40 みんな無事だった 1
勇者との激闘から翌日。
寝ずの番をしている私は冒険者ギルドの孤児達の部屋で昨日の出来事についてはあまり考えないようにし、朝まで暇を持て余していた。
情報少なすぎてどうせ考えても何も分からないからね。
体は交代してるのでステラががっつりと寝て体を休めている。
窓から光が差し込んで来てるのでそろそろ起きるだろう。
「ふああああ~~」
ステラが起きた。まだ眠そうだ。
(ステラおはよう)
「おはよう、デ……あっ」
ステラは口から私の名前を出そうとしたけど、すぐに言葉を止めて頭の中で仕切りなおす。
(おはようデシリア、ちょっと危なかった)
(朝はちょっと怖いね。でも「デシリアって誰?」って聞かれたら知り合いか友達とでも答えとけばいいよ)
(なるほど、じゃあ次からはそうする)
「おはようステラ、まだ眠そうだね」
次に声を掛けてきたのは最年長のマリア。ステラは挨拶を返す。
「お、おはようございますマリアさん。まだ眠いです。でも起きなきゃ」
私が部屋を見回すとみんな少しずつ起き始めていた。
マリアは目が覚めた子を見つけると次々に挨拶をしていく。
(ステラ、体は交代する?)
(ご飯食べた後でいいかな)
村にいる間は冒険者ギルドが朝食を用意してくれる。
なぜそこまでしてくれるのかは分からないけど厚意に甘えることにした。
洗面所で用事を済ませると朝食の時間になった。
食堂へ向かう途中、廊下でキディアが一人で佇んでいた。
ステラは私には代わらず、慣れた様子で彼女に声を掛ける。
「おはようキディア。朝ご飯食べに行こうよ」
「あ、おはよう、ステラ」
昨日帰って来た後もキディアは一人で廊下に佇んでいた。
みんなに話しかけることもできず、話しかけられることもない。
彼女に話しかけるのは私とステラだけだ。
彼女にはステラの中にもう1つの人格があることを教えたけど、どちらと話しているかは気にしていないようだ。
名前までは知る気はないようなので区別する気はないのだろう。
昨日ギルドに帰って来た後にステラが話をしたがってたので交代して少しだけ話をしてもらった。
一日中、私が体を動かしていたせいで討伐の様子を眺めることしかできないステラはストレスが溜まっていたらしく、不満を吐き出したい気分だったみたい。
キディアはステラにあれこれと強く言えないからか聞く一方だったけど、ステラは満足だったようだ。普通の人なら迷惑に感じるんだろうけどキディアは嬉しそうにしてた。
食堂に行くとケミーがステラを見つけるなり手招きした。けどもステラは手を振り返すだけで彼女とは少し離れた場所に座った。
討伐で疲れていたのに昨日はケミーがしつこく相手して来たから嫌気が差してるようだ。
朝食を食べ終わった後はギルドの中は子供達やケミーがいて落ち着かないので、外に出かけることにした。
昼になれば昨日のようにまた討伐だ。
あんな出来事があったにも関わらず今日も討伐に向かうのか。
……つまりはディマス達は無事だった。
私が闇の勇者のメイを逃がしてしまった後、証拠として引き渡すためにカイの遺体を抱えてディマス達の所に着いた時には、ディマスとアージェンが気絶はしてたけど怪我はなかった。
なぜかというとイブリンが魔術で治していたかららしい。
本当はかなりの大怪我だったようだ。
そのせいもあり魔力が少なくなったイブリンは、カイが逃走防止に設置した壁を壊せるほどの身体強化が出来ずに部屋――メイの所の部屋と違って周囲が岩壁――でじっと大人しくしていた。
そこにフェリクスはいなかったので他の場所を探すと特に何ともない姿で現れた。
道に迷って変な所にいたので敵に見つからず何事もなかったみたい。
というかカイは私の所に急いで向かってたようだし、彼に見つかってたとしてもきっと無視されたかもしれないな。
その後はディマス達を起こし、調査班に事の顛末を伝え、カイの遺体を引き渡し、その後で私達の持ち場にある休憩小屋に戻った。
行方不明の冒険者3人については私達は見つけることが出来なかったので調査班の人達に任せることにした。
イブリン以外は体の調子は良かったのでその後も村には戻らず、規定の時間までキメラ討伐のために森の見回りをした。
その日の私達の討伐数は勇者に襲われる前に倒した1体だけだった。
別の冒険者に引継ぎをした後は全員で村に戻った。
私は行方不明の3人の不足した人員の穴埋めが気になってたけど、ギルドは人員には余裕を持って投入してるみたいなので問題はなさそうだった。
……昨日はとても忙しかったなぁ。
さてと、暇つぶしになればと散歩をしていたのだけど、この村には毎日見たくなるほどのめぼしい物はそんなにないので予定より早めにギルドに戻ることにした。
ディマス達とは待合室で待ち合わせだ。
昨日みたいな討伐とは関係ないことは起きて欲しくないな。




