54 レンゼイ村へ移動中 3
「ステラって冒険者ではないのですわよね?」
「そうだよ、でも1年後くらいには冒険者になってる予定、というかなってるよ。そういえばルイザちゃん、魔術士ギルドにはどうやったら入れるの?」
「魔術士ギルドは……」
そこで言葉が止まった。
ルイザの返事を待ってるとケミーが割って入る。
「ちょっとステラちゃん、私のこと無視しないでよ~」
「あぁ、ごめん、何か聞いて来てたよね。……なんて言ってたっけ?」
ケミーは少し切ない顔をするともう一度言った。
「迷惑かけるかもしれないけど、努力して強くなりたいしステラちゃんと一緒なら――」
ステラはケミーの話を聞きながらルイザに顔を向けた。ルイザは考え事をしているのかボーっとしていた。
ステラは先程の質問の返事を貰ってないのでそれの催促も兼ねて名前だけを呼ぶ。
「あのぉ、ルイザちゃん?」
「え? あ、ああ、そうだね、質問のことは忘れてないですわよ。魔術士ギルドにはお金を払うだけで入れますですわ……」
焦って変な口調で返って来たけどステラは気にする素振りは無い。
本人も口調を気にしてる様子がないので考え事にかなり集中してたように見える。
「金額はやっぱり高いの?」
「親が……払ってくれたからよく分からないのですわ」
ルイザの表情に微かに変化があった。親と何かあったのかな?
「ルイザちゃんってもしかして金持ち?」
「金持ちって感じの生活はした覚えはないのですわ」
ルイザとの会話が楽しいのかステラの勢いが増していく。
「なんで冒険者やろうと思ったの? あと冒険者やってても魔術士ランク上がるの? というか魔術士ランクで覚える魔術が決まったりするのかな? ルイザちゃんのその恰好ってどういう意味が――」
「ちょ、ちょっと! 一気に質問しないでほしいのですけど?!」
一方的な質問攻めに苛ついたのかルイザは険しい顔で睨む。
「ご、ごめん」
「やはりあなたは常識のない変人ですわね」
「えぇ……それはちょっと言い過ぎじゃないの? そういえばルイザちゃん私にだけ厳しいよね?」
「あなたは道のど真ん中で突然奇声あげてたじゃない。私ちゃんと見てましたわよ。変人じゃなかったらなんなのかしら? 恥ずかしいから私といるときは気を付けて欲しいのですわ」
「そんなことした覚えないんだけどなぁ。気を付けるね……」
脳内で私と話をするときについ声が外に漏れた時のことを言ってるのかもしれない。
独り言に見えるから傍から見たらやはり変なのだろう、ルイザに見られてたのね。
ステラに言いたかったことを吐けて気が晴れたのかルイザはステラの質問に答え始める。
「その話はもういいですわね。それじゃああなたの質問に答えますわ。魔術士ランクですが冒険者ギルドだけでは一定以上に上げるのは無理ですわね」
ルイザの説明途中、ケミーが何か言いたげにステラの方をちらちらと見てる。ルイザの邪魔になるからか何も言って来ない。
「でも冒険者として活動しながら魔術士ギルドで魔術士ランクを上げるというのはできますわよ。ですが冒険者としての実績は全く魔術士ランクには影響しないのですわ。次に使える魔術についてだけど魔術士ランクを上げると新しい術式を体の中に刻むので使える魔術が増えていきますわ」
「術式って何?」
「例えばファイアボールを使うためにはファイアボール用の術式を体に刻む必要がありますわ。あぁでもファイアボールと言われてもピンときませんわよね、ファイアボールというのは――」
ルイザが丁寧に説明を続けてるとステラは私に声を掛けて来た。
(魔術なんて刻んだ覚えは無いんだけどデシリアってポンポン火の球飛ばしてたよね。どういうこと?)
(さぁ? 魔法と魔術は違うんだろうね)
ファイアボールの話が終わるとケミーはちらちらとステラを見てたのに、気になることが出来たのかルイザに話しかける。
「そのですわって口調は何の影響受けてるの? 使いづらくない?」
「私の憧れてる人がこんな口調なの。だから使いこなせるようになりたいですわ」
憧れの人という部分に反応したのかステラは誰なのか尋ねた。
「憧れの人ってお母さん?」
「ママはそんな口調じゃなかったですわ。パパもそうですわ」
「お父さんがそんな口調だったら怖いよ」
ステラはツッコミを入れたけど、ルイザに無視をされた。
会話が一区切りついたところでケミーが今度はステラに話しかける。
「ねぇステラちゃん。そろそろ返事を聞かせて欲しいなぁって……」
「あ、えーと、……なんだっけ?」
「だーかーらー! 冒険者になったら私もステラちゃんの仲間に入れてって話だよ!」
3度目だからか流石にステラ相手でもケミーの苛立ちが見え始めた。
「あ、そうだった。返事が遅れてごめんなさい。冒険者になったらよろしくお願いしますケミーさん!」
年上のケミーの威圧感のある声に怯んでしまったのかステラの言葉遣いが丁寧になってしまった。
他人行儀な距離のある言い方にケミーは落ち込み、これ以上は何か言ってくることは無かった。
しばらく重苦しい空気だったけどルイザがケミーの相手をして何とか明るい空気は戻って来た。
ケミーの調子が元に戻った後、ルイザはステラに一瞬鋭い視線を送ると小さく声を掛けて来た。
「ステラ、ちょっといいかしら?」
ルイザが内緒話をしたそうに口に手を当てたのでステラは耳を近づけていくと――
「痛っ!」
頭を叩かれて、パンッ! という音を響かせた。
ステラはポカンとした顔で叩かれた部分を抑える。
「え、なんで叩いたの?」
ルイザは理由を答えなかったけどケミーを蔑ろにしたのが理由かなと私は思った。
「あの、大丈夫ステラちゃん?」
「ああ、うん。大したことないし大丈夫だよ、心配してくれてありがとうケミー」
恐る恐る声を掛けたケミーはステラに優しくお礼を言われて笑顔を浮かべた。
なるほど、ルイザの狙いはケミーのご機嫌取りだったか。
「ルイザちゃん、あんまりステラをいじめないでね」
「そうですわね、気を付けますわ」
ルイザはケミーに優しく注意されると涼しい顔で大人しく従った。
外が暗くなりかけた頃に今までの村よりも広い村の姿が目に入った。暗くて全容は分かりづらいけど広範囲に点々とする明りからなんとなく想像できる。
それから少しすると何事も無くレンゼイ村に到着した。




