4:かたき討ち
「さて、つきましたわね」
三人を乗せた新幹線は岡山に到着した。
「では、瑞穂さん、同僚の方のところにご案内いただけますか?」
「あ、ハイ」
「では、真帆さん、よろしくお願いします」
「任せておきなさい」
鶴川警部が胸をたたく。
「美由香、しっかり真帆さんをサポートして差し上げて」
「了解しました、所長」
「では、後ほど岡山駅で合流いたしましょう」
麗香がそういうと、四人は二手に分かれた。
麗香が瑞穂に案内されたのは、岡山駅近くの喫茶店だった。
「こちらが昨日、専務について『出雲』に行った鮎川春奈さんです。
春奈、こちらは、私立探偵の水無月さん」
「ごきげんよう、よろしくお願いします」
「あ、こちらこそ……」
紹介された鮎川春奈は、麗香のお嬢様オーラにたじたじになる。
「では早速なんですが、昨日の夜、『出雲』にお乗りになったそうですね」
「ええ……専務と一緒に」
「その専務さんを昨日の夜最後に見かけたのは……」
「えっと……実はあまり覚えていないんです」
「覚えていない?」
「ええ……昨日、東京駅を出てすぐ、専務と少し飲んでいたらすぐに眠くなってしまって……」
「眠くなった?」
「ええ……しかも、今朝はすごい二日酔いで……。
実は今も少し……ただ、出雲市駅手前の宍道駅を通っている頃に専務に起こされたのは覚えているんですが……」
「宍道駅ですか……」
「ハイ。専務がそういっていたので、外を見ましたら駅名表示板が見えました」
ということは、それは確実だ。
「あの……専務が何か?」
二日酔いだということだが、春奈は探偵であるということを聞き逃さず、気になっていたようだ。
「たいしたことではないんです……ただ少し彼に疑わしい部分がありまして……」
「疑わしい?」
「そう。春奈だって聞いたでしょう、社長の話」
「そういえば……で、専務が殺したと?」
春奈は興味津々、という顔で麗香に聞いてきた。
「いいえ……岡山県警では自殺としたらしいですし……。
まだそこまでは……」
麗香が言いよどむ。
「確かに、専務と社長はライバルでしたけど……そんなことするなんて……」
「ええ……まぁあなたが証明した完璧なアリバイもありますから。
ご協力ありがとうございました」
「いえ……じゃぁ瑞穂、私先に東京に戻るわ……。
何かわかったら私にも教えてくださいね、探偵さん」
春奈はなぜかうれしそうに麗香にそういって岡山の駅に向かった。
「そういえば、瑞穂さん」
「ハイ、なんでしょうか?」
春奈が帰ると、麗香は瑞穂に声をかけた。
「あなたがその専務さんに不信を抱いた理由、そろそろ教えていただけませんか?」
瑞穂にとってそれは不意打ちだった。
しかし、真剣そのものの麗香の視線に、真実を語る決心をした。
「えっ……あ、ハイ……実は、私……両親が、その、いないんです」
話しにくそうに瑞穂は声を出した。
「ええ」
「で、遠縁である社長のお兄さん夫妻に育てられまして……社長にもいろいろと面倒をみていただいたんです。
そして、自分が社長になると、私を秘書に雇っていただきました。
そのとき……この人に一生ついていこう、そう私は思いました……」
「なるほど……」
「それで、あるときのことなんですが……社長が、その、今話題になっている専務に横領の疑いがあると……。
それを調査中であると言っていたことがあるんです……。
だからきっと……この事件はそれを隠した上に、自分が社長に納まろうとしているのではないかと……」
「!?」
麗香は、その顔に瑞穂の本性が見えた気がした。
もしそれが本当なら、絶対に許さない、そんな顔だった。
「そんなことはさせない……もしこれがあの人の仕業なら、私の親友の春奈ちゃんまで巻き込んでしまっているから……。
それに……これは正直私の主観が入ってしまうんですが……私、専務のことは好きになれませんでした」
「……」
「狡賢い、政治屋みたいな男……自分がえらくなるためなら、手段は選ばない。
そんなイメージで私が見ているからかもしれません……」
「瑞穂さん……」
麗香は、熱くなっている瑞穂に声をかけた。
「敵を討ちましょう。
あなたの恩人を殺した敵を……」
「水無月さん……」
瑞穂はそういって力強く微笑む麗香を見つめた。
「仮にその方が犯人であっても、犯人でなくても……あなたの恩人の敵は絶対に討ちましょう。
その手助け、私がいたします」
「……ありがとう、ございます……」
そういって瑞穂は泣き笑いのような表情になった。
「……ああ、そうそう、これを……」
瑞穂はそういうと、バッグから書類を出した。
「これは……」
「横領の証拠です。
数日前、社長からコピーを渡されました」
「……瑞穂さん」
「実は私、あなたを試していたんです……でもあなたにならこれをお見せできる、今そう確信しました」
「……ありがとう。
これで一歩、恩人の敵討ちに前進することができました」
「よろしくお願いします、麗香さん」
瑞穂はすっかり泣き止み、力強く笑った。
以前、大学のサークルで本を出したときにこの作品を書いたというのは書いたと思いますが、その際にいくつか挿入イラストを描いていただく機会があり、「宍道駅」の駅名標を注文した覚えがあります。
わざわざ本物を参考にして書いていただいて非常にありがたかった覚えがあります。
そんな裏話。