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100万年後に幽霊になったエルフ  作者: 霊廟ねこ
2章 才色兼備の猫人魔術士
73/282

46 会議 1

 デシリアの生きていた時代、勇者といえば本の物語上の架空の存在だった。


 悪者が世界を恐怖に陥れ、勇者と呼ばれる者が果敢にそれを打ち破って世界を平和にする、そんなありふれた物語。


 その時代から100万年が経過した現代には勇者の国があり、勇者は実在する存在となっていた。


 国の名はソールディアといい、山々の連なる、人が生きるには厳しすぎる極寒の地にあえて建国された。


 都市はドーム状で透明な壁により密閉されており、国内の都市間の移動は寒さから身を守るために大きなパイプ状の通路を通ることで成り立っている。


 極寒の地にも拘わらずドームの中の気候は安定しており、古くから続く高度な機械がそれを可能にしている。


 人々が生活を営む住宅や商業施設は赤い三角形の石造りの外観で、それが整然と並んでいる。一方、行政機関の建物はそれら古臭い外観と比べると異様な姿をしており、四角い柱がガラス張りの高層ビルのようになっており、鏡のように周囲の風景を反射している。


 住宅と行政機関の外観は違うがどちらも非常に高度な物が使われているため滅多に劣化や破損などは起きず、数百年に一回程度の維持管理を機械がどこからともなく現れて勝手に行っている。


 そんな勇者の国ソールディアは、現代において当の国民以外にはほぼ知られていない。

 かつて人類存亡の危機から世界を救った偉大な国にもかかわらず、数千年ほど平和が続いたために世界の守護者としての存在意義が薄れてしまったからだ。


 彼らの存在は人々の記憶から必要の無いものとして忘れ去られた。


 冒険者として働こうとする者もいたがソールディアの上層部はそれを認めることはできなかった。

 勇者達はいつか来るかもしれない世界の危機に備えて訓練に明け暮れるだけの日々を過ごすこととなった。


 しかし何があったのか、約1000年前から何かしらの活動を水面下で始めた。

 その代表的な活動の一つが冒険者の討伐である。


 勇者の国にとある報告が届き、勇者省と呼ばれる高層建築の地下の一室で会議が始まった。


「闇の勇者がやられるのは非常にマズイですよ。我々の仕事が増えてしまう」


 オレンジの光を薄っすらと放つ木壁は会議室を温かく包んでいた。


 部屋の中心部では勇者省の最上層に当たる指導部の6人がドーナツ型の机に座り、そこから意見を飛ばし合っている。

 指導部は全員で7人おり、そのうちの1人は勇者省の最高権力者であり勇者でもある。


 しかしこの場に唯一の勇者はまだ来ていない。


「もしや勇者は弱体化でもしてるんじゃないのか?」


 全員の表情は事態を重く見ているように装っているが、実は深刻に捉えている者はいない。

 さっさと会議を終わらせて家に帰りたいと思っている者ばかりだ。


「平和が続き過ぎて弱体化の可能性は否定できないが、だとしても弱くはないはずだ。で、どうする? コッテンという名の冒険者を見つけて始末するのか? アルスは光の勇者をそんなことには出さないんじゃないか?」


「この報告には2人で対応して1人が生き延びたと書いてあるな。それを見るに1人しか倒せない程度の力しかないようだし、それほど脅威ではないと見える。光の勇者は必要ないだろう」


 6人の正面には空中に投影された光る画面があり、そこに簡単な事の顛末てんまつが書かれている。


「だが闇の勇者クラスの強者ということには違いない。早急に対応をするべきだ!」


「闇の勇者を何人向かわせるかだが、2人で駄目なら3人でも危ういだろう。犠牲を出さないなら最低でも4人以上が必要ではないか?」


「その前に犯人の居場所を特定しなくてはいけないのでは? 特定するまでの間はアレスティア内の冒険者討伐を休止しましょう」


「休止なんかしたらアルスに何か言われるんじゃないか? 犯人の特徴を周知させ、ランク闇未満の勇者は接触を避けさせて継続するってのはどうだ?」


 たびたび出て来るアルスという名は勇者の再上位ランクの称号であり、たった一人にしか与えられていない。


 アルスの勇者は本名では呼ばれずアルスと呼ばれている。

 そのアルスの勇者の命令により勇者達は冒険者討伐に派遣されているため、それが滞ると機嫌を損なうのではと懸念がある。


 光の勇者はアルスの命令でしか動かないが、闇以下の勇者達への指令は指導部の6名に広い範囲の権限が与えられている。


 基本的にアルスは光の勇者以外の動向には口を出さない。

 稀には出すが年に数えられる程度で、軽いお使いのような命令だ。


「周知しようが勇者は機械と違って人間だ。きっと間違いが起こるだろう」


「やはり休止しかないのでは? 他の場所の勇者はそのまま続行するわけだからそれほど影響はない」


「犠牲者がさらに出てしまう前に早めに休止の通達をしましょう」


「それもそうだな、では採決を取るぞ。アレスティアにいる勇者へ冒険者討伐の休止の通達をした方が良いと思う者は休止に票を投じるように」


 6人の前には空中に浮かんだ光る画面に休止と続行の2つの言葉が並んでいる。

 さっさと会議を終わらせたいがために全員が指を休止に合わせた。


 票数は表示されず、どちらの結果になったかだけが表示された。


「休止に決定だ」


 採決された指令は早急に別の部署に送られた後、世界各地の勇者へ通達される。


「事が解決次第、冒険者討伐を始動させよう。さて、続いて犯人の討伐のために闇の勇者は何人必要かについてだが」


「闇の勇者なんかよりも光の勇者が出てくれればすぐに解決しそうだが――」


「なら、俺が行きましょうか?」


 遮るように発せられた声の方へ全員の顔が一斉に向く。


 そこには二人の男が立っていた。

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