49 三毛兎猫 2
なんだろうと思い、寄ってみると透明な袋に包まれている動物の餌が並んでいた。
餌はクッキーを豆のような形に加工して、1~5ミリくらいにしたようなのが大量に入っている。
私達がそれを見ていると中年くらいの人間の女の店員が機嫌の良さそうな声を掛けてきた。
「いらっしゃい。ここはその辺にいる猫や鳥など色々な動物の餌を売ってるよ。動物達に餌をあげて見ない?」
「わー面白そう! でもお金が……」
ケミーが興味を持ったけど、餌をあげたいという欲求よりも自制心の方が上回ったようだ。
キディアも興味はありそうだけど買うつもりはなさそう。
「君達ここら辺の子じゃないよね、私はこの村の人だからすぐ分かるよ」
「はい、私達エリンプスって町に向かう途中なんですよぉ~」
ケミーがニコニコと女の人に答えた。
(ねぇデシリア。動物にご飯あげてみたいなぁ……駄目?)
動物の餌の値段を見てみると村で売ってるお菓子とほぼ変わらない。
お金はたくさんあるし無駄遣いというほどのことでもないし、私も興味があるので買うことにした。
猫の餌、兎の餌、鳥の餌、魚の餌……。
(ステラはどの動物にあげたい?)
(うーん、兎! 猫は町でもよく見かけるからあまり見たことがない兎にあげてみたい!)
ステラの分だけ買うのもなんだか悪い気がするのでケミーとキディアにも買ってあげることにした。
ケミーは喜んで抱き着こうとしてきたので避けると彼女は勢い余って転んでしまった。
ケミーは魚の餌、キディアは鳥の餌、ステラは兎の餌だ。
餌によって値段は違ったけど誤差なので気にしない
私はステラと交代し、ステラが餌を撒くと動物がたくさん集まって来た。
「わわわ、いっぱい寄って来た! 可愛い~」
その中に何の動物かよく分からないものが混ざっていた。
それは餌をいくつか食べると私達の所に近づいてきた。
耳と尻尾は兎で他は猫という姿の動物だ。
耳はピンと上に張り、尻尾はふわふわとしてて球のように丸く、目はパッチリとしていて、全身は白、黒、茶色の毛が混ざっている。
三毛兎猫とでも呼べばいいのかな?
長くて呼びづらいし兎猫と呼ぶとするか。
3人ともこの動物には見覚えがなく何という種かは不明。
「なにこれぇ? 可愛い~!!」
ケミーはとろけた顔で兎猫の頭と耳を撫で始める。
兎猫はわさわさと撫でられるけど嫌がる素振りは全く見せない。
それどころか私達3人を値踏みをするように見つめるとケミーの長ズボンの裾を口で引っ張り始めた。
「なになに、どうしたの?」
兎猫は何回か引っ張った後、諦めたのかケミーに背を向け距離を置いた。
と思ったらまたこっちを振り向いた後ニャーニャーと鳴き始め、再び近づきケミーのズボンの裾を引っ張る。
「ねぇステラちゃん、この子、私に来て欲しいみたい。ちょっと行ってみていい? 私はステラちゃんも来て欲しいんだけど……」
ステラは真剣な顔のケミーを見て嫌がることなく応じた。
「分かった、私も行く。キディアも一緒に行く?」
「う、うん。私も行く」
(デシリア、念のために表になって)
安全のために私が再び表になって体を動かす。
私達が動き出すとそれに合わせて兎猫も動き出し、少し速足で道案内を始めた。
舗装された道からは外れ、草の生い茂る暗い平坦な草の上を進んでいく。
ケミーとキディアは兎猫に視線を集中させ、私は周囲に魔物がいないか警戒しながら進んでいく。
この森には魔物は全く見られなかった。
その分、動物の数は多かった。
しばらく進んでいくとこれといった特徴も無い普通の木の前で兎猫は止まった。
木の根の部分は水草のようなゆらゆらとした形の仕切りになってる。
「ニャーニャー」
兎猫は私達に合図のような鳴き声を出すと木の周囲を歩き何かを探し始める。
「な、なんだろうね。ドキドキしてきた」
「私もドキドキしてきたよ。なんで私をここに連れてきたんだろう……」
珍しくキディアの発言にケミーが反応した。
ステラに関係しない事で会話をしたのを初めて見た。
もしかして私の知らない所で話をしてたりするのかな?
兎猫は探し物が無かったのか次は鼻をクンクンと震わせ匂いの後をゆっくりと辿っていく。
木から離れていくのを追いかけると模様の違う兎猫を1匹見つけた。
私達を案内した三毛の兎猫よりも少し大きいその兎猫は息が荒く少し苦しそうだ。
外見からは怪我をしてるのかは分からないけど動きが鈍いところを見るにきっとそうなのだろう。
苦しそうにしながらもその兎猫は必死に自身を引きずるようにゆっくりと体を動かしていく。
足の動きがぎこちない。
怪我をしてるのは足のようだ。
三毛の兎猫はどうにかして欲しそうにケミーの方を見て必死にニャーニャーと鳴いた。
「助けてって言ってるのかな? でも私にはどうすればいいか分からないよ……」
ケミーは困った顔で苦しそうな兎猫を見つめる。
「あ、あの、村の人を呼んできた方がいいんじゃないかな?」
キディアがおどおどしながら提案してきた。
(ねぇ、この猫デシリアの魔法で治せない?)
(多分治せると思う。じゃあ試しに魔法かけてみるね)
「待ってキディア。私が治せるか試してみる」
私は手を兎猫の足に当て、猫用の回復系の魔法を発動する。
魔法を掛け終わると苦しそうにしていた兎猫は一瞬キョトンとし、治ったのか平然とした息遣いになり駆け足で離れていった。
「あ、元気になったよ。ステラちゃん凄い凄い!」
ケミーが手をパチパチと叩いて褒めてくれた。キディアも真似て指で拍手した。
三毛の兎猫は大きい声で私達にニャーニャーと強く呼びかけた後、先に駆けて行った兎猫を追いかけ始める。
「あの鳴き声はお礼のつもりなのかな、元気になって良かったぁ~」
「良かったね。じゃあ戻ろうか」
ケミーとキディアは一件落着と思ったのか戻ろうとする。
しかし三毛の兎猫が戻ってきて今度はケミーではなく私のズボンの裾を口で引っ張った。
「これで終わりじゃないみたいだね」
「ニャーニャー!」
兎猫は何度も振り返りながら付いて来てとでも言うかのように催促してきた。




