53 今度はおばさんの番 1
「動いたら撃つ。この魔導銃に当たるとどうなるかはさっきので予想できるよね?」
と、脅してみるけどおばさんに直接当てるつもりはない。
こんな危険すぎるものをしょぼい脅威に対して使うのは過剰対応だろう。
おばさんの強さ次第では使用せざるは得ないけど、とりあえずは様子見だ。
「当たらなければいいだけだよ!」
自信があるのか、それとも怒りで冷静になれないのか、おばさんがこちらへ駆けて来る。
私は牽制のために当たらないように足元を狙って撃つけど怯まず突っ込んでくる。
「アイスソード! これでお前を斬り刻んでやる!」
おばさんがそう叫ぶと右手から氷の剣が現われた。
「アイスシールド! これでお前の攻撃は私には当たらないよ!」
左手には体の半分を覆うほどの氷の盾が現われた。
剣と盾の説明はいらない気もする。
もしかしたら子供相手だからそれで脅して冷静な判断を失わせようとしているのかもしれない。
しかしおばさんの相手をするのは中身が大人の私だ。そんな脅し文句は通用しない。
とりあえず魔導銃を下手に当てると死ぬかもしれないので使用中止だ。
「だりゃああぁぁぁ!!」
おばさんは男でも出さなそうな叫び声を出し剣を振って来た。
アイスソードの横薙ぎが私の顔目掛けて飛んでくる。
そんなノロノロの剣速ではまず私に当たらない。
体を反らして避けると体勢が少し崩れた。
「喰らいなっ!」
それを狙ってたのかすぐさまアイスシールドに寄る押し出しが来た。
避けれないこともないけど大した事無さそうなのでわざと受けてみる。
体重で負ける私は後ろに突き飛ばされるけど軽い身のこなしで猫のように身を捻り綺麗に着地した。
身体強化を施した体なのでこんな程度でダメージはない。
「……しょぼいなぁ」
言葉に出すつもりはなかったけど、ふと小さく本音が漏れた。
屋敷から出た直後に遭遇した殺し屋や勇者と比べると子供の遊びのように感じる。
「強がり言ってんじゃないよ!」
おばさんの耳に届いてしまったようだ。
そしてまたもアイスシールドでの押し出し攻撃――
「これでも喰らって焼け死ね、ファイアボール!」
かと思いきや盾の中央から意表を突いた火球が飛んできた。
(きゃああああああ!)
火球にビビったステラの声が頭の中に響く。
(ちょっとステラ? 今更こんな火の球になにビビってるの、私に効くわけないじゃない!)
(はっ、それもそうか。つい反射的に出ちゃった)
こんな森の中で火球は火事の元なので、私は急いで大きく息を吸い込むと強く息を吐き、火の球を打ち消す。
火の球を打ち消したと思ったらシールドが後から迫って来てた。
「死ねぇえええええ」
火の玉ならともかく、こんな平地でただの盾の押し出しで死ぬ人はいないと思う。
怒りで頭が回ってないから本気で死ぬとは思ってないだろうし、私を痛めつけたいだけだろう。
何度食らっても特に面白くもない攻撃なので対処することにした。
私は盾を利用しおばさんの死角になるように素早くしゃがむと次にシールドを私から見て右側を掴んで横に強く押し込む。
「ぎゃああああああああ」
バランスを崩しただけでおばさんは気持ち悪く大げさに叫んだ。
前のめりに倒れてきたおばさんの足を払い確実に転倒させる。
アイスソードとアイスシールドが手から離れたのでそれを急いで遠くに蹴り飛ばした。
飛んでいった先に動物がいた。
当たったらマズイと思いつつも流石といったところか素早い反応で躱していた。
(今のはちょっと肝を冷やしたね、セーフ!)
(気を付けてよデシリア)
動物達の無事を見届けてる間におばさんはゆっくりと立ち上がろうとしてた。私は動きを封じるために両足を掴んで高く持ち上げ――
「コラ! やめろ、なんでファイアボール食らって平気なんだよ! や、やめ、ひいいいいいいいぐげぇっ」
――気絶する程度に少し強めに地面へと叩きつけた。全身を強打したおばさんは身体強化をしているだろうけどそれでも気絶した。
うん、気絶だろう。
……死んでないよね?




