48 ステラの耳だからいいんだよ 2
私は近くを通る兎を見てふと思ったことをキディアに尋ねる。
「キディアって兎を見ると親近感湧いたりする? あ、失礼な質問だったかな?」
キディアは少し考えた後、よく分かってなさそうな返事をした。
「ううん、失礼じゃないよ。親近感は全然ないかな。兎って可愛いとは思うんだけどね。人間の方が親近感あるよ」
極一部だけが兎の特徴をしてるだけだから全体的な感覚は人間と同じかもしれない。
ケミーの方を見ると動物達は散り始めていた。
餌が貰えると思って近づいてたのかもしれない。
彼女は猫を1匹だけ抱えると私の方へ近づいて来た。
「ねぇ、この子、私に似てない? 可愛いよね!」
可愛い部分が似てると言いたいのか?
まぁ、可愛くないとは言えないくらいにはケミーは可愛いと思うけどね。
(色とか似てるけど、でもケミーは可愛くない)
ステラは辛辣だけどそのまま答えるのも可哀そうなので可愛くないという言葉は避けることにした。
「可愛い猫だね。耳と尻尾の模様はケミーと似てると思う」
似てるとは言ったけどケミーのことを可愛いとは言ってないのでセーフ。
「だよね、だよね! あぁ~持って帰りたいなぁ、でも孤児院では飼えないだろうし……」
「ぶみゃーお」
猫のブサイクな鳴き声に二人はビクッとした。
「おぉ、お前、ブサイクな声は私と似てないなぁ~」
ケミーが馬鹿にしたように言うと猫は声から嫌な感じを受けたのか威嚇を始める。
「ふしゃぁぁぁぁぁ」
「わわわ、ごめんごめん、ブサイクな声も可愛いよ~」
「誰かの飼い猫かもしれないし連れて行かない方がいいと思うよ? あ、こっちに兎が寄って来た」
私はケミーに注意した後、両手に収まる程度の兎を持ち上げた。
撫でるために兎を片腕で器用に抱え、その耳と全身を撫で回しながらキディアと見比べる。
「耳は似てないね、尻尾は丸くて似てる。猫も可愛いけど兎も可愛いね」
「あ、あの、ステラちゃん、私と比べてるの?」
キディアは自分の耳を触ったり、尻尾の隠れているお尻に目を向けたりする。
尻尾は布の上からはよく見ないとそこにあるとは分からない。
「そうだよ、失礼だったかな?」
キディアは頭を横に振って否定する。
そして耳を触りつつ照れながら誘うように聞いてきた。
「あ、あの……私の耳も触ってみる?」
(デシリア、ちょっと触りたくなったから交代していい?)
ステラは興味を示した。
断る理由もないので私は表をステラに交代した。
ステラは片手では触りづらいのか、兎をキディアへ渡す。
(預けないで地面に降ろせば良かったんじゃないの?)
(だって兎も触って比べてみたいんだもん、逃げられたらまた捕まえるの面倒だし)
「じゃ、じゃあ触るよ?」
ステラが少し緊張しながら言うとキディアはちょい頭を下げ、耳を垂らして触りやすいように配慮してくれた。
「いいよ、優しく……さ、触ってね?」
ステラは指で摘まむように優しくさする。
「ん、ん……あっ」
くすぐったいのかキディアは目を閉じ、体をピクリと震わせ変な声を出した。
ステラは兎の方の耳もさすり、感触の比較をしようとする。
その時、先ほどは動じなかった兎が暴れ出した。
「あ、あ、大人しくして、きゃっ! あー……」
キディアは必死に抑えようとするけどするりと地面へ落ち、猛スピードでどこかへ行った。
「あ、あーっ! なんで、何で逃げるの!? 待って!」
ステラは少しだけ追いかけた所で足を止め、キディアの方を振り向く。
沈んだ顔が目に入ったからか、ステラは気にしてないとばかりに笑顔を作った。
「ははは、逃げられちゃったね」
「ご、ごめんなさい。私がしっかり捕まえておけば……」
「それは違うよ! 私の触り方が悪かったんだよ。それでさ、兎とキディアの耳の感触って違うんだね」
「そ、そうなんだ。気にしたことも無いから私には分からなかったよ」
途中から黙って聞いていたケミーはキリが良さそうなタイミングで会話に入って来た。
「ねぇねぇステラちゃん、私の耳も触ってみる?」
彼女は猫を抱えたまま、触って欲しそうに耳をピクピクと動かす。
「え……うん。触ってみる」
以前は拒否したけど今度は誘惑には勝てなかったようだ。
相手がケミーと言えども猫耳の吸引力は強い。
ケミーが頭を下げるとステラはゆっくりと手を両耳に近づけてキディアの時みたいに指を動かした。




