し復活しつつあった。
「その書類は後で証拠になりそうね」
「ええ……しかし、殺人の証拠には……」
「ならないわね……」
今度は真帆までまた溜息をつく。
「あの……」
そのとき、美由香が麗香に声をかけた。
「所長、こんなときこそ、『謎』の整理です。
何かありませんか」
「ええ……では第五の謎。
死亡推定時刻が早朝だったのはなぜか」
「そういえば……それも謎ですね」
「ええ……もちろん、彼が犯人であれば夜に殺すことはできなかったから、その謎は解けたようなものだけれど……」
「そうですね……後は何かありますか?」
「あとは……第六の謎。
彼が犯人だとしたら、どうやってアリバイ成立させたのか」
「たしかに……」
「そう……彼が犯人だとすると必ずアリバイトリックがあるはずなんです」
麗香がそういうと、また溜息をつく面々だった。
少し短いですが、おそらく次回最終回?