6 事情説明 1
冒険者ギルドの中に足を踏み入れるとすぐ目の前は椅子と机が並んだ待合室らしき場所だった。
外観の無機質な感じとは変わって木の模様の柱や壁から暖かさを感じさせる。奥には受付カウンターがあり、その中では職員が1人で忙しそうに何か作業をしていた。
冒険者ギルドという名前の割には見回しても冒険者らしき姿が見当たらない。
時間帯がたまたま悪いだけなのかな?
ともかく私達が用があるのはギルドの職員なので受付カウンターに近づき若い男の職員へ声を掛けた。
「あの――」
と、私はいきなり言葉を止める。
ステラよりも年上の大人っぽい子もいるんだしその子に対応は任せた方がいいんじゃないか?
そう思った私はその女の子に視線を向ける。
「? あの、なにか?」
困惑された。
「あ、えーと。なんでもない」
今は私が進めることにしよう。
私は職員の男に目を合わせ、もう一度言い直した。
「すみません、ここで宿泊ができると聞いて来たのですが……」
いきなり孤児です、とは伝えない。言わなくても年齢様々な、みすぼらしい格好の子供だけの集団に何か思うところがあるはずだ。
「君達は冒険者では……ないよね?」
職員の男は私の腰に差してる剣を見た後、背後にいる子供達に目を向けた。
「見るからにワケがありそうだね。本当なら宿舎は冒険者以外には利用させないんだけど今回は特別だよ。じゃあ部屋に案内するから付いてきて」
男は快く私達を2階の宿舎に案内した。
案内された部屋は広く、ベッドの数も多かった。宿舎は部屋数も結構ありそうだったけど満員になるほどの人が来るのだろうか?
職員に部屋の使い方などの簡単な説明をしてもらった後、ステラより年下の子供たちは走り回って遊び始めた。
私は職員にこれまでの出来事を説明をするために年齢の高い子供2人を連れて、1階の職員用の休憩室に向かった。
休憩室には幽霊の私を除くと4人。子供は女3人、職員は男の1人だ。
私はマリアという名前の15歳の1番年上の女の子に説明を任せることにした。
「その人は私達を部屋から外まで連れ出すと収容施設を破壊しました」
「なんていうか、通りすがりの正義のヒーローが悪人の施設を破壊するなんて本当にあるんだね。まるで配信番組のドラマみたいだ」
職員の男はそのことに困惑しながらも驚いてるようだった。
私がやったことにすると話がややこしくなりそうなので、マリアには正義のヒーローがやったことにしてもらって説明させてる。
『配信番組』とかいう謎の言葉が出て来たけど、今の時代では周知のことなのか誰もそのことには触れようとしていなかった。
なんなのか気にはなったけど、そのうち分かるだろうからとりあえず話に集中することにした。
「破壊した後はどこかに立ち去っていきましたよ」
マリアは怪しまれない様に私に目を合わせず、職員の男の目をじっと見つめて話を進めていく。
「ホント凄かったよ、ステラちゃん!」
もう一人の年長組の猫人のケミーが笑顔で声を掛けてきた。
彼女は14歳。キディアと同じ年齢だ。
「う、うん凄かったよね」
退屈なのは分かるけど私語は謹んで今はマリアと職員の方に集中して欲しい。
「私もあんな感じに強くなりたいんだけど、どうやったらなれるんだろう。ねぇステラちゃん?」
「う、うん。凄い努力したんじゃないかなぁ……」
私はケミーとマリアへ視線を何度も往復させ、マリアへさりげなく助けを求める。
「じゃあどんな努力したらああなれるの?」
「わ、分かんないなぁ」
「知りたいなぁ」
ケミーは獲物を狙う猫のように私を見つめる。
あの屋敷を破壊したのが私だと職員に思われそうだから気を付けて欲しい。
流石に疑われないとは思うんだけど、それでもハラハラするんだよね。
男の人は不思議そうにこちらを見てはいるけど、さすがに私がその正義のヒーローだとは思ってないようだ。
みんながケミーに注目してると彼女はさらに空気が読めてない発言をした。
「あのね、私、ステラちゃんの事好きになったみたい」
「あ、はぁ?」
突然何言ってんだこいつ。
その直後マリアがケミーに注意を始めた。