44 出発直前 2
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「すっごおおおおおおおおおい!」
入店するとケミーは耳を塞ぎたくなるほどの歓喜の大声を出した。
「しーっ! 声大きすぎ!! 店の人も驚いてるよ」
「ご、ごめん、つい嬉しくて」
私が注意するとケミーは見るからにしゅんとした。
「こんな何もない所なのに喜んでもらえてこちらこそ申し訳ないよ。良かったら何か買っていって」
店の人はケミーが喜んでくれた事が嬉しかったようだ。
そのケミーとは対照的なキディアはおどおどとした様子でお店を見回していた。
「あの、ステラちゃん。やっぱりお金返す」
どういうわけかキディアは返そうとしてきた。
「いや、それは自立のためのお金だから遠慮しなくていいよ」
「で、でも――」
「いいからいいから、今貰っとかないとしばらくお金手に入らないかもしれないよ?」
「そ、そうか。う、うん。色々と本当に……ごめん」
「必要な物があったらそのお金で買っていいよ」
私がそう言うとキディアは誘惑に負けたのか商品に目を向け始めた。
「あー! あれはステラちゃんが着てた服だ!」
ケミーは私が着ていた猫耳フード付き灰色ローブを見つけまたも大声を出し、自分でも着れるかサイズの確認を始めた。
しかし子供用のそれは大人体型に近いケミーには合わなかった。
悔しそうな顔をし、戻そうとするけどやっぱり諦めきれないのか手に持って広げたままジーっと見つめる。
「無理やり着れば伸びてピッタリのサイズになるはず、なんだろう、今日は頭が冴えてる!」
伸びた所で大して使い道がないだろうにケミーは思い切って購入してしまった。
他にも私が持ってるのと同じお揃いのリュックを購入した。
「ステラちゃんとお揃い~♪」
(何がそんなに嬉しいんだろ)
嬉しそうなケミーに対するステラの反応は冷え冷えだ。
温度差が激しくて、なぜか私の心が風邪をひきそう。
よく分からないけど私はケミーに同情してるのかもしれない。
ケミーはまだまだ他にも欲しい物はあったみたいだけどお金を残しておきたいらしく惜しそうに諦めた。でも買ったものを凄く嬉しそうに眺めていた。
その幸せそうな姿に私はもっとお金を渡したくなる衝動に駆られたけどステラに怒られたので一瞬で気持ちは鎮静化した。
このお金はステラの物でもあるし、ステラはケミーが苦手だからそりゃ怒るね。
キディアは手提げの付いた布の袋と透明な容器に入った水と、同じく透明な容器に入った飴とクッキーを買った。
石鹸や歯ブラシも欲しがっていたけど孤児院にもあるかもしれないからと諦めた。
「ステラちゃん、ありがとう。ごめんね、ごめんね、私、ステラちゃんに迷惑ばかりかけて、うぅうう」
キディアは急に泣き出した。
(え、え? デシリア、どうする?)
彼女はまだ気にしてるんだろう。
施しばかり受けて迷惑ばかり掛けてる何もできない自分の事が辛いのかもしれない。
私はキディアの左右のホッペを引っ張り、笑顔で見つめる。
「喜んでくれた方が嬉しい、泣かれる方が私も辛いよ」
そう言うとキディアはぎこちない笑顔を作り、再びお礼を言う。
「ごめんなさい、ありがとう、私迷惑かけてばかりだね」
よほど重荷になってるようだ。
対応するのも疲れるからさっさと立ち直って欲しい。
さて、私も何か買うことにしよう。
だけど私が欲しい物は一切無いのでステラが欲しがっていたポテチという芋を薄くして作られたお菓子を複数買うことにした。
ポテチは薄い紙のようなもので厳しく密閉されている。
歯ブラシや石鹸は魔法で代替出来るから必要ない。
それにステラの町に着くまではギルドが全て面倒を見てくれるので何も準備する必要は無いだろう。
お店を出た後は他に目ぼしい場所はないので3人でギルドに戻った。
* * * * *
まだ宿舎の部屋は使ってもいいとのことだけど、もうすぐ昼食時間なので私は待合室で待機することにした。とは言ってもまだまだ長い事待つけどね。
何もすることなく時間を過ごしているとケミーとキディアが集まって来た。
(ねぇデシリア、ケミー達は部屋に行かないのかな?)
