57 しょうもない喧嘩 1
ルイザの吊り気味の目が一段ときつくなった。
しかし女はそんな圧には動じない。
「冒険者なんて大人になってからやればいいじゃない! ピンチになったらすぐ大人に頼るお前達ガキは本当迷惑、さっさと登録解除しなさいよ! というかお前さ、口調も変なくせに格好も変なのはどういうこと? 冒険者は遊びじゃないんだよ!」
女は大声を張り対抗した。ルイザは目つきだけでなく声でも圧をかける。
「子供子供子供ってウジウジ言ってるあんたの方がよっぽど中身子供じゃねぇかよ! こっちが子供だからって舐めて簡単に手を出しやがってよぉ、ぶっ殺すぞ?!」
長いこと耐えてはいたが決壊したのか非常に荒々しい言葉遣いに変化した。あまりの迫力と豹変にケミーとキディアは畏縮する。
これがルイザの素なのかな、いくら顔が綺麗だからってその目つきでその言葉遣いは怖すぎる。
「おおお、ルイザちゃん可愛いのにカッコいい! そんな女なんかやっつけちゃえ!」
一方でステラは見惚れてしまい呑気に応援する。
でも頭に血が上っているルイザにはそんな応援する声は届いてないようだ。
届いたところでステラの応援なんかに反応してくれないだろうけど。
(ステラはルイザがあの女に勝てると思う?)
(え? あー……もし負けそうならデシリアさんお願いしてもいいですか?)
なぜ“さん”付け? いつもは呼び捨てのくせに現金なヤツめ。
まぁいいけどさ、そのつもりだし。
二人に意識を戻すとルイザがついに動き出し、小柄な割に力強さを感じるビンタをお見舞いする。
「ギャッ! いったぁ~……このクソ猫、手を出したわね! 私に手を出したこと後悔させてやる!」
女も負けじとさらにルイザの頬に破裂音を響かせる。
しかしルイザは痛がる素振りは見せないし相手の手を止めようともしない。
興奮して痛みが鈍くなってるのか、それとも私のように痛覚の感度を調整できるのだろうか。
1番可能性が高いのは身体強化だと思う。体を頑丈にすれば痛みも通りづらくなるし、力が向上するから勝ちを狙うならこれしかないだろう。
「私は猫じゃない、猫人だ! 人を動物扱いしやがって絶対許さない! 死ねっ!!」
ルイザは再び女の顔に手のひらをぶつけ、女も同じように返していく。
二人の醜い喧嘩が本格的に始まった。
相手は格上のDランクだけど勝算はあるのだろうか。
念のためにギルド職員を呼んだ方がいいかもしれないな。
と、その時こちらに近づくキディアが目に入る。
「あ、あの、私がギルドの人呼んでくるからルイザちゃんに何かあったらステラちゃん、お願いね」
キディアは告げると窓口に向かった。職員は奥にいるのか姿が見えない。そのためキディアは奥に向けて呼んでいるけど向こうからの反応は無い。
というか呼び声が小さい。怖くて大きい声が上手く出せないのかな?
あたふたした後、立ち入り禁止にも関わらず勝手に入って奥の方に向かった。
ケミーは少し離れた位置で怯えながらルイザと女の様子を見つめていた。
ステラはルイザが不利になったらすぐ止めるために近くで待機している。
今すぐ止めないのはどう見ても格上のあの二人を止めたら不自然だからね。
よほどのことが無い限りは静観することにした。
女の仲間の男もまだ静観している。女の方が勝つと思ってるのだろう。その割に顔に皺を寄せて女の方をきつく睨む。
ルイザと女はここがギルドの中ということを意識しているからか魔術での攻撃は行わず、素手による殴り合い叩き合いで争っている。
大人である女の方が最初は有利だろうと思っていたけど意外にもルイザが押していた。
ルイザは殴られようが叩かれようが全く怯まない。一方で女は痛々しく顔を歪め防戦一方で攻めることが出来なくなっていた。
私なら足も使って攻撃するけど二人は蹴り慣れてないのか腕のみでの攻撃だ。
そりゃ魔物やキメラ相手に足を使う機会なんてないしそんなもんか。
女が不利だと判断した仲間の男はため息を吐き、ようやく動き出すとボロボロの状態の所で止めに入った。
「ゼ、ゼラルド! 止めるの遅いわよ、もっと早く来てよ!」
女は腫れて赤みを帯びた顔で男に言った。




