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100万年後に幽霊になったエルフ  作者: 霊廟ねこ
2章 才色兼備の猫人魔術士
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49 三毛兎猫 1

 舗装された道を慎重に進んでいく。下を向けば猫や兎などの小さな動物達がたくさん行き来しているからだ。

 小さいからつい踏み潰してしまうんじゃないかと気になってしまうけど、私達が近づくと脇に寄って道を空けてくれるのでその心配はなさそうだ。


 心配はないけども、怖いので念のために足元には注意をする。


(そういえばデシリアって何かしたいことある?)


 地面の蟻の列に私が視線を向けてる時、ステラが意味ありげな質問をしてきた。


(何かって?)


(例えば故郷に行きたいとかってないの? デシリアの故郷)


(故郷……? でも100万年も経てば残ってないだろうし、あったとしても名前だけ同じで風景は別物になってるんじゃないかなぁ)


(そうなの?)


 私も分からないけど、生前の町や国なんて長くても2~3万年程の歴史しかなかった。

 そう考えると100万年も経てば荒地にでもなってるんじゃないかな?


(多分ね。無いかもしれないけど探してみるのも面白そうだね)


 故郷の事は気にはなるけど、気にしたくないというのもある。

 私の中では故郷はまだ存在してるからだ。

 まだ100万年後の世界に立っているという現実感は薄い。実は夢の世界なんじゃ……とそう思う事もある。


(なんでそんなこと聞いたかって言うとね、デシリアには私の夢を叶えてもらう手伝いをしてもらうんだから、私もデシリアの夢のお手伝いしなきゃって思ったんだ)


 可愛いこと言うね。


(ふふ、ありがとう。じゃあその時はよろしくね) 


(うん! それでデシリアの故郷の名前ってどんななの?)


 町の名前よりは国の名前の方を伝えた方がいいかな?


(町の名前言っても分からないだろうから国の名前を言うね。エルヴェクスタって名前のエルフの王国だけど、何か知ってるかな?)


(えるべくすた? えるふ? おうこく? えーっと、全然知らない。家に帰ったら調べてみるよ)


 ステラが知らないからと言って今の時代にないと決まったわけじゃない。


 私はあって欲しいって気持ちがあるから無いってことを確定させずに曖昧なままの方が気が楽でいいかも。


 話が一段落する頃にはさらに広く開けた場所に出た。

 太陽の光がよく当たる、暖かくて心地よさそうな場所だ。


 横長の椅子や花など彩りのある植物が配置され、中心には広場の大部分を占める池がある。


 そこには鳥と大小様々な魚が泳いでいた。

 ステラに名前を聞いてみるものの分からないようだ。


 代わりにケミーが得意そうに答えてくれた。

 極小サイズの地味な色をしてるのはメデカ、派手なのはギッピーというらしい。


 教えてもらって悪いけど、すぐ忘れてしまうかもしれない。


「詳しいんだね、何で知ってるの?」


「私が住んでた場所の近所のおじさんが飼ってたから教えてもらったんだよ、元気にしてるかなぁ」


 ケミーは笑いつつも寂しそうな表情を浮かべた。


「そのおじさんからしたら突然いなくなったケミーのことが気になってるかもしれないね」


「かもね、1度顔出して安心させてあげたいなぁ~。でも自分の住んでた場所がどこにあるのか分からないから無理かもしれないね」


「住んでた町の名前はなんていうの?」


「私の住んでる場所にはないんだ、名前。だからもう戻れないかもしれない」


「ステ……私とは違うんだね。ごめん、なんか気が利かなくて……」


 ついステラと言いそうになってしまった。

 キディアはステラの中に私がいることを知ってるけど、ケミーは知らないから気を付けないと。


「いいよいいよ、心配してくれてありがとう! あんな貧しい所いつかは出たいと思ってたし、これからはステラのいる町に住めるみたいだし、嬉しい事も多いから満足だよ」


 色々と思うところもありそうだけど、嬉しいという気持ちの方が強そうだ。

 なんでステラの町に行くことになったのかを聞くと面倒臭そうなのでやめておくことにした。

 

「ならいいけど、じゃああの魚はなんていうの?」


 話題が重くなってきたので再び魚に戻そうと試みる。


「ごめんね。知ってるのは小さいのだけなんだ、孤児院に入ったら色々勉強してみるね~」


 それ以外のサイズの魚についてはいずれも分からないようだ。


 魚を見た後は近くにベンチがあったので何となく座ることにした。


 ケミーは私の左に座り、キディアは私の右に座る。


 私は左右を挟まれてしまった。

 まぁいいのだけど。


 挟まれたからか少々暑苦しい。

 女である私は女に囲まれても嬉しくない。


 しかも子供の体格だと大人に近い二人の圧迫感が強い。


 女に囲まれているというよりは男に囲まれてるようなそんな錯覚がした。


 こんな感覚は何百年ぶりだろう。

 幽霊じゃない期間も含めると百万数年ぶりという言い方が妥当かな。


 そういえば今の季節ってどうなんだろう。

 

 暑さも寒さもそれほど感じないちょうどいい具合だから春か秋だろうか。


「ねぇ、あれってなんだろう、お店かな?」


 声を出したケミーが指差す方向に、幕が張られた簡易な小屋っぽいものを見つけた。

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