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41 そんな男はいます(いません) 2

「尋ねた途端に怪しいその目の動き、やっぱり図星か? そんな超人的なお人好しに私はあったことがないからな、あんな話は信じられん」


 目の動きに注目して来るとは、よほど疑っているのかな?

 でもそんなものは証拠にはならない。証拠が無い以上、私はしらばっくれるだけだ。


「元勇者候補らしき人がそんな超お人好しな活動をしているという噂がありますよ、だとしたらあり得る話だと思いませんか?」


「その辺の魔物やキメラが相手ならな。それならあり得るがそれでも滅多にない事だ。しかも私でも適わない相手をワンパンで倒すのも信じられないというのに、あんな場所を通りすがるというのはあり得なさに拍車をかけてるぞ」


 あんなところにと言われれば、それはそうだ。

 言い訳が思いつかない、どう言いくるめようか。


 いたと言っても証拠を出さないと納得しなさそうだ。


 というかワンパン? ワンパンってなんだ?

 なんで急にパンの話をしだした? 


(ワンパンって何? 食べ物を持ち込んだ覚えは無いんだけど)


(え? そのパンじゃないからね。ワンパンは一撃で倒すみたいな意味の言葉だよ)


 私がステラとやり取りしてる間、黙ったままの私を見て勝手に何かを感じ取ったっぽいイブリンは話を続ける。


「……実力を隠しておきたい理由は分からないがみんなには黙っておくぞ? カイを倒したのはコッテンだろ? 状況的にもそれ以外は考えられん」


 なぜ私の実力をそこまで高く見てるんだろ? 腕相撲以外でそんな要素は見せなかったはずだけど……。


 状況証拠だけでそう思えるものなのかな?


 うーん、黙ってくれるなら本当のことを言ってもいいか? 

 でもイブリンの事を信じられるか?


 色々といい加減だし、口は軽そうに見えるし……。


「それでも……私ではありません」


 やっぱり否定しておく。 

 確定させるよりはいいだろう。


「そうか、ならそういうことにしておこう。そうしたい事情があるようだしな」


 疑り深いな、もしかしてイブリンは確信でもあるのか? 

 でも証拠は無いし、私が否定している以上は疑惑からは脱せない。


 * * * * *


 翌日。


 予定では明日か明後日にサービル村とのお別れだ。

 こんな何もない村なんかもう飽きた。さっさと賑やかな場所に行きたい。


 ここも冒険者があちこちに巡回してて賑やかではあるんだけど、殺気立った活気はいらない。


(あ~早く自由になりたい。この村もう飽きたよ。安全な自分の家に帰りたい)


 ほら、ステラもそう言ってる。


 でも子供達はそういう不満はなかったんだよね。

 この違いはなんだろうな……どうでもいいけどね。


 さて、今日がステラと私にとってのキメラ討伐最終日、職場体験3日目だ。


 まだ町へはいつ出発かは決まってないけど、確実に討伐に参加できるのは今日までなので私が参加するのは今日で終わりにしてもらった。


 討伐ではキメラを狩ってる姿をただ眺めているだけのステラだったけど、心境に何か変化でも起きてないかな。


(正直、怖いなぁって思った)


 ステラの場合はただ横で見学してるだけとは違うからそう思うのも仕方がないか。


(でもお姉ちゃんもこういう危険なことしてるって分かったし、もっと尊敬できるようになったかも)


 気持ちが鈍ると困るので『冒険者になるの怖くなった?』って聞くのはやめておくことにした。


(簡単なものだったら尊敬なんかする価値もないよ。だから目標は高くても頑張ろうねステラ)


 さて、今は森の中のいつもの休憩小屋にいるわけだけど、イブリンと私を除いた男達3名が退勤時間になった冒険者から引継ぎを受けている最中だ。


 キメラが後何匹くらい残ってるとか、どこかの班で欠員が出たとか、正直聞かなくてもほぼ影響のない報告ばかりに感じる。


 そう思ってしまうのは私が素人だからだろう。

 集団で動く以上はどうでも良さそうに見えるそれら些細な情報もきっと大事なのかもしれない。


 昔は私も集団に属していたんだけど、流石に忘れてしまった。


「あと何匹狩れば終わるんだろう」


 私は何となく発した言葉だけど、イブリンが反応する。


「私も知らん。今日で途中下車のお前にはどっちでもいい話だと思うが?」


「いえ、今日までに討伐が終わればお金いっぱい貰えますし、どっちでもいい話じゃないですよ」


 私がいる間に討伐が終われば報酬を多く貰えるという契約だ。つまりは私がいなくなってから終わったら報酬は少しだけということになる。


「そういえばそういう条件だったな。お前のおかげで私も命拾いはしたし、色を付けるように言っておいてやる」


 命拾いってのはカイが塞いでた壁を壊したという部分だろう。


 あれは洞窟の出口への道を塞いでいたため、他のルートから出口を目指すとなると私とフェリクスが落ちた穴を登っていくことになる。


 あの時はイブリンの魔力は枯渇していたのできっと登れなかっただろう。他の3人が万全でも、もしかしたら無理だったかもしれない。


「本当? 本当に増額してくれるんだよね?」


「男に二言は無い」


 お前は女だろ、と突っ込んでもどうせ「女に二言は無い」と言うだけだろう。

 それっぽいことを言いたいだけみたいだしスルーしておこう。


 そんなしょうもないやりとりをしているとディマス達は話が終わったようで、引継ぎの冒険者達はさっさと帰って行った。


 今日もお疲れ様でした。後は私達が頑張ります。


「みんな聞いてくれ、バガンスネークの討伐予定の数を達成したとのことだ。ということで俺たちの仕事は終了だ。念のために調査班に確認に行ってから帰るぞ!」


 一応調査班のところへ確認に行った結果、やはり引継ぎ内容と同じだった。

 今日も仕事頑張るぞ、と思った矢先、今日の仕事が終わってしまった。


 私とステラの冒険者体験は実質2日で幕を閉じた。

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