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39.5 メイ

デシリアがいない時は3人称です。

 *****


 メイはコッテン――デシリアのことを注意しながら森の中を走る。


 人目の付かない高い場所の木の枝を勇者の強い脚力で折ってしまわないように注意を払いながら駆け抜けていく。


 命の危機を感じながらもメイに焦りはなく、恐怖もない。


 相手が自分より上だと感じた時に殺される可能性も考慮はしていた。


 しかしそう考えることはあっても死ぬことに対して動じることはなかった。


(もう追って来ないみたいですね)


 メイは安全を確認すると高所の細く頑丈な木の枝に器用に立ち止まった。

 自身の体を見回す。


 目に入るのは威圧感のある白い鎧、上品に揺れる白いスカート、羽の装飾が付いた白い兜。

 腰には白い刃の剣を差し、スカートには運よく回収できたカイの白い刃のナイフを仕舞っている。


 こんな装備をした者はこの辺ではどこにも出歩いていない。

 そのまま地面付近を進めば凄く目立ち、キメラ討伐で巡回している冒険者に目撃されるだろう。


(カイの遺体は回収できなかったのは仕方ないですね。置いて行っても勇者だと断定できる情報はありませんし、拠点に残した物も扱えなければ情報流出はないでしょう。そして証言だけでは情報の精度としてはイマイチですし、冒険者の言う強かった弱かったなんて当てにならないでしょう)


 拠点には勇者の国とのやり取りに使う機械がある。それはパスが分からなければ扱えず情報は引き出せない。


 その機械は勇者以外の者でも扱おうと思えば可能であるため、機械があるからといってそれだけで勇者の物とは断定できない。


 そして拠点として利用していた洞窟は、ああいったものは山賊に類する者が拠点として使うことが多いため、勇者の拠点だと断定される可能性は低い。


 証拠品として1番可能性があるのはメイが扱う勇者専用の装備品だ。


 メイのように冒険者を狙う勇者は冒険者を相手にすることが多く、そうなると勇者装備は過剰なため大体の者が店売りの武具で済ませている。


 そのため勇者装備が第三者に回収された事例はほぼない。


 そしてそれらは特殊な仕様のため消滅期限が設定されており、正しい使い方をすることで期限をリセットすることができる。しなければ一定期間の後に突如として短期間で劣化し消滅してしまう。


 カイもほぼ店売りの武具で済ませており、勇者装備は白いナイフしか拠点には持ち込んではいない。

 メイはスカートから取り出したカイのナイフを見つめる。


(運よくこれは回収できましたね。ですが荷物になりそうでならない微妙な感じ、困ります)


 どうせ使わない勇者武具の扱いに悩む。

 国に戻れば支給されるためこの場で処分することにした。


 勇者専用装備は放置以外にも特定の操作でも消滅する。

 メイは自身の勇者武具も邪魔だと判断し、外してからその操作を実行した。


 勇者装備を外すと中からは旅人が着るようなごくありふれた服が姿を見せた。


 コッテン達と会った時、最初に着ていた『キモノ』という名のただの衣服は回収する時間がなかったため置いていく他なかった。


 身動きが取りづらいため無くても困らないがメイは気に入っていた。


 勇者専用装備でもないので誰かに渡っても困らない。またどこかで手に入れればいいと瞬時に割り切った。


(少しの間、勇者武具がないのは心許ないですがコッテン以外が相手なら何も問題ないでしょう。あれほどの者とはそうそう出くわすことはないはずですし、こちらから手を出さなければ大丈夫でしょう)


 そもそもあの白い防具が無くても冒険者と戦うには全く困らない。

 その辺の冒険者の武器で素肌を晒した腕を斬られたところで身体強化の強度次第では無傷だからだ。


 それに即死でもなければ切断されようが炭にされようが魔術を使えば腕は生成できる。

 白い刃の剣で切断した腕はとっくに元通りになっていた。


(油断大敵ですね。まだ追いかけてくるかもしれません。立ち止まらずに仲間の元へ報告に向かいましょう)


 いつものように簡単に終わる仕事だと思って舐め切っていたメイは木を飛び移りながら今日のことを思い返す。


 そもそもこんな場所に勇者に匹敵する冒険者が現れるのは想定外、というよりはありえない話だった。


 場所によっては勇者ランク闇以上の強者は存在するが、それらはほぼ全てメイ達勇者の国が常に追跡している。


 追跡情報を元に、負ける要素がなく、勇者にとって脅威がない、とされる場所で闇ランク以下の勇者は活動をしていた。


 ちなみに少数ではあるが世界各地を放浪している元勇者候補は、勇者未満であるため、脅威にならないと判断され放置されている。


 勇者の脅威がない場所に稀に現れる規格外の強者はいてもせいぜい勇者下位ランクレベル。

 10年間活動をしていたメイはそのレベルにすら会ったことはなかった。


 勇者の中でも上位ランクの彼女が絶対負けるわけがない、と思うのも仕方のない事だろう。


(いったい何故あれほどの力を持ったものが現れたのでしょうか)


 勇者の国は勇者に匹敵するそれらをただの突然変異として片付けていた。

 そうとも言えるし違うともいえる。


 少なくともステラの場合はデシリアに憑依されたというのが理由だが、そんな存在を国は把握できてなかった。


 メイがどう頭を回しても情報がない以上はどうにもならない問題だった。


(それにしても……あの分身体がなければきっと死んでいましたね)


 最初、コッテン達を迎えに行く前に予め1体だけ用意していた分身体がいた。


 それは彼女が活動を始めた当初、冒険者を連れてくるたびに念のために用意していたものだったが、いつしか惰性で配置していた。


 戦闘が始まるといつもそれを使う必要がないため、頭から存在が自動的に消えてしまっていた。


 だがその惰性が命運を分けた。その存在を忘れたままさらに4体を追加した。


 戦闘が長引くにつれ必死に頭を回したメイはいつも配置している最初の予備のことを思い出し、それが最後の最後に逃げるための囮となってくれた。


(いつも無駄なことをしていると思っていましたが、無駄ではなかったということですね。ふふっ、無駄というのも侮れません)


 運よく生き残れたことに小さく笑いながら森の中を駆けていく。


 冒険者のキメラ討伐の活動範囲から出たメイはここなら目撃されても問題ないと判断し、樹上から地面へ降りて仲間のいる拠点の方角へと向かった。

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