48 ステラの耳だからいいんだよ 3
「ねぇねぇステラちゃん、私の耳も触ってみる?」
ケミーが頭を下げるとステラはゆっくりと手を両耳に近づけて指を動かした。
「ぁ~ん、にゃぁん、くすぐったいくすぐったい~♪」
ケミーは目を細め、体をくねらせながら甘えた声を出した。
「うわ、気ん持ち悪っ」
ステラは顔を顰めると指を止めた。
「ああん、そんなこと言わないでステラちゃぁ~ん」
「その声やめて、鳥肌が立つ」
ステラは低い声で訴えるとケミーは流石にまずいと思ったのか普通に謝り始める。
「う、うん。ちょっとふざけすぎたね、ごめんなさい」
「はぁ……」
ステラはため息を吐くと再び手を動かし始めた。
そのたった数秒後、ケミーはまたもふざけ始めた。
「あん、にゃあん! くすぐったいよステラぁ~ぁぁああ!」
今度は抱えていた猫を放り投げ、無防備なステラに抱き着いてきた。
「ぶみゃぁぁぁぁぁ!」
これは猫の声。多分驚いたんだろう。
「わ、わあぁ~! 猫を放り投げるな、抱き着くなぁっ!」
ステラは倒されないように咄嗟に片足を後ろに下げ、抱き着いてきたケミーを突き飛ばした。
先に着地していた猫は倒れて来たケミーを器用に躱す。
キディアはオロオロとうろたえながら、尻餅をついたケミーを見下ろす。
「痛たたた……、急に突き飛ばすなんて酷いよぉステラちゃん」
「だ、大丈夫?」
キディアは心配そうに蚊のような細い声を掛けるけどケミーは聞こえてないようだ。
「で、でもいきなり抱き着いてきたケミーも悪いんだよ!」
「減るもんじゃないんだから少しくらいいいでしょ? ステラだっていきなり兎を抱いたじゃない……」
「何言ってるの、動物と人は同じじゃな――」
「はい! 私も抱き上げて」
倒れたままのケミーは両手を広げて要求した。
身長差があるし、子供で力の弱いステラが持ち上げるのは難しいだろう。
もし持ち上げられるとしても、ケミーの元気な様子を見て応じるとは思えない。
「自分で立てるでしょ?」
ステラは言葉を遮られたのが気に障ったのか突き放すように言った。
「冗談だよ、冗談! じゃあステラの耳も触らせてよ、えいっ!」
「わぁっ!」
ケミーは立ち上がり、突き倒したお返しとばかりにササッと素早い動きでステラの耳をつまむ。
ステラは驚き、ケミーの両腕を掴んだ。
すぐ引き剥がすかと思いきや、そのままの姿勢を維持する。
「ありゃ、剥がすかと思ったんだけど?」
ケミーも同じことを思ったようだ。
「わ、私の耳なんか触っても面白くないんじゃない?」
「ステラちゃんのじゃなかったら面白くないかもねぇ~。でも頭の上に耳が無いのは不思議な感じがするよ」
「あのさ、また抱き着かないでよ?」
「どうしよっかな~」
ケミーがからかうような笑顔を近づけるとステラは照れ臭そうに距離を離す。
「私はケミー達の耳と尻尾に不思議な感じを受けるんだけど」
「もしかして羨ましい?」
「う……羨ましい、ズルい、だって可愛いんだもん! 私もルイザちゃんみたいに可愛くなりたい!」
「そっかぁ可愛いと思ってたんだぁ~嬉しいな~……って、そこは私の名前を出してよ! でもステラちゃんも可愛いから自信出しなよっ!」
ケミーは元気づけるようにまたも抱き着いてきた。
「わあぁ、だから抱き着くなぁ!」
と、ここでキディアが慌てて間に入り、話題を変えて来た。
除け者状態に耐えきれなくなったのかな?
「あ、あああの!」
「そんな大声でどうしたの?」
ステラは聞き返す。
「あ……その、む、向こうの森の中に公園があるみたいだよ。その、行ってみない?」
キディアが指を差す方には森が見えた。
そこには手作り感のある木製の門が立っていた。
門の奥は舗装された道が境界線の様に森を左右に分けている。
門には下手糞な字で動物公園と書いてあり、動物達が門を出入りしている様子が目に入った。
「向こうから動物が来てるみたいだね、まだ時間はあるし3人で行ってみる?」
「行こ行こ!」
ステラがみんなに確認するとケミーはノリノリで返事をし、キディアは小さく頷いた。




