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44 出発直前 1

 イブリン達が村を発って1日が過ぎた。


 現在の時刻は太陽が少し上った朝、私達は予定通りなら今日までに村をつことになる。その予定は崩れること無く順調に進んでいた。


 冒険者ギルドすぐ近くの簡素な木造の厩舎きゅうしゃには何台か鳥車ちょうしゃが停まっている。どの鳥車の客車も私の時代のものとは比較にならないくらいに大きく、人がたくさん乗れそうだ。


 その中に他とは違う外装の鳥車が1台ある。それは孤児院専用で冒険者ギルドが所有しているようだ。ギルドと孤児院には深い関係がありそうだ。


 孤児院専用を除く他の鳥車は決められたルートしか通らない乗合馬車と同じものだ。馬を使ってないため乗合鳥車という呼び方かと思いきや、鳥バスと呼ばれている。


 他には直接指定した目的地に送ってくれるタクシーと呼ばれるものも町にはあるようだ。タクシーはこんな田舎には来ないよと言われた。


 そろそろ出発の時間が迫るので子供達が鳥車の前に集まって来た。

 子供達はステラとは違う方向に行くのでほとんどがここでお別れだ。


 乗らないのはケミーとキディアの2名。


 ステラ以外は最初は全員同じ方向に行くと言う話は聞いてたけどいつの間にか二人は変更していたみたい。どうも私とステラだけ知らなかったようだ。


 ステラは午後出発なので先に発つ子供達を見送る側になった。 

 ケミーとキディアも見送る側だ。


 御者の人が子供達の前に現れると車内への案内を始める。

 子供達は騒がしくなるのかと思いきや静かに行儀よく乗り込んだ。


 マリアが躾けたのかもしれない。


「ステラ、あの時はありがとう。あなたがいなかったらまだ私達はあの屋敷にいたかもしれない」


 マリアは私の前に立ち止まり、優しく抱き着くと耳元で感謝の言葉を述べた。

 私が助けたと言う不自然な会話を聞かれないようにするための配慮だろう。


 先に乗った子供達のほとんどはお礼を言わずに軽くお別れの言葉を言うだけだった。

 私が討伐に出かけてばかりであまり構ってなかったし、名残惜しい気持ちは小さいのだろう。


「それと本当にこんな大金貰っていいの? あなたからは施しを受けてばかりで心苦しいのだけど……」


 私はみんなに餞別として1万ルドの紙のお金を渡した。


 今の私は現在100万ルド以上持っている。冒険者のヤンさんに貸していた剣をやっぱり買い取りたいと言われたので売却し、高値で売れたためだ。


 あんな高く売れるとは思わなかった。

 得体が知れないからと買い取り拒否され続けてた物だったし、なぜ急に買い取ろうと思ったのやら。


 というわけなのでお金はたくさんある。

 1万ルド程度の額を8人分に渡しても全然痛くもない痒くも惜しくもない。


 ……嘘ついた、本当は惜しい。惜しいけどみんなの役に立つならいいのだ。


「いいよいいよ、気にしないで。気にするなら無駄遣いはしないでちゃんと為になるような使い方をして欲しいかなぁ」


 少ない額かもしれないけど将来の役に立つような使い方をして欲しい。


「うん、そうするね。ありがとう、さようなら。……また会いましょう」


 マリアは鳥車に乗り込んだ。


「では出発します。危険ですので鳥車から離れてください」


 子供達が全員乗ったのを確認すると御者の男が鳥車の周囲にいる人たちに注意を促す。

 程なくしてみんなを乗せた鳥車は徐々に動き出した。


「みんなー、元気でねー! マリアー、また会おうね!」


 ケミーは大声で最後の言葉を必死に飛ばした。

 鳥車に乗ったみんながそれに応えるように窓から手を振り、そして遠ざかっていく。


 手を振るケミーの顔は少し涙ぐんでいた。


 キディアもそわそわしてて何か言いたそうにしてはいるけど勇気がないのか何も言葉は出なかった。誰からも声を掛けられなかったようだし、そうなったのも仕方がないか。 


 鳥車は建物に隠れ姿が見えなくなった。

 ケミーは名残惜しそうにしばらくの間、鳥車の進んでいった先を見つめていた。


「じゃあ私達は出発までまだ時間はあるし、ギルドの中で待とうか」


 落ち着いたケミーは笑顔で私に言った。


 さて、出発の時間までは自由で暇な時間だけど何をしようか。


 もう村は安全になり、巡回している冒険者も最低限の人員になったようなので私達は自由に出歩ける。


 そういえば私は比較的自由に出歩いていたけどケミーとキディアは危険だからとギルド周辺しか行ってないようだった。


 ということはギルドから離れたお店には行ったことがないかもしれない。


 時間を潰すのにちょうど良いと思った私は彼女達をお店に連れていくことにした。

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