3 滅茶苦茶強い子供って傍から見てどうなんだろ?
兎人の女の子は私と目が合うと、今にも泣きそうな顔で震えながら口を開いた。
「ご……ごめんね」
外見から見るにステラより年上に見える。
この子もゴードンの仲間だったようだ。子供たちの行動を監視するために私達と一緒にいたのかも。
なぜこのタイミングで刺してきたのだろう?
レフを逃がすため?
まぁいいや。とりあえず刺された怪我を治すとしよう。
私は刺さった刃物に手を触れ魔法で消滅させる。それと同時に腹部の傷を瞬時に治癒していく。
刺されてからほんの僅かな時間でお腹は元通りになった。
大量に流れた血は魔力を変換して補充できてるし意識は冴えている。服も穴が空いてたけどついでに直しておいた。
「え、は?」
兎人の子は何が起こったのか理解が追いついていないようだ。
「は、ははは……」
だけど理解をするのに時間はかからなかったようで、これからのことを想像したのか顔が引きつり始める。
他の子達は兎人の子から少し距離を取り、視線が兎人の子と私を交互に行き交う。
私はレフの事を思い出し兎人の子からレフの逃げた先へ目を向けると、その姿はかなり小さくなっていた。
追いかければ間に合うけどそんなことをしてる間に兎人の子が他の子達に危害を加えるかもしれない。だから追いかけることをすぐには決断できない。
レフの事は諦めざるを得ないか。いや、ここから遠距離魔法を放てばまだ行けるか?
でも相手はレフだけじゃなくゴードンもいる。
ゴードンの方もチラっと見ると鳥車に乗り込もうとしているのが見えた。
勝ち目がないのを察して逃げようとしているのだろう。
私は鳥車を破壊して足止めをしようかとも考えたけど、鳥も巻き添えになると可哀そうだし、それにその客車は子供達を安全に運ぶのに役に立ちそうだから壊したくない。
というかこのままでは両方とも逃げられてしまう。
どっちを優先しようか? ああっ、もう頭が忙しい!
とりあえずすぐ目の前にいる兎人の子から片付けようと思い、後退りする兎人の子の胸に手の平を当てる。
「ひぃぃっ、いや、いやいや、死にたくない! ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
彼女は私の手首を両手で強く握りしめ、呼吸も荒らげ涙を浮かべながら謝罪の言葉を繰り返す。
私は手に込めた魔法を発動し、命は奪わず気絶だけさせる。
倒れそうになったので手で支えてゆっくりと地面に寝かせた。
なぜこんなことをしたのか後で事情を聞くとするか。
次はかなり遠くに行ってしまったレフの処理だ。まだ姿は見えるけどアレはただの雇われっぽいしゴードンを優先して追いかけた方が良さそうかな。
なのでレフは追いかけず光弾を10発程度飛ばした。それで倒せるかは分からないけど生死を確認してる余裕は無いので最悪逃げられてもその時は諦める。
そしてすぐさまゴードンの方を追いかけた。鳥車はまだ速度が出てないためすぐ追いついた。私は左の側面にある扉を開け突入。
「お前どうやって開けた! くそ、俺がカギを掛け忘れてたか」
ソファに座るゴードンと目が合った。
ゴードンを先に消しておきたいところだけど先に鳥車を止めないと子供達と離れてしまい場所が分からなくなりそうなので御者台に移動した。
しかし鳥を制御している人はいなかった。
制御の仕方が分からなければ止められない。どうしようかと悩み、単純なことに気づいた。
客車はそれを引く鳥がいなくなれば絶対に停まらざるを得ない。私は鳥と客車を繋げる綱を切ることにした。
「お、おい何をしている! これ以上動くな、撃つぞ!」
ゴードンは私がこれから行うことに気づいたようだ。
何か撃つらしいので魔法で背後に透明な防御障壁を張る。この障壁はありとあらゆる攻撃を防ぐので私が綱を切断する作業を止めることは出来ないだろう。
鳥と客車を繋げる綱の切断作業を始めようとするとステラから声が掛かった。
(何も見えてないからよく分からないけどどういう状況?)
(順調順調、もうすぐ終わるからもうちょっと待っててね)
ステラは視界を閉じているので状況がよく分かってないようだ。
それと兎人の子に刺された痛みのことは何も言ってこなかった。なんともなくてホッとした。
綱を剣で切ろうと試したけど予想よりも硬い上に揺れてもいるので上手くいかない。魔法で作った光の剣で綱の切断を試みると先程の剣よりも速く切れ始めた。
作業中に背中で音がしたのでチラッと背後を見るとゴードンが魔法のような攻撃を飛ばしていた。
障壁は無事に防いでくれているようなので今は放置でいいだろう。
何本か繋がってる綱の切断が終わった。繋がれてた鳥は自由の身になりどこかへ走り去っていった。それに伴い客車は徐々に速度が落ちてきた。そのうち止まるだろう。
さて、次はゴードンの番だ。さっさと消さなきゃね。
背後を振り向くと細長い棒状の物を私に向けたゴードンが立っていた。棒の先端からは煙が出ている。
それっぽいものをどこかで見たような……銃って言ったかな?
同じ物とは限らないけど形は似ている。
煙が出てる部分は小さな穴が開いておりそこから何かが飛んできたのだろう。
「な、なんなんだお前は! なぜキズ一つ付かない!」
ゴードンは再び筒から何かを発射した。
高速で飛んでくる赤白く丸い光はキィンという音とともに障壁に弾かれ、跳ね返った先の車内の壁に穴を空けた。
今の時代はこんな武器があるのか。そんな便利なものがあるなら剣や弓なんて必要ないんじゃないかな?
でもさっきの殺し屋は剣を持ってたし、そうでもないのかな。
まぁいいや。さっさとこのデブを消すとしよう。