43.5 保険
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翌日、デシリア達が部屋で今日の時間をどう潰そうか悩んでる頃、イブリン達は待合室でディマスが冒険者ギルドから報酬を受け取るのを待っていた。
「コッテンさん見送りに来ますかね?」
「見送りはいらないと言ったから来ないだろうな。たかだか2日程度の付き合いだ、そこまでやる義理もないだろう、それに昨日で契約は終わってる」
イブリンは期待はするなと自分に言い聞かせるようにフェリクスに言った。
彼女も少しは期待しているが顔には出さない。
「報酬を受け取って来たぞ。分けるのは鳥車で移動するときでいいか?」
少しすると報酬を受け取って嬉しそうなディマスが戻って来た。
ディマスの提案にみんなは同意した。
「まだ出発まで時間はあるみたいだしちょっとお店に行ってくる」
「じゃあ俺も暇だから行く」
フェリクスとアージェンは時間を潰すためにお店に向かうことにした。
「夢中になって時間のことは忘れるなよ、町へ徒歩で戻ることになるぞ」
「言わなくても分かってるよ、お前は俺達の母ちゃんかよ」
ディマスの注意にアージェンとフェリクスは笑いながら言い返した。
「うっせぇー! さっさと行け!」
ディマスは乱暴に送り出すが、そういうやりとりはよくやるので内心では気にも留めない。
イブリンはそれをなんとなく眺めた。
「イブリン、ちょっといいか?」
ディマスは真剣な様子でイブリンに近づく。
「なんだ、私のママになりたいのか? 私がママになる方が自然じゃないか?」
「ちげーよ、コッテンのことについてだ」
「あいつがどうかしたのか?」
ディマスは首を横に振る。
「正確にはコッテンのことじゃないけどな。今回はたまたま俺達は助かったが次またあんなことがあれば臨時で雇った奴も巻き添えで全滅だ」
「それもそうだな、つまりはもう雇いたくない、ということか?」
「そうじゃない、一時的なものじゃないちゃんとした仲間を募った方がいいんじゃないか?」
元々誰かを臨時で雇おうと提案したのがイブリンだった。
そのためディマスはイブリンにそのような話をしている。
「だが人員を増やせば私達の取り分も減る。簡単な仕事なら4人どころか3人でも十分だ。なら難しい任務の時だけ臨時の仲間を雇う方が安上がりだとは思うぞ?」
イブリンは臨時の仲間に拘った。
「確かにそうだな。だがそれも毎回雇えるわけじゃねぇ」
「毎回じゃなくても私は気にしないぞ。それに臨時の方が強い人を雇いやすい。私レベルの者がお前達レベルの正規の仲間になることなんてあんまりないぞ?」
「うっ、分かってるよ。だからあいつらには強くなってもらわねーと困る」
「私としても正規の仲間の方がいいとは思ってるぞ? 現実的に無理だから一時的な仲間を雇おうと、この話は何度もしたはずだが?」
強力な仲間がいればイブリンの負担が減る。
イブリンがいなくてもディマス達は安心して戦いやすくなる。
「だがなぁ、臨時の仲間ってのは俺達と繋がりが薄い。そんな無関係に近い奴を俺達のせいで死なせてしまったら申し訳ない気持ちにもなるだろ?」
「……そんなの引き受けた相手の責任だ。死ぬのが嫌なら断ればいい、そうじゃないのか? それにしてもお前のその優しい所が私は好きだぞ、付き合うか?」
「急にふざけるんじゃねぇよ、俺は真面目に話してるんだ、よ!」
ディマスはイブリンを軽く叩こうとする手を直前で止める。
コッテンの「暴力は良くない」という言葉が脳裏によぎったからだ。
イブリンは止まったその手を掴み、自分の頭に勢いよくバシバシと何度もぶつけた。
「真面目な話をされるとふざけたくなるもんだ。それに私はお前に叩かれるのは嫌いじゃない。思うことがあれば自由に言ってくれても構わない」
「……お前、気持ち悪いな」
ディマスはイブリンの頭を叩く自分の手を見ながら少し嫌そうな顔をした。
「その言葉は傷つくからやめてくれ」
