4 勇者ってなんだ?
早足で私はゴードンに近づくとキィンという弾く音が数回続いた。
「く、くそぉ!!!」
効果がないと悟ったのか筒状の武器を捨てるとナイフで私に襲い掛かってきた。
さっき自分で殺すのが嫌だとか言ってたよね、このデブ。
でも私はお前より強いからそんな嫌な思いをしなくて済むよ。良かったね!
私は魔力の節約のために障壁を解除し、向かって来たナイフを僅かな動きで躱し、足払いでゴードンを転倒させる。
「ぐばぁっ!」
床に正面から全身を打ち付けると変な声が漏れ、握っていたナイフは零れ落ちた。
私は頭を「えいっ!」と軽く蹴った後、腰に足を乗せ身動きを封じる。
こいつは恐らく他の悪事もありそうだけど、私はそういうのを追っているわけでもないのでそんな情報は別に要らない。
なので消えてもらってもいいだろう。
頭に手を当て、そこに魔力を集中させ、消滅魔法を発動。
「く、くそ、子供のくせに強すぎる。まさかお前は勇者――」
喋ってる途中でゴードンの全身は白く光り出し消滅した。
「やっと終わった」
面倒な事が1つ片付いたけど肝心の子供達の問題はまだ解決していない。
急いで森を抜け出して安全な場所に連れて行かなきゃ。
私は子供達の元に急いで戻る途中、ゴードンの言葉を思い出す。
なんであの場面で『勇者』って言葉が出て来た?
勇者は私の時代では子供向けの本の中だけの存在だ。
平和を脅かす悪者を勇者と呼ばれた者が討伐するという物語で、子供達――主に男の子から絶大な人気があった。
そんな子供しか口にしない言葉を大の大人が追い詰められた状況で言うのは私の時代だったらありえない。
だから妙に引っ掛かった。
ということは現代においては『勇者』は存在しているのだろう。
とりあえず今は子供達の所へ戻るとしよう。
私は子供達全員の無事を確認すると引く鳥のいなくなった鳥車に子供達を乗せ、私を刺したキディアという名の兎人は車内にあった縄で手を縛って座席に座らせた。
鳥車――鳥がいないから『客車』と呼ぶか――に子供達を乗せたのは安全に森の中を移動するためなんだけど、引いてくれる鳥はもういない。というわけで私が引くことにした。この程度の重さなら魔法で身体強化をすれば余裕だろう。
(ステラ、目を開けてもいいよ)
心の毒になる場面は過ぎ去ったのでステラに声を掛ける。何が起きてたかは音だけで把握してたようだけど特に怖がってる様子はなかった。
(また変なのが来ると困るし危険なこの森からさっさと出るね)
ステラにそう告げた後、私は車内にいる子供たちに出発することを伝えた。
(こんな馬鹿でかいものを引っ張って動かすって……子供たちはともかく誰かに見られたらどうするの?)
ステラが呆れながら聞いてきた。客車は小さな家に車輪がついてるような形をしている。
確かにこれを子供の姿でたった1人で引くのはかなり目立ってしまうかもだけど、でも今は森の中だし大丈夫だと思う。
客車をどうするかは後で考えるとするか。
(森を抜けたらたまには私に体返してね。動かし方忘れそうだし)
(悪いけど安全な場所までは我慢してね)
体を動かしたがっているステラにはもう少し我慢してもらうことにした。
森の中には鳥車が何度も通ることによって出来上がったと思われる細い道が2本並んで伸びている。私は森の外に続いているであろうその道を辿ることにした。
途中、殺し屋のレフに向けて飛ばした光弾の着弾地点付近を通りがかる。レフの屍でもないか探してみるけど地面に穴が開いているのと剣の鞘以外は特に何も見当たらなかった。どうやら逃げられてしまったようだ。
落ちていた鞘に奪った剣を納めてみればサイズがぴったりだったのでお持ち帰りすることにした。
その後は特に目立った事も無く、襲って来た動物や魔物を撃退して森の外へと向けて進んで行った。
* * * * *
森を出ると視界には、雲一つない青空、広く生い茂る草原、それを裂くように横切る川、広い湖、そびえ立つ山、村と思しき複数の建物が映しだされた。
さっさと子供達を誰かに委ねたいので村に向かう事にした。




