56 冒険者はやっぱり変人が多い 1
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翌朝、朝食を食べ終えた後、待合室で今日の出発時刻を聞くためにルイザを含めた4人で雑談しながら御者の男を待った。
少し待つと御者の男が現れ、ケミーが最年長だからか彼女に出発予定時刻について説明を始める。
「申し訳ないんだけど、オカミンの少し調子が悪そうなので今日の出発はできそうもない」
私としては1日くらい気にならないけど、ステラは早く帰りたいだろうな。
「オカミン?」
謎の単語にステラが食いついた。
「オカミンってのは人を乗せてる部分の箱を引く鳥の名前のことですわ」
オカミンは鳥の種類の名称の様だ。
生き物である以上は体調が優れないことがあるのは当然か。
無理をさせて事故を起こされてはこちらも困るので我儘を言う訳にも行かない。
「ねぇステラ、そういえばあのラビキャットはどうなったのかしら?」
ルイザは違う部屋なのでステラの部屋にいる兎猫がどうなったのか気になったようだ。
「あの子は部屋に置いてきたよ。放しても大丈夫そうなスペースがあったから許可貰ってそこで自由にさせて来た」
ステラはルイザに声を掛けられたのが嬉しかったのか少しだけニヤついた顔で答えた。
「なら安心しました。ステラのことだからあの窮屈なカゴの中に入れっぱなしなんじゃないかと思ってましたわ」
「一体私の事どう思ってるの?!」
どう思ってるかについてはルイザは無視した。
「それで今日はみんなはどうするのかしら? 私は時間を無駄にしたくないので魔物でも狩って魔石でも集めようかと思っています。冒険者である私はギルドに魔石を買い取ってもらうことができますわ」
ルイザは背中に背負った黒づくめの凝ったデザインのリュックを見せびらかす。
ケミーはそのリュックがなんなのか尋ねる。
「それに魔石を入れるの?」
「そうですわ、入れるものが無いと運ぶことが出来ないでしょ?」
「異次元空間に物を出し入れできる便利な魔術はないの?」
「少なくともランク5にはありませんわね、それにそんな魔術聞いたことすらないですわ」
イブリンの部屋に行った時に鞄があったのでランク8にも多分無さそうだ。
私もそんな魔法は知らないので存在しない可能性はかなり高い。
「このレンゼイ村周囲の魔物には一切攻撃してこないクソ雑魚がいるのですわ。ケミーとキディアも一緒に行きませんか?」
「あれ、私は?」
ステラは無視された。
ルイザの言葉遣いってどうなってんだろう。
「ですわ」とお嬢様っぽいかと思えば「クソ雑魚」って汚い言葉が飛び出したりするし、
冒険者やってると言葉遣いって荒くなるのかもしれない。
「え、ルイザちゃん私も行っていいの? 邪魔にならないかな? 危険じゃない?」
ケミーは意外そうな顔で念入りに聞き返した。
「大丈夫ですわ。でも武器も魔術もなしの素手で倒すのはきついから何か武器になるものは持ってた方がいいですわよ」
「そうだ、ケミー……これ使って」
ステラは武器と聞くとナイフをケミーの前に出して見せる。
「え、いいの? ステラちゃん、ありがとう!」
ケミーは受け取る前にステラに抱き着こうとしたけど焦ったルイザに止められた。
「ちょ、ちょっとナイフ持ってる相手に抱き着くのは危ないのですわ!」
「そ、そうだった。で、でもステラちゃんになら刺されても大丈夫だよね?」
と、ステラに向けて確認するけど――
「なんでそう思ったの?! 床が血で汚れちゃって大惨事だよ!」
ステラは驚いて否定した。
その傍でルイザはケミーの狂った発言に引いていた。
怪我に関しては確かに私がいるのですぐ治せば大丈夫だけど、でも一時的な激痛はどうにもならないぞ。
「ちょっと、そこの子供!」
横から知らない女の声がかかる。4人で声の方を向くと二人組の人間の男女がいた。
もしかしてディマスの時みたいに「うるさい」とでも注意されるのだろうか。
声を掛けて来たのは若い女で身長は170cmくらい、生前の私より高いかもしれない。
男は女よりは一回り年上だろうか、その女が小さく感じるくらいに背は高く、そして横にも広いけど肥満ではなく筋肉でゴツゴツとしている。
ディマス達と似た鎧を着ている所から判断するに二人とも冒険者だろう。
不機嫌そうな女は近づいて来ると偉そうな態度で言葉を続けた。
「こんなところにいるってことは冒険者でしょ?」
冒険者ギルドにいるとはいえ、この中で冒険者なのはルイザだけだ。
ケミーとキディアは違うのだけど女の威圧感のある声に怯えて返事がしづらそうだ。
(私は冒険者じゃないけど冒険者って答えていい?)
ステラが妙に自信満々に私に聞いてきたけど、なんでそう思った?
(いや、まだ冒険者じゃないでしょ?)
(だって冒険者の仕事を一度は経験してるし、似たようなものだよね?)
んなわけあるか。というかステラは何もしてなかったでしょ。
(ステラ、あんた見学してただけなんだから絶対名乗らないようにね)
私がステラと言い合いをしてるその隙に、女の問いにルイザが答える。
「はい、私はそうですが何か用ですか?」
「何歳? ああ、違った違った。何歳ですか? 子供はそう言わないと聞き取れないわよね」
女は言い直すと露骨に馬鹿にしてきた。
ルイザは何かを察したようだけど一瞬ムッとしただけで冷静に対応する。
「12歳ですわ、あなたは?」
「20歳よ、冒険者ランクはD。お前は?」
「Eですわ」
ルイザのEという発言に私はふとルイザの胸に注目する。そしてケミー、キディア、ステラと視線を回す。
(みんな割と平たいな、キディアとケミーがちょっとあるくらいか、子供だしそんなもんだよね)
(いきなりどうしたの?)
(え? 聞こえてたか。いや、なんでもないよ。そう、身長! 私より低いなって思っただけだよ)
(そりゃ子供だもん。大人になったら超えるから見ててよ!)
ステラは平たいと言う部分までは反応してこなかった。
胸に関しては既に生前の私とほぼ同レベルだから超えられるとちょっと嫉妬しちゃうかもしれない。
でも大きいと視界が狭くなって動きづらそうだから大きくなるなら少しだけが良いよ、多分。
そんなどうでもいいことは置いといてルイザ達に意識を戻すと少しずつ女の悪意がなんでなのかは分からないけど強くなっていた。




