45 黒づくめの子 1
ケミーはキディア以外のみんなと打ち解けていたし、むしろマリア達の所に行くのが自然だと思うんだよね。
ステラだけと仲が良いわけじゃないし特別仲が良いわけでもないし。
でもステラには異様なまでに好意を示してるんだよね。とはいえそれが理由だとしても腑に落ちない。
ステラと同じ町だからといって気軽に会いに行けると思ってるのかな?
もしかしたら後でガッカリするかもしれないな。
昼になったので食堂に向かった。妙に周囲が静かだと思っていたらキメラ討伐が終了して人が減ったからか。
少しだけ寂しさを覚えた。
昼食を終え、しばらくすると出発の時間がやって来た。今から出発したらすぐ夜になるけど大丈夫なのかな?
私達が乗る鳥車は孤児院専用ではなく冒険者ギルド所有の乗合鳥車だ。いや、鳥バスという名前だったか。御者もギルド関係者らしい。
鳥車の大きさは孤児院用より少し小さい。客車を引く鳥によってサイズが変わるのだろうか。先頭に繋がれている鳥は他より少し小さかった。
小さい方は力が落ちるのかもしれないけど可愛さは増すので私としてはこっちの方を歓迎する。
頭頂部は槍が天を突くかのようなピンとまとまった毛が立ち、目はつぶら、頬は照れてるかのような赤い丸が描かれ、翼はふわふわとしていて、全身は薄い黄色でふっくらまん丸、足は短く力強さよりは鈍臭そうな印象を受ける。
こんな鳥、生前には見たことなかったな。私は生前の時代の全てを知ってるわけじゃないのでもしかしたらこういう鳥もいたかもしれない。
近づいてみると意外と大きい。手を伸ばしてギリギリ触れる翼に触れようとすると背後から声が掛かった。
「あ~駄目だよ。蹴られたら危ないから離れて離れて」
この鳥車の御者の男が離れるように注意をしてきた。
「大丈夫大丈夫、私は蹴られても大丈夫だから」
(蹴られたらどうなるんだろ!)
ステラは私がいると絶対に大怪我しないと分かってるのか、蹴られることに期待している。安全が保証されてれば本来は危険なことでも挑戦できるのは私達に与えられた特権だね。
身体強化があるのだから鳥の蹴り程度、全く問題ない。そんなんで死んでたら勇者とはとても戦えないよ。
「何を言ってるんだ、君は子供じゃないか。大丈夫じゃないよ! 離れなさい!」
だけど怒られた。両脇を抱えられて鳥から離されてしまった。
「どれくらい危険か実演するから見てなさい」
「はい?」
そう言って御者の男は鳥に自分を軽く蹴る様に言った。
この鳥って人語を理解できるのか?
(だ、大丈夫なのかな?)
ステラが不安を漏らす。
鳥は戸惑いながら男に近づくと男は念入りに「強く蹴るなよ? 軽くだぞ軽く!」と強く言い放つ。鳥は返事とばかりに鳴くと足を勢いよく動かす。
その直後、男は宙を舞った。
(わわわわわ、あんなに飛ぶんだ、怖っ!)
ステラは驚きながらも感情を自制出来てるようで直接口から声が漏れることは無かった。
男は10m近く飛ばされ、地面を勢いよくゴロゴロと転がる。
すぐさま立ち上がり、何事もなかったように私の元に戻って来た。
「ほら、私だから何ともなかったけど君だったら死んでたぞ! これでも蹴りは軽い方だから鳥に近づくのはやめなさい、分かったね?」
私は頭を縦に振った。
大丈夫だとは分かっててもあの姿を傍から見せると観衆を怖がらせてしまうみたいだ。
普通にピンピンしてる所を見るにこの人も身体強化を使ってたのかな? そうじゃないと無事じゃないよね。
というかステラの体が吹っ飛ぶ様子を見られたら非常にまずいことになってたな。
鳥に夢中で忘れてしまっていた。
御者の男は私を軽く叱った後、鳥車の扉を開けに向かった。
その様子を見ていたケミーが私の元に寄って来た。
「今の凄かったね~、でもステラちゃんなら蹴られても大丈夫だよね? そうだ、鳥の代わりに私の耳触ってもいいよ?」
ケミーは私を気遣って、耳を触らすために頭を下げてきた。
「あー、結構です」
「遠慮しなくていいのに~」
ステラが嫌がったので私は断ることにした。すると近くで見ていたキディアも残念そうにしていた。
兎耳をさすって私の方を見ていたのでケミーと同じことを考えてたかもしれない。
少し待つと私達は村のギルド職員に案内されたので鳥バスに乗り込んだ。
鳥バスの中は通路は真ん中にあり、それが座席のある部屋を左右に分けている。
座席の向きは前と後ろの対面式になっていて一部屋あたり4席となっている。
(思ったより椅子が少ないね)
外から見た鳥バスはもっと乗れるように見えたけど、後方の空間はベッドが置いてあったり、倉庫のようになっていたから座席は少ないようだ。
ベッドの部屋にも座席はあり、そこを含めればもっと座れそうだけど、あんな所に座るのは凄く抵抗がある。ベッドは体調不良になった人のための物だろうか?
そういえば御者の男は村のギルド職員から私達についての簡単な説明を受けていたので私達からあれこれ説明する手間はなさそうだ。
私達が乗った後、鳥バスは孤児院専用とは違い貸し切りでもないため色々な人達が乗り始めた。
ギルド所有だからといって乗れるのが冒険者だけ、というわけでもないようだ。
乗り込んできた中の一人に、数日前にお店で出会ったステラくらいの年の猫人の黒づくめの少女がいた。




