3:東京駅
そして三人がやってきたのは、○Rの東京駅。
もちろん、駅員に昨日の運行状況などの必要事項を聞くためである。
鶴川警部の警察手帳が利いて駅員によって、すぐに助役に話を聞くことができた。
「確かに『出雲』も『サンライズ出雲』も東京駅発は通常どおりでした。
もっとも『サンライズ出雲』は沼津運休ですが……『出雲』は通常どおりに出雲市についたと聞いております」
「なるほど……では昨日、『出雲』に乗った車掌さんは……」
「東京発車時点での車掌でしたら、今おりますはずですが……」
「その方にもお話が聞きたいのですが」
「ええ……こちらへどうぞ」
そういって助役は、車掌のところにかいがいしく案内する。
「……そういえば、昨日はご愁傷様でした……」
麗香はふと思い出し、助役に言った。
「え、ああ、『サンライズ出雲』のことですか?
ええ……まぁ『サンライズゆめ』用の車両をしばらくは使うことになりそうです。
そういえば……」
すると助役もふと思い出したようにこう続けた。
「昨日ちょっとおかしなことがあったらしいんです……」
「なにか?」
「ええ……実は、東京駅に爆破予告が入りまして……」
「あ、『サンライズ出雲』へのですね?」
納得したように麗香が答える。
しかし……。
「いえ……なぜか、『サンライズ出雲』ではなく『あさかぜ』に爆弾を仕掛けた、と東京駅に電話がはいりまして……」
「『あさかぜ』に?」
三人は顔を見合わせた。
「ええ……『あさかぜ』の13号車に爆弾を仕掛けたと。
しかも、13号車というところをことさら強調する電話でして……。
私が電話を受けましたので、覚えております。
昨日の2230ごろでした」
助役も不思議そうに答える。
「『あさかぜ』の13号車?」
「ええ……それで、『あさかぜ』を東海道本線の弁天島駅に緊急停止させまして。
13号車を中心に徹底的に調べてもらいました。
するとそのときに、再び犯人から電話がありまして。
『サンライズ出雲』にも爆弾を仕掛けた、『あさかぜ』のほうは解除した、と連絡がありまして。
その直後です、沼津で爆破が起こったのは……幸い、お客様も乗務員も死傷者は出なかったんですが……」
助役は残念そうな顔をした。
「なるほど……それで、『あさかぜ』への影響はなかったんですか?」
「いえ……名古屋の時点で5分、遅れておりましたそうです」
「5分、ですか……」
「ええ……あ、こちらです」
助役は『乗務員控え室』とかかれた部屋に、三人を招いた。
「私が、昨日寝台特急『出雲』の東京発車時点での車掌です」
助役から紹介された車掌は、好感の持てる人物であった。
「捜査協力感謝します、私、警視庁捜査一課警部の鶴川と申します。
こちらは、探偵をしています私の友人・水無月と助手の時任です。
早速ですが……昨日、東京駅でこの人物をお見かけではありませんか?」
「ああ、いらっしゃいました。
東京駅どころか、発車後しばらくしてから私に『先に乗車券をみせておきたい』とお申し出になりました」
「え?」
「あ、結構いらっしゃるんです。
特に『出雲』は東京発が22時を過ぎていますから、すぐに寝たいとおっしゃる方が。
で、横浜~小田原間で普段はお見せいただくのですが、横浜までに私にお見せいただければ、そのまま検札にも伺いませんから」
「なるほど……」
「しかも、四枚お見せいただきましたので……」
「四枚?」
「ええ。
向かい合わせの上下段・計四個所使っておられたようで……」
三人の頭に、?が浮かぶ。
「何か?」
「あ、いえ、ありがとうございました」
車掌と助役にお礼を言って三人は引き下がった。
「おかしい」
「ええ、おかしいですわ」
水無月探偵事務所に帰ると、三人はそう言い合った。
「ではまず、彼と『出雲』に乗っていたという女性に会わなければね」
「彼本人には?」
「……容疑が固まってからね」
真帆がそういうと三人はうなずいた。
「手がかりですか?」
「ええ……」
数分後、麗香たちは依頼者である冴原瑞穂を事務所に呼び出した。
「ですから……出雲市に行ってみたいと思います」
「なるほど……では、私もご一緒させていただきます」
「……そうおっしゃってくださるだろうと思いました」
麗香は微笑んで、東京~出雲市と書かれた切符を手渡す。
数十分後、四人は新幹線の中にいた。
麗香は、熱心に時刻表を見ていた。
「所長……?」
「美由香、書き留めておいてほしいの」
美由香が声をかけると、麗香は冷静にそういった。
「第一の謎。
犯人は誰か、動機は何か。
第二の謎。
寝台特急『サンライズ出雲』の爆破事件と関係はあるのか。
あるとすればどんな関係か」
淡々と麗香が語る。
「第三の謎。
寝台特急『あさかぜ』にあった爆破予告は今回の件と関係あるのか。
あるとすればなぜ数分前に覆されたのか、またどんな関係があるのか」
「? それって、どういうことですか?」
今まで静かに聞いていた瑞穂が聞いた。
その声に反応して、美由香が先ほど東京駅で聞いてきたことを話して聞かせた。
「なるほど……でも、今回の件とは無関係では?」
「そうかもしれません。
しかし私としては、なぜか気になるんです」
「なるほど……」
「では続けるわ……。
第四の謎。
なぜ彼は、東京駅を出たところで車掌に切符を見せたのか。
また四枚持っていたのはなぜか。
……今はこんなところかしら」
「そうね」
真帆がうなずく。
「あ、水無月さん」
瑞穂が不意に声をあげた。
「なにか?」
「彼と一緒に出雲に行った同僚が今岡山に向かっているそうです。
岡山でお会いしてみますか?」
「あ、それって都合いいわ。
麗香、瑞穂さんつれて会ってきなさいよ。
私はその間に岡山県警に行って話を聞いてくるから。
それと、美由香さん、こっちに付き合ってくれない?」
「あ、ハイ」
「ええ、では瑞穂さん、その方にお会いしたいとお話いただけますか?」
「ハイ、わかりました」
こうして岡山での行動が決まった。