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42 次こそ本気だ! 2

 お互いの手を絡めた後、イブリンがカウントダウンを始める。


「行くぞ、3、2、1――」


 魔術も魔法も使っていいのは身体強化だけだ。

 

「0!」


 勝負が始まった。


 0と同時にイブリンの手から膨大な圧力が掛かる。

 だけど、私の腕は一切動かない。

 油断して一瞬で負けるなんてことがないように最初から腕にかなり力を込めていた。


 本気の私が押し倒せば一瞬で勝てただろうけど、イブリンは本気を出したがってるし、それを見る前に勝つわけには行かない。


「ぬおおおおおおおおおおお!」


 ビリビリビリと空気を震わすイブリンの咆哮。


(うるさーい!)


 ステラが怒ってるけどそれくらい我慢してちょうだい。


 さて、今回の勝負も前回同様いい匂いが漂ってくる。外見は臭そうなのに不思議だ。


 イブリンは外見はちんちくりんだけどやはり乙女なのだろう。

 もしかして恋でもしているのだろうか? 失望されないために口の匂いには気を使っているのかもしれない。匂いは大事だからね。


 でもその外見だとせっかくの努力の効果も半減するというもの。

 まずそのジャージはどうにかしたほうがいいと思う。


 イブリンは年齢はアレだけど素材は悪くないのだからもう少し外見にも気を付ければ男共は振り向いてくれるだろう。


 おっと……いけない、思考が逸れてしまった。

 実力が拮抗してたならこれが命取りになってたな。


 やはり匂いというものは良い悪いに拘わらず厄介だ。

 しかし圧倒的な差がある以上、口臭程度の妨害では何も変わらない。


 どれだけ叫び、力を込めようとも私の――ステラの――細い腕は微動だにしない。


 分かったことは以前よりもイブリンから力が溢れ出しているということくらいか。

 4割増しといったところかな。


 前回は私の力が及第点かどうかの確認だったのかもしれない。

 今回は違う。最初から本気だろう。


 私も本気を出せと言われはしたけどこの程度だと本気は出せない。

 本気を出せばイブリンどころかこのギルドも腕相撲の余波で破壊してしまうだろう。


 それほどまでに私の本気は危険だ。


「おおおおおおおお、動けぇぇぇ!!」


 イブリンは本気だと言う事を示すかのようにずっと叫び続けている。

 気が付けばイブリンからこれ以上強い圧力は掛かって来なくなった。

 つまりはもう本気を出し切ったという事だろう。


 いつまでも膠着状態にしておくのは相手にも失礼だしさっさと決着を付けようかな。


 私は相手より少し上回る程度に力を込め、イブリンの手の甲をゆっくりと確実に机に降ろした。


「くそっ、私の負けだ。本当の本当に本気だったのに負けてしまった。……信じられん」


 負けたにもかかわらず悔しそうにはしていない、逆に嬉しそうだ。


「それにしてもお前は強すぎる。本気の私に勝てる女なんてそうはいないぞ」


「でもいるんですね」


「上には上がいるからな。私より下の方が多いからつい慢心してしまうが上はいる。それも当然だろう。ランク8が上位とはいっても私の体格が足を引っ張っているからな」


 体格のことも言ってるし、やはり魔術の身体強化も筋肉量などで効果に幅がありそうだ。


「おっと、これは忘れないうちに渡しておかんとな。ほれ、受け取れ」


 私は2万ルドを受け取ると店で買った四角い形のサイフに仕舞った。


「さて、女同士で打ち上げと行くか。お前はこの後子供達と夕食があるのだから食べ過ぎないように気を付けるんだぞ?」


 イブリンは私に優しく注意をするとお菓子と飲み物をテーブルに並べた。

 お菓子は透明な紙袋に入っており、飲み物はガラスのような容器に入っている。


 容器の中の液体は濃い赤色だ。


 打ち上げというとお酒のイメージがあるけど、これはそうなのかな?

 というか私はお酒は飲まないし、ステラの未熟な体では危険だろう。


 魔法で成分は無毒化出来るので危険ではないけど子供であるステラの体には入れたくない。


 お菓子は子供であるステラに交代したいところだけど、食べてる最中にイブリンとお喋りをすることを考えると私のままが良い気もする。


 ということなのでステラには交代しないことにした。


 お金はいっぱいあるから後で似たようなお菓子を買ってあげよう。お菓子は大して金がかからないからね。


「赤いのはお酒だ、無理強いはしないから嫌なら飲まなくていいぞ」


 折角誘われたし、子供だとは思われてないので口にしないわけにもいかないだろう。


 だけどこちらは子供の体だ。

 アルコールを体内に入れるのは非常によろしくない。


 そういうわけで喉を通った後に魔法で水に変化させようと思う。

 これなら舌を通るときは味は分かるし、無毒化できる。


「それじゃ、いただきます」


「待て、乾杯の挨拶が先だ、私に言わせろ!」


 私が言わなくて済むのはありがたいけど、聞くのも面倒なのでさっさと飲ませて欲しい。

 でもそんなことは言えないのでイブリンの言葉を待つ。


 しかし中々口を開かない。というよりは言おうとしてるのか口を開けて閉じてを繰り返してる。上手く言葉が出てこないのだろう。

 少し待つと挨拶文がまとまったのか、ようやく挨拶が始まる。


「えー……無事に、あー、なんだ、討伐がー、いや討伐を? そのだな――」


 全然まとまってなかった。


「みんなが力が、力を合わせることで、結果が、いや、あー、我々の活動により、世界の平和がー、あー、えー、上手く言葉がまとまらん。まぁいいや、何かを祝してかんぱーい!」


「え? あ、はい、かんぱーい!」


 ここまでグダグダとは予想できなかった。

 世界平和ってそんな大それた言葉よく出て来たな。


 言い慣れないことを無理してでも言おうとしたのは偉いと思う。

 結果、何が言いたいのかよく分からなかったけど気持ちは伝わってきた。


 乾杯の挨拶の後、お互いのお酒の入ったグラスを軽くぶつけ合う。

 生前もこんな感じにグラスをぶつけあったような気がする。でもあんまり覚えてないや。


 イブリンが飲めと促すので私は赤い液体を口の中に流す。


 全身を駆け巡る何かしらの刺激。

 久々に味というものを感じた気がする。

 でも、なんだろう。


 不味い。


 子供の体だからか? 

 味覚はステラに依存しているということだろうか。


 飲み干すのがつらいので魔法で味も無くしてただの水になったそれを口の中に流した。


 そのあと気になってたことをイブリンに聞くことにした。


「そういえばキメラの討伐のため私って雇われたじゃないですか? イブリンさんだけでどうにかなるのになぜ雇われたんでしょうか?」

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