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100万年後に幽霊になったエルフ  作者: 霊廟ねこ
2章 才色兼備の猫人魔術士
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56 冒険者はやっぱり変人が多い 2

「12歳の子供だし、良くてランクはその辺でしょうね。ところでその“ですわ”って何? 気持ち悪いんだけど」


「な、なんであなたにそんなことを言われないといけないのかしら? 用事が無いならもう行きます」


 女の指摘にルイザは動揺した後、私達に外に出ようと促す。

 こういう意味の分からないのを相手にしてもしょうがないしさっさと退散した方がいいだろう。ルイザの意見に賛成だ。

 私達は入口の扉に向かう。


「きゃっ、いたたたたたやめて! 離して!」


 近づいて来た女に兎耳を掴まれたキディアは悲鳴を上げた。


「子供のくせに、なにその態度は?」


 女の視線と言葉はキディアではなくルイザに向けられていた。


「痛い痛い痛い、離して!」


「離してあげてもいいわ。恨むなら黒づくめの変なあの子を恨みなさい」


 耳を離された直後、乱暴に背中を押されたキディアは机の角に足が掛かり床に倒れた。

 心配したステラはキディアに近づく。


「キディア、大丈夫? 痛みは?」


「だ、大丈夫。ありがとうステラちゃん」


 耳の付け根をさすりながらキディアは答えた。


(ステラ、キディアの耳の方にさりげなく手を当ててみて。回復魔法をかけるから)


 ステラが手を当てたのを確認した私は念のために回復魔法をかける。


「ステラ、ちょっとどいて」


 急かされたステラは後ろに下がるとルイザは心配そうにキディアの耳に優しく触れた。


「怪我はしてない? 念のために回復魔術をかけておくね」


 私が魔法をかけたことを知らないルイザは同じようにもう必要のない治癒を試みる。

 終わると立ち上がり、女を睨んだ。


「なんでそんなことしたの? 暴力まで振るったのだから謝罪だけでは足りないですわよ?」


「別に許してもらわなくても構わないわ、それで謝らないとどうするっていうのかな~?」


 女は馬鹿にしたような口調で挑発する。

 ルイザはその態度に謝罪は無理そうだと判断したのか相手にしないことを決めた。


「こんなおばさんの相手してる暇なんてないからさっさと出ましょう」


 さりげなく女を煽りつつ私達に促す。

 やり返さなくていいのかなとキディアへ目を向けると怯えていてさっさとここから離れたそうにしていた。


「誰がおばさんよ!」


 声を荒げた女は近くにある白い紙の入った木のかごをルイザ――ではなくなぜかステラに思いっきり投げてきた。


 私はとっさにステラの顔を魔法の障壁で覆う。

 籠は直撃して硬い音を響かせた後、床に転がった。


「わっ!! び、びっくりした~」


 ステラはキョトンと何も効いてないとばかりに呑気な顔を見せる。


「ステラちゃん! 大丈夫!?」


「ステラ! 大丈……ってなんであなた何ともなさそうにしてるの」


 ケミーとルイザがステラに声を掛ける。

 ルイザが気にかけてくれたことにステラは少しニヤけた。


 なんだろう、ステラって少しケミーに似てきた気がする。元からこうなのかな?


 女は全く動じないステラに不満を見せつつ困惑していた。


 ルイザは転がった籠を拾い、叩いて硬さを調べるとステラを怪訝そうに見つめた。


「魔術も使えないのにこれをぶつけられて痛そうにしないなんて、やっぱりあの子変わってますわね」


 と小さく呟いていた。ステラには聞こえなかったようだ。


 ルイザは次に女へ顔を向けると仕返しとばかりに籠を思いっきりぶん投げた。

 しかしどういうわけか明後日の方向に飛び、何度か跳ね返った後に女の仲間の男のこめかみにぶつかった


 勢いが落ちていたため大した威力はないようで男は平然とした表情で床に落ちた紙と籠を拾うと机の上に戻した。

 女は男の様子を気に止めることもなくルイザを見てうるさく笑う。


「はははははっ、ど~こ投げてるんだよヘッタクソ!」


「お姉さんもさっき投げたヤツ私に当たったけど、本当はルイザちゃんを狙ってたんじゃないの?」


「う、うっさい! あ、あれはお前を狙ったのよ!」


 ステラが指摘すると女は恥ずかしそうに言い返した。

 焦ってる辺りあれはステラを狙って投げたわけじゃないようだ。


 女にヘタと言われたルイザは顔を少し赤くするがその話題は一旦置き、わざわざ絡んできた目的を尋ねる。


「それで私達に何の用があるの? 馬鹿にしたいだけなの?」 


「そうよ、馬鹿にしたいというのもあるわ。子供の冒険者ってムカつくじゃない? あ、子供には分かんないか」


「なんで子供が冒険者だとムカつくのかしら? 子供と比較されて能力が劣ると恥をかくからかしら、ねぇおばさん? 年取ると大変ですわね~」


 子供子供と言われるのが苛ついたのだろう、対抗して逆の“おばさん”という言葉を使い挑発を始める。


「おばさんって言うけどまだ20歳よ」


「でも私から見れば年上のあなたはおばさんにしか見えませんわよ、そうでしょおばさん?」


 ルイザが煽る度に女も少しずつ顔が赤くなっていく。そして女も負けじとさらに煽り、争いは過熱していく。


「ああああああ!! うっさいうっさい! おばさんって言うな! これだから子供は嫌いなんだよ! キメラ討伐の時は本当に足を引っ張りまくりで邪魔だったわ。お前も大人の迷惑になる前に冒険者をやめなさいよ」


 前にルイザがキメラ討伐で自分は子供だけど特別に許可を貰えた、とか言ってた気がする。つまりはある程度有能じゃないと参加できないということだろう。足を引っ張るほどの子供はそんなにいないんじゃないかな?

 実際の事情は知らないので口を出すつもりはないけど。


「はぁ、そうですか。でもお断りですわ。文句ならギルドに言って欲しいですわね」


「ギルドに言っても無駄だから直接こうやって子供に言い回ってるのよ。冒険者やりたいならまともな判断が出来る大人になってからになさい」


 子供のルイザが反論してもずっと平行線だろう。面倒臭くなったのかルイザは投げ遣りに謝る。


「あーはいはい、子供なのに冒険者やっててごめんなさい。それよりもあなた、さっきの耳を引っ張ったこと彼女に謝ってちょうだい。私は冒険者だけど、彼女達は違うのですわ」


 ルイザは再び謝罪を要求する。謝罪の対象からステラを省いたのはケロッとしてたからだろうか。


「はぁ? 違うならこんな所にいるわけないでしょ、そういえば子供って平気で嘘も吐くわよね」


 女は一番近くにいたキディアに腰を曲げて目線を合わせると顔をしかめて威嚇を始める。


「お前さぁ、さっきからビクビクばっかしてるけど冒険者向いてないんじゃない?」


「あ、あの、私は冒険者じゃ……その、違います」


「違うんだったらなんでギルドにいるんだよ!!」


 女は再び危害を加えようとする。ルイザが女の手を掴んで止めた。


「だから、彼女は冒険者じゃないって言ってるでしょ!」


「邪魔するな!」


 女が反対側の手をルイザの頬に目掛けて振る。

 パンッ! という音と共ににルイザは掴んでいた手を離した。


 少し間を置いてから赤くなった頬を擦ると、ルイザの吊り気味の目が一段ときつくなった。

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