50 密猟? 1
三毛の兎猫は私達に合わせてるかのような速度で駆けていく。
怪我を治した兎猫はそれ以上の速さなので本当はもっと早く行きたいのかもしれない。
私達3人の中で1番遅いのはケミーだ。
私はケミーと距離が離れすぎないように気を配りながら三毛の兎猫を追いかけていく。
しばらくすると鳥車に似た乗り物を見つけた。
私達が乗っている鳥車と比べるとかなり小さい。
客車を引くための鳥はおらず、御者の席もない。
車輪は左右に2つずつ合計4つ付いている。
扉は開いており三毛の兎猫はその中に入っていく。
私達も中に入ると最前席に変わった形をしている物が目に入った。
その席の正面の上半分以上はガラスの窓、下半分は壁のようになっている。
その壁部分の上半分くらいは少し出っ張っていて、そこから円盤のような形の物が突き出ており、壁と円盤にはよく分からないボタンがいっぱい付いていた。
車内は立って歩ける程度には高く奥行きがある。
子猫のような鳴き声が聞こえるので目を向けると車内の後部に複数の檻を見つけた。
先ほど助けた兎猫が檻の前で必死に足や口を動かしていた。
その檻の中を覗くと4匹の小さい子供のような兎猫が入っている。
口や爪を動かしていたのは檻を壊して子供の兎猫を助けるためだろう。
その様子を三毛の兎猫は少し離れた所から大人しく見ている。
(もしかして檻の猫はこの子猫達のお母さんなのかな?)
ステラはその必死な姿からそう思ったようだ。
(同じ種類だからそうかもしれないね)
少しすると車の外から足音が聴こえてきた。
まだケミー達は気づいてないので注意を促す。
「誰か来たみたいだよ」
「え? 嘘、私には聞こえてないのに人間の耳だと……いや、ステラが言うなら本当か」
ケミーは一瞬疑ったけど、ステラが規格外の子供ということを思い出したのか信用してくれた。
「あ、本当だ。何か近づいて来る……人の足音っぽい」
少しするとキディアも気づいた。
ケミーの反応から思うに猫耳・兎耳の二人の方が本来は人間より聴力は上なのだろう。
外に出てみると小さな檻を幾つか乗せた台車を押している冒険者風の軽装の人間の女が見えた。
中年くらいで体格も平均的、特に目立ったところは無い。
徐々にこちらに近づいて来る。
私達を見つけると厳しい目つきになった。だけど話しかけてくる時には穏やかな表情に変わっていた。
「君達、こんな所でどうした。もしかしてその車の中に入った? 勝手に他人の車に入るのはダメだよ」
優しく言った後、女は檻を持ったまま車の中に入っていく。
私達は中にいる母兎猫が気になったので入ることにした。
「ちょっと! さっきも言ったけど勝手に入っちゃ駄目でしょ! でも今は私がいるからいいか。檻に手を入れると噛まれるかもしれないから気を付けなさい」
女は私達に注意をしたけど今は自分で見守りができるからか許可してくれた。
母兎猫の方に目を向けるとまだ女に気づいてないのか必死に檻をどうにかしようと足掻いていた。
檻の中の子供達は母親に顔を向け必死に高い声で鳴いている。
「そのラビキャットはさっきの……? 動けないように怪我させたはずじゃ。でも子供達は檻に入れたからもういいけどね」
女はぶつぶつとかなり小さく呟いた。
兎猫の動きが鈍かったのはこの女が原因というわけか。
ケミーとキディアは聞こえてないのか反応は無かった。
聞こえてたらどんな反応を示したんだろう。
ステラも聞こえてないようで無反応だった。
発言の内容は今は黙っておくことにした。
言うと騒ぐかもしれないからね。
私はもう少し女の様子が見たい。
女は空いている場所に檻を置いて行く。
子猫や子兎の入った檻は重そうに見えるけど軽々と持っているのを見るに身体強化の魔術でも使っているのかもしれない。
体格からは力があるようには見えなかった。
檻の中の色んな動物に目を向けると兎猫を除けば通常よりも容姿が良いことに気づいた。
村や公園、池の周囲で見たほとんどの動物達とは明らかに容姿のレベルが違う。
ということはどこかに売るのだろう。
それ以外の理由が思い付かない。
売るのが悪い事と決めつけるほど私はこの村の事情が分からないので余計な口出しは出来ない。
許可を貰ってるかもしれないからね。
「この子達をどこに連れて行くんですか?」
でも動物達がどうなるのかくらいは聞いても問題はないだろう。




