48 ステラの耳だからいいんだよ 1
風呂に入った後は、少しだけお喋りをし、私以外はみんな就寝。
寝るときはステラを表にしないと体が休まらないかもしれないので私はいつも通り内側に籠った。
もう大丈夫だとは思いつつもキディアを警戒するために寝ずに見張りをして今日も夜を過ごす。
キディアはステラが寝静まった後、こっそりとステラの寝顔を眺めるために近づいて来るけど、それ以外の事はしてこないのでもう危害は加えてこないだろう。
何のために来てるかは分からないけど、微笑んだり、悲しそうな顔をしたりと表情は忙しい。
冷静になって考えると気持ち悪い事してるよね。
注意をするつもりはないし、ステラに伝えづらいのでしばらくは黙っておこうと思う。
ちなみにケミーはその様子をひっそりと見ていた。
キディアがステラに危害を加えるんじゃないかとヒヤヒヤしながら見てるに違いない。
一応キディアは刃物などの危険物は持ってないので心配はない。
ステラのリュックには入ってるけど怪しい動きをしたら私にはバレバレだし、ケミーの監視もたまにあるからそこには近づかないだろう。
そして何事もなく朝を迎えた。
出発は昨日と同じく午後で御者の方から私達に声を掛けに来るとのことだ。
「おはよ~、みんなもこれからご飯食べるの?」
朝食を取るために食堂へ向かう途中、ルイザと遭遇した。
いつもと違う砕けた口調が彼女から飛び出し、ステラとケミーは少し動揺した。
どうやら寝起きでまだ頭に血が回ってないのか素の彼女が出たみたい。
ケミーはそんなルイザを可愛いと言ってゆっくりと抱き着いた。
ルイザはステラと違ってケミーの事を気に入ってるからか、すぐに剥がそうとはしなかった。
そして4人で仲良く朝食を取った後は出発まで暇な時間があるのでルイザを除く3人で村の中を回ることにした。
ルイザも誘ってみたけど露骨に嫌な顔で拒否された、かと思うと非常に申し訳なさそうな顔で謝ってくれた。
ルイザが去った後でステラとケミーは彼女の態度の大きな落差に昨日みたいにまたも笑った。
キディアは不思議そうに二人の笑う様子を見ていた。
キディアはまだ笑う余裕が無いのか、あるいは真面目過ぎるのかもしれない。
(灰色のローブは着ないの?)
ステラは私に尋ねて来た。
ステラの恰好はギルドから貰った動きやすい半袖、長ズボンというその辺を歩く村人のようにシンプルなものだ。
(ローブは何かコソコソと活動をするときだけ着ようと思ってるよ。着るときは私が判断するからステラは勝手に着ないでね)
コッテンのことを知ってる人に出会うと面倒だから明るい時間帯に街中で着るつもりはない。
「ねぇステラちゃん、どこに行こうか?」
ケミーはニコニコしながらステラに尋ねてきた。
ステラはケミーに苦手意識はあるものの常に嫌というわけではない。
なので今は普通に対応した。
「どこと言われてもこの村の事知らないし……じゃあお店に行く? でもケミーもキディアもお金少ないよね」
「う……、もうこれ以上は買わないと決めたから! 商品を見たら誘惑に負けちゃいそうだから連れてかないで!」
ケミーは腕を交差させバツ印を作り、店には行きたくないと強く主張してきた。
1人だけの意見を聞くわけにも行かないのでキディアにも尋ねてみるとステラが行きたいなら行ってもいいと言ってきた。
(で、ステラはどうするの?)
(まだお菓子は残ってるし今はいいや。どうせ村なんて大したものは売ってないでしょ)
大したものが売ってないのは事実だろうけど、村だからってあまり下に見ないで欲しいな。
直接口に出さないならいいか。
「じゃあお店には行くのはやめて、村を見て回ろうよ」
ステラがそう言うと異論は出なかった。
別にステラが決めなくてもケミーかキディアが決めればいいとは思うんだよね。
でも二人ともステラに決めさせたがる。
誰も不満はなさそうだし、ステラも楽しそうだし気にしなくてもいいか。
3人はステラを中心にして歩き出す。
ケミーもキディアもステラにしか話しかけず、ステラは少し疲れを見せ始める。
ステラは特にケミーの相手をするのが面倒になったようで内側に籠り、私に押し付けてきた。
「ステラちゃん! あの雲見てみて、猫みたいな形してるよー」
「ほんとだー、犬……猫みたいだねー」
「ステラちゃん! なんかハエが多いと思わない? あ、私ねー、ハエを倒すのが上手いってよく言われてたんだよー」
「手で倒すんだったら汚いし洗ったほうがいいよ」
「ステラちゃん! 手をね、こうしてこうすると、ほら! オナラみたいな音がするんだよ!」
「ちょっと、みんな見てるからその音はやめてよ!」
しょっちゅう話かけてくるケミーに少し控えろとばかりに私は半眼で見つめる。
「ステラちゃん! そのウンザリした顔も可愛いね! 何か嫌なことでもあったのかな? 何でも言ってね!」
全然効果ないや。
ケミーは私にばかりでキディアに話しかける気配が無い。
キディアも気を使ってるのかケミーに話しかけない。
二人とも同じ孤児院に入るだろうし今のうちに打ち解けて欲しいところだ。
村を歩いて感じたことだけど厳戒態勢だったサービル村と違い平和そのものだ。
今はサービル村も平和が戻ってはいるけどね。
平和とはいえこの村には巡回している冒険者がちらほらと見られる。
彼らの冒険者ランクを聞いてみるとランクDが多かった。
この村出身の人達が多いようだ。
この村がサービル村よりも平和だと感じる部分だけど、それは猫や兎などの小型の動物がチョロチョロと我が物顔で歩き回っているからだ。
駆除してる人がいないので害獣ではなさそう。
時折、猫が他の動物にちょっかいを出してはいるけど手を出された方は捕食されないと分かってるのか警戒する様子も見られず、お互いに仲良くじゃれあっている。
人目線だけじゃなく動物目線でも平和なようだ。
「わー、可愛い! 触りたい! 触らせてぇー!」
ケミーは私達を置いて動物を追いかけまわした。しかし動物達は逃げず、興味深そうにケミーに近づいて行く。
ケミーは少し追いかけただけで大量の小動物にあっという間に囲まれてしまい身動きが取れなくなった。
「あの、ステラちゃんはどんな動物が好きなの?」
キディアが私に話しかけて来た。
「そうだねぇ……」
私の好みを教える訳にも行かないのでステラに尋ねようとすると聞く前に返事をしてきた。
(猫でしょ、犬に、兎に、ハムスターに――)
ハムスター? そんな名前は聞いたことがない。
(待ってステラ、ハムスターって何?)
(リスというよりネズミ寄りのネズミかな? でもすっごく可愛いんだよ)
ちょっと何言ってるか分からない。
ネズミ寄りのネズミってそれ鼠でしょ?
最初から鼠って言ってよ。
「猫に、犬に、兎に、鼠、色々好きだってさ」
(鼠じゃなくてハムスターだよ!)
ステラが指摘するけど大した違いはないと思うので無視する。
「……『好きだってさ』? ふふっ、言い方には気を付けた方がいいんじゃない?」
他人事の様に言ってしまった私にキディアは小さく笑みながら顔を耳元に近づけると小さく注意してきた。
彼女は私の事を知ってるのでステラの好みを私が代弁したと思ってそうだ。