イブリンは掴んでいた手を乱暴に離した。
ディマスは真面目な顔に戻し、脱線した話を元に戻す。
「話を戻すぞ。誰も雇わず俺達4人だけでってのは駄目か?」
「そうなると私の負担が大きくないか? 私はいつこのチームを抜けてもいいんだぞ?」
本当は嫌だがディマスがそれを許さないことをイブリンは理解している。
イブリンがいなければ仲間の負担が増大するからだ。
そうなると危険な仕事を引き受けづらくなり、仲間の成長も鈍化する。
だからこそイブリンは強気で言える。もし追放されそうになっても抜ける気はないため、その時はどうにかして説得しようと考えていた。
「お前に抜けられたら困るんだよなぁ。じゃあ、いつか良さそうな相手がいれば仲間にするがそれでいいな?」
イブリンは長考した末に仕方なく頷いた。
「……私が認めるほどの実力があれば許そう」
その時はそう簡単に認めないようにしよう、とイブリンは思った。
ディマスは話が終わるとイブリンに一言断ってフェリクス達のいる店に向かった。
この村には退屈しのぎになるような場所が無いので店に向かうかギルドにいるか、魔物を狩って魔石を集めるくらいしかない。
イブリンは人が増え始めた待合室にそのまま留まることにした。
(いつでも切り捨てられる囮じゃないと意味が無いからな)
勇者に狙われ行方不明になった冒険者の一人に、イブリンが一方的に知ってる低ランクの男がいた。
低ランクではあったがイブリン同様にランクでは測れない強さを秘めており、イブリンに近い力を持っていた。
彼が行方をくらます理由は特に見当たらなかった。
実力者ではあったが低ランク故に話題にはならなかった。
そして行方不明の原因が勇者の犯行であるということは極一部を除き知られず、何者かに襲われたという情報だけが広まった。
そのためほとんどの冒険者は楽観的に考えていた。
襲ってくるなら返り討ちにすればいい。
イブリンもその情報を知らなかったがその知人の強さを知っていたため誰よりも危機感を強く持った。
ディマス達を失うことを恐れたイブリンは仲間を守るために、非常時に囮として差し出すための臨時の仲間を雇うことを思いついた。
しかしその囮という考えをディマスが受け入れてくれないのは予想できた。
だから臨時で雇う理由は、たまには休みたいから、ということにした。実際適度に休みたかったので好都合だと思った。
そしてその勧誘を自分ではやらずにディマスに投げた。
ディマスも雇う相手を自分の目で確認したいと思っており、イブリンの頼みを快く引き受けた。
(臨時にこだわってはいるが、勇者を撃退できるレベルなら別だ。コッテンを仲間に引き入れられなかったのは残念だな)
勇者を撃退するほどのコッテンなら正規メンバーにしたいとイブリンは思った。
暇になったイブリンはボーっとしながらディマス達が戻ってくるまで待合室で大人しく待つことにした。
しばらくするとすぐ目の前をコッテンが通り過ぎる。
その時に二人は目が合った。
イブリンは『見送りに来てくれた!』と一瞬期待する。
しかしコッテンは苦笑いするとイブリンに気まずそうに会釈だけして外に出て行った。
(お、え、あれ、見送りじゃ……ないのか?)
イブリンは大きく落胆するとコッテンを目で追いながら無言で見送った。
イブリンの苗字はスズキです。この世界独自の苗字ではなく日本の名字です。
彼女には日本人の血が0.5%未満ほど混ざっています。正確に言えばこの世界のほぼ全部の人に日本人だけでなく地球人の血が混ざっています。
しかしデシリアには地球人の血は全く混ざっていません。デシリアの時代のエルフと人間には一切混ざっていません。
最初にジャンルがローファンタジーだったのはこの設定があるからです。今もこの設定は残っています。
序盤がローファンタジー感ないので詐欺っぽく思われそう、というのもあったのでハイファンタジーに変えました。
ローとハイの中間なのでジャンル設定には困りますね。




