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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
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扉越しの魔法

作者: 琥珀猿

 大人に近づけば好きな人は自然とできるって思ってた。歳を重ねれば大切なものは増えていくと思ってた。そんな僕を待っていたのは、愛する両親と兄の死と学校で行われるイジメで。毎日が苦しくて、これが悪夢を見てるだけであってほしい。毎日願った。


 いつの間にか学校には行かなくなって、一人で分厚い扉の内側、誰も何もない暗い部屋に座り込んでいた。何も考えず、今後を憂いて。いっそ死のうか、そう迷っては1日が終わっていく。


 ふとインターホンのチャイムがなって、我に帰る。時計を見れば夕方の5時半。またこんな時間になってしまったのか、自分自身に呆れと劣等感を感じながらノソノソと立ち上がる。玄関の扉の前に立ち、覗き穴から来客を確認した。


 しっかりと着こなされた新しいスーツ、誰だろう。爽やかで男前な顔に見覚えはなく、僕は扉越しに話しかけた。


「どちら様ですか?」


 声を出して驚く。ひどく渇いて掠れた声。いつから声を出していなかっただろう。


「あ、安西くんですか? 俺は今年から安西くんの担任になる古賀です!」


 あぁ、そういえば今は4月。学校にすっかり興味を無くしていて気がつかなかったが、世間はクラス替えの時期か。


「あ、あぁ。安西です...でも、先生。俺、学校行く気ないので」


「そう...ですか。わかりました安西くん。それならそれで先生は構わないです。ただ偶にでいいのでこんな感じに話に来ていいですか?」


「...来るのは、構わないです。出れるかは、わからないけど」


「はい! それで大丈夫ですよ」


 その日から数日おきに来る先生と、ポツリポツリとちょっとずつ喋るようになった。喋ってるうちに人と関わる楽しさを思い出して、俺は先生に惹かれていった。実は先生は兄の友達で、俺のことをよく聞いてたとか言われた時は、驚きで数秒固まった。


 あんなに苦しんでいたのに、今では夢にまで先生が出てきて、なんだかモゾモゾと気恥ずかしい。ちょっと勇気を出して、次に来た時は悪戯をしてみようかな。


 インターホンのチャイムがなる。先生が来たってすぐにわかった。だって他に会いに来る人なんていないから。


「和希くん、こんにちわ」


「先生こんにちわ」


 挨拶をしていつもの様に会話が雑に始まった。先生は学校で起きた失敗話や面白い話。兄と遊んだ昔の思い出。俺は最近の時間の潰し方や兄との思い出話など、お互いに好きな様に一時間ほど喋った。先生が帰る時間になって、こっそりと扉の下から便箋を滑らせる。


「ん、和希くんこれは?」


「家で、読んでほしい。俺からの手紙」


 わかった、と言って先生は帰っていく。これで、いいんだ。俺からの、大好きな貴方への贈り物。


 貴方の気持ちは薄々気づいていた。兄のことが好きで、兄が大切にしてくれていた俺のことを、心配していることも。だから、ありがとうの一言だけ書いた紙と、家にある中で1番楽しそうに笑っていた兄の写真を先生に送った。


 いつかは、扉越しじゃなくて目の前で、好きって伝えるって決意をしながら俺は前を向いた。

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