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100万年後に幽霊になったエルフ  作者: 霊廟ねこ
2章 才色兼備の猫人魔術士
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52 余計なことはするもんじゃないな 1

 私が口止めに同意するとケミーも慌てて声を上げた。


「わ、私もこの子と同じです」


 もしかして私の意見に合わせたのかな?


「で、もう一人の子はどっち?」


 おばさんは薄っすらと笑みを浮かべながらキディアに目を向ける。


「わ、私は……」


 反対派のキディアは私が賛成したためか言いづらそうに視線を彷徨さまよわせる。

 そしてやっぱり反対にして欲しいのか私へ説得を試み始めた。


「ステラちゃん、本当にそれでいいの? 私は、嫌だよ。動物達が可哀そう……」


 私も嫌だよ、良くないって思ってる。でも動物達は助けるから問題ない。


 そんなことはおばさんの目の前ではまだ言えないので答えに窮する。


「一人は反対みたいだね。で、どうするの? とにかく早く意見をまとめてちょうだい。こっちだってまだ回収したいからね」


 おばさんはまだ動物を集めたいようで急かしてきた。


(今はキディアを無視して、後で賛成の理由を説明すればいいんじゃない?)


(そうするしかないか……)


 ステラに言われてそう思った時、キディアの動物達に向ける同情に苛立ったのかケミーが不満をぶつけた。


「ねぇキディア。あんた、私達を見殺しにしようとしてたよね? つい最近の事だよ。まさか忘れたとは言わないよね?」


「……え、きゅ、急に何を言いだすのケミー? どうして今そんなこと言うの?」


 キディアも急に言われて驚き、戸惑う。

 あの時というのは屋敷から脱走した時の事だ。キディアはもう思い出したくないのだろう、顔は血の気が引き始めていた。


「あの、キディア、大丈夫? 顔が――」


 私がキディアの心配をするけどケミーは構わずキディアに溜まってたものをぶち撒ける。


「私とステラちゃんは賛成してるんだから、もう多数決で決まったんだよ。それにあの時ステラちゃんを殺そうとしたあんたの意見なんか……聞く必要ない」


「ケミー、私はもうそれは気にしてないから――」


 ケミーの言葉にキディアは苦い顔をした。

 私はキディアをフォローするけど途中で彼女は言葉を被せて来た。


「じゃ、じゃあケミーは動物達がどうなってもいいの? この動物達はあの時の私達みたいな想いをするんだよ? ケミーはそれが許せるの?」


 キディアは動物達にあの時の私達を重ねて情に訴える。

 ケミーの口が止まった。


 想像しているのだろう、囚われていた時の状況を。

 しかし言葉を見つけると眉を顰めて言い返してきた。


「私も許せないよ。どうなっても良くない。でもこの子達は人じゃない、動物なんだよ。違うんだよ、私達とは!」


「人じゃなくても、動物だって心はあるはずだよ! ステラは? ねぇステラも動物だからってどうでもいいと思う?」


 キディアは私にも意見を求めてきた。


(いつもはステラちゃんって言ってくれるのに)


 ステラはキディアが“ちゃん”を付けなかったことが気になったようだ。

 それだけキディアの心に余裕がなくなったんだろう。


 なんか変な方向に話が流れてしまったな。

 私はおばさんを騙して金を巻き上げようと思ってただけなのに、どうしてこうなった。


 どう言おうか悩んでいるとケミーが代わりにかは分からないけど声を上げる。


「自分の事しか考えないあんたにあれこれ言われたくない!」


「ど、どこが自分の事なの? ケミーだってお金に目が眩んでこの子達を、見捨てようとしてるじゃない!」


 キディアは大きく腕を広げ、私達の視線を檻の動物達に誘導させる。

 ケミーは動物達に一瞬だけ目を向け、すぐに背けるとキディアにこう言った。


「動物は見捨てたくない、でも人は見捨てる。そんなあんたには言われたくない。ねぇステラ。キディアはステラとも意見が違うみたいだし、もう相手にするのやめよう?」


 ケミーもいつもはステラには“ちゃん”をつけるのに、それが出来ないほど余裕がないようだ。


「ケミー、あの、ステラ“ちゃん”て呼んで欲しいかな、なんて。なんかケミーに呼び捨てされると嫌われてるみたいでちょっと距離が遠く感じちゃうよ」


「あ、ご、ごめん。ステラちゃん。私はステラちゃんの事嫌いにならないから安心してね!」


 私も頭が回らないので気になった部分をそのまま口に出した。いつもと違う空気をさっさと元に戻したい。


「ちょっと、殺すとかかなり物騒なこと言ってるけど、君達どんな関係なの?」


 おばさんが引き気味に尋ねて来た。


「どんな関係って……1000ルドくれたら話します」


「こんな状況でよくそんなこと言えるもんだね、でも興味は無いから払わないよ」


 私が言うとおばさんは断ってきた。

 話したくないから吹っかけただけだよ。お金貰えるならそれはそれでいいけどね。


「あの、おば……お姉さん、この子達はどうなるの?」


 ケミーはおばさんと言いそうになったのをお姉さんと言い直し、動物達の行く末を尋ねた。


「ペットとして飼いたがってる人がいるから売るんだよ。売った後のことまでは分からないけど外見が良いから酷くは扱われないだろうね」


「そうなんだ、酷く扱われないなら良かった」


 ケミーはそう言うとちらりとキディアの方を見る。

 キディアは特に何か言い返す事もなく下を向いて沈黙を続けた。


 私は落ち込んでるキディアが気になったので意に沿えなかったことを謝ることにした。


「キディア、あなたの気持ちはよく分かったよ。でもごめんね」


「いいよ。私だってステラちゃんにひどいことしたし、あの、その、わがまま言ってごめんなさい。みんなの考えに任せるよ」


 キディアは疲れたような笑顔で逆に謝り返してきた。

 ケミーはキディアの声を聞くと冷めた表情に変わり、窓から外を眺め始める。


 強引ではあったけどまとまったのでおばさんへ考えを伝えることにした。

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