51 このババア許せない! 1
「でも、さっき小さい声で私が怪我を負わせたって言ってたよね。嘘ついたんですか?」
忙しそうに動いていた女はその一言で動きが止まる。
さっきの発言は聞こえてなかったと思ってたんだろう。
そして女は反応を見るためかケミーとキディアに視線を向けた。
(デシリア本当なの? いつ言ってたの? 別にデシリアを疑ってるわけじゃないよ。本当ならこのババア許せない!)
「ステラちゃん今の本当なの?」
「わ、私には聞こえなかったよ……で、でもステラちゃんが言うなら――」
「ちょ、ちょっと! 君達は何を言ってるのかな? 私はそんなこと言ってないよ! オレンジ髪のあんた、なんでそんな嘘を付くの? ああもう、さっさとどこかに行きなさい!」
女は怒り出すと私達を車から追い出そうとしてきた。
「あの、本当に動物達は病院に連れて行かれるんですか?」
「あんたと違って嘘は付かないよ! さあさっさとどこか行きなさいよ、邪魔邪魔!」
「さっき近くに村人がいたのでここに連れてきてもいいですか? 村人なら事情はよく知ってるはずだし嘘じゃないなら問題ないですよね?」
この発言に女は追い出そうとした動きを止め、口を半開きでわなわなと震わせた。
一転、扉を閉め、私達を車の奥の方に押し込む。
そして厳しい顔から嘘くさい笑顔に変わり、優しくこう言った。
「そうだ、話し合わない?」
女の急な反転にケミーは怪訝な視線を向ける。
「どういうこと、もしかして病院に連れて行くってのは嘘だったの?」
「そうだよ、嘘をついてたの。ごめんね」
女が何食わぬ顔で認めた。
「じゃあ動物達はどうなるんですか?」
「安心して。この子達を殺したりはしないよ。売り物だからね」
村人を呼ぼうとしたら止められたので、女のやってることはやっぱり後ろめたいことだったようだ。
ということなら動物達を勝手に解放しても大丈夫かもしれない。
「村の人に知られるとまずいということですか?」
「そう、だから君達には黙っていて欲しいんだ」
女がそう言うと三毛の兎猫は私達の方を向きさらに必死にニャーニャーと鳴き始めた。
三毛が私達をここまで連れて来たのは檻の子兎猫達を助けて欲しいからなのだろう。
その必死な三毛の訴えに心動かされたのかケミーは声をあげた。
「悪い事をしてるんだったらやめようよ。今すぐ動物を解放するならおばさんのことは黙ってあげる」
ケミーが甘い事を言ったので私は咄嗟にその提案を否定する。
「それは無駄だよ。このおばさんは私達がいなくなったら絶対また同じことを繰り返すよ」
「コラ! 私の事をおばさんって言うのはやめろ」
おばさんは呼び方を注意した後、ケミーの言ったことに対して考え込んだ。
でも今までの分がタダ働きになるからか受け入れず、強気な態度で返してきた。
「それで、私の事を許さないとして君達子供に何ができるのかな? 村の人に助けを呼びに行ってる間に私は逃げるだけだよ。力づくで捕まえようとしても無駄無駄。私が子供程度に力で負けるわけがないからね。さぁどうする、どうやって私を止めるんだい、逃がすしかないよ?」
女は安全圏にいると自覚しており、私達に選択を迫ってきた。
自信満々な態度からきっと速く動くこの乗り物で逃げるんだろう。
ケミーとキディアは困った顔で私に視線を向ける。
二人が私を見るからか三毛の兎猫も期待を寄せるように私に視線を向けた。
ステラは集まる視線に少し戸惑う。
(もうデシリアがこの女をどうにかするしかない感じ? 倒しちゃう? 前に倒した勇者よりは楽だよね?)
あの勇者以下なら楽ということは否定しない。
闇の勇者を狼とするならこのおばさんはカタツムリくらいの強さだろう。
(捕まえるつもりなら倒すしかなさそうだね。再犯されないように村に引き渡さないといけないだろうから私達、目立っちゃうことになるなぁ……)
また事情説明の時に謎の正義の通りすがりの人を出して誤魔化さなきゃいけないのか。
女が私に倒されたと言いまわってしまうことも避けたいところだけど、この程度の事で口封じに殺すわけにもいかない。
ああああぁぁぁぁ……動物についていったらこんな面倒事に巻き込まれるとは思わなかった。
女に意識を向けるとニヤリと笑って私達の考えてることを予想してきた。
「そうか、私だけが得するのが許せないんだよね」
「え?」
意表を突かれたのかケミーから声が漏れる。
「口止め料を払うわ。お金が欲しいんじゃないの? そうだね、一人当たり5000ルドでどうかな? これはお金を受け取ったら村の人に私の事を報告しないという契約だよ。簡単な仕事だと思わない?」