私も気になったのでケミー達に尋ねることにした。
「こんなとこよりも部屋の方が落ち着くんじゃない?」
「まぁそうだけど、ステラちゃんがいないと寂しいし……もしかして迷惑だった?」
いくらステラがケミーのことを苦手といえども、ただ近くにいるだけで迷惑などという非情な事を言うわけにもいかない。
だけど、迷惑ではないと答えるとベッタリしてきそうなので返事に困る。
キディアにも意見を聞くことにした。
「キディアはどうなの?」
「ス、ステラちゃんが一人がいいなら……離れておくね」
キディアは寂しそうな顔をすると離れた椅子の方を向いた。
(このままだとケミーの相手ばかりさせられちゃうからキディアを隣に座らせて!)
ステラはケミーが無理矢理隣に座ろうとすると思ったのだろう。
私はキディアに呼び掛ける。
「隣に座ってもいいよ?」
私が告げるとキディアは笑顔を浮かべ、隣に座った。
するとケミーはキディアの反対側に座りだした。
「じゃあ私は反対側に座るね!」
キディアは良くてケミーが駄目とも言えないのでステラには我慢してもらうことにした。
二人は隣に座ったけど話したいことが思いつかないのか沈黙し、視線を彷徨わせる。
私からも話したいことは特に無い。
毎日何かしら話をしているし、こんな何もない村だと話題もすぐ尽きちゃうから仕方がないことかもしれない。
(ねぇデシリア、ケミーとキディアは孤児院に行くのかな? この村でお別れじゃないよね?)
そういえば二人がどうなるかは知らない。
ケミーは後で出発するらしいから孤児院だろうけどキディアも同じなのかな?
「ケミーとキディアは孤児院に入るんだよね?」
「そうだよ~、私はステラちゃんの町にある孤児院に入ることにしたんだぁ!」
ケミーはステラと同じ町に向かうようだ。
「あの、ステラちゃん。私もケミーと同じで、あの、その、町で会ったら……よろしく!!」
「私も! 私も町で会ったらよろしくねステラちゃん!」
よろしくねを言い忘れてたケミーが負けじとキディアの印象をかき消すように主張した。
こううるさいとディマスみたいな人に絡まれるのを心配してしまうけど今は誰もいないので大丈夫だ。
「う、うん。その時はよろしくね」
二人とも行く場所がちゃんとあったようで安心した。
ケミーが言うには急な変更でもギルド職員が快く対応してくれたみたいだ。
ステラの町がどこにあるかは分からないけど、そんなすぐ手配できるようなものなのかね?
もし、やり取りが中途半端で孤児院に空きがなかったらどうなるんだろう。
考えすぎか、急遽行き先を変更できたのは大丈夫だからだよね。
心配しすぎたところで私に出来ることはもう無い。ギルドを信じよう。
(え? ケミーも一緒に来るの?)
ステラは嫌そうに言った。
向かう方向が一緒なら鳥車――鳥バスに一緒に乗ることになるだろうし隣に座られたら厄介だろうな。
(そうみたいだね。でもステラは孤児院に入るわけじゃないし町に着いたらお別れだよ)
(それもそうだね。なら良かった)
(でも着くまでの間は一緒だろうね)
(う、余計なこと言わないで!!! いじわる!)
(あぁ、ごめんごめん)
ケミー達はなんでステラの町の孤児院に行きたくなったんだろう。
キディアは顔見知りが少ない方がいいから分かるんだけど、ケミーは何故?




