表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/282

39 白い刃の剣

 天井から私に向かって落ちてきたメイの分身体は、ぶつかる直前に爆発し轟音を立て一瞬だけ視界を妨げた。


 破壊された分身体の砂のような粒子が凄い勢いで体に当たる。けれども私には傷一つ付かない。

 私は咄嗟にメイの手首を掴んでたのでその隙にメイに逃げられることはなかった。


「それで、これが逃げない理由なの?」


 今ので私を倒そうとしてたのかもしれない、にしては弱すぎる威力だったけど。


「逃げてもすぐ追いつかれそうですからね。……やはり効果なしですか。爆発が弱かったので魔力が足りなかったようですね。いえ、足りてても無駄だったかもしれません。最後の悪あがきでしたが失敗ですね、ふふふ……はっはっはっ」


 メイは大きく笑った。わざとらしく感じるほどに。

 今まで感情をほぼ出さなかったのに打つ手がなくなって諦めが付いたか。


 メイが笑った後、背中に衝撃が走った。彼女を巻き込んで私は突き飛ばされた。


「いったいなぁ!」


 メイに怪しい動きはなかったので油断した。何に背中を刺された? 少しだけ痛みを感じるけど、皮膚を軽くつねった程度のものなので大したことはない。

 いや、感度を下げているとはいえさっきまでの戦いではすべての攻撃でほぼ痛みを感じなかった。


 防御も万全だったはず。それを僅かにだけど貫いてきたということだ。すぐさま回復魔法で治癒し振り向くとメイの分身体が白い刃の剣を構えていた。それで突いてきたのかもしれない。


 でもこんなにたくさん分身体を作ってたっけ? 違和感はあるけど、まぁいい。それよりも動きに気づけなかった。


 爆発音に紛れて動いた時の僅かな音を拾えなかったか。

 防御を固めていなかったらキディアに刺されたみたいに貫通してたかもしれない。


 分身体は構えてた白い刃の剣をこちらにぶん投げ、やけくそ気味に白い球――多分魔術だろう――を掌から大量にぶっ放してきた。


 剣は私を僅かに外れたので避ける動作はいらない。

 白い球は狙いが荒く、ほとんどが背後の壁にぶつかり破裂音を響かせる。


 量が多いから耳が忙しい。


 私に飛んできた数少ない球をはじこうと触れた瞬間、球は破裂した。

 だけどこの威力では私には傷は付かない。


 というよりも威力が低すぎるし、雑だし何を狙った攻撃なんだ?

 今までの攻撃が効いてないのにさらに弱い攻撃をしてきたということは何か狙いがあるはず。


 いや、私を倒す手段があるのならとっくに使ってるか。


 何を企んでるかは知らないけどさっさと倒せばいいだけだ。

 私は手のひらいっぱいに1cmほどの小さな鉄の弾を、魔力を変換して大量に生成する。


 この弾を分身体へ目掛けて雑にぶん投げた。


 分身体は反応できず体中の至る所に穴を空けて消滅し、外れた弾は壁にめり込み黒く小さな水玉模様を作った。


「で、今のが本当の最後の悪あがき、かな? それともまだ何かある?」


 私は壁に開いた穴を見ながらメイに尋ねる。

 いつまで待っても返事はない。やはり打つ手がなくなったか? 死を覚悟して恐怖で声を発せなくなったか?

 さて、どんな顔をしているのかと振り向くと――


 ……消えた?


 しゃがんでいるのかと思い顔を下に向けるけども目に映るのは赤い染みの付いた床だけ。


 自分の手を見ると確かにメイの腕を掴んではいる。しかし腕は途中から鋭利な何かで切断されていて断面からは血が垂れていた。


 その血が赤い染みを作っているようだ。


 え……? 

 

 は?


 腕を切断して逃げた……ってこと?


 たしかメイは魔導銃で腕が千切れても痛む素振りは見せなかった。

 しかも千切れた腕をくっ付けて一瞬のうちに回復した。


 ということは切断程度、なんて事ないのだろう。


 静かになったのでどこからかリズムの良い音が微かに響いてきた。

 それは一定間隔で段々と遠ざかっている。


 さっきまではなかった音。

 どう聞いても足音。

 きっとメイだろう。それ以外考えられない。


 音は、1つだけ開いたままの扉から聞こえて来る。

 その扉はこの部屋に入った時の扉だった。


 私は掴んでいたメイの腕をその辺に放り投げると急いで音を追いかけた。


 狭く曲がりくねった道が勢いを殺しに来る。

 本気の速度でわずかにでも壁やでっぱりにぶつかれば洞窟が崩壊する恐れもあるので下手なことはできない。


 安全に配慮した速度で進むと行き止まりに到着。

 ここは落下した時にアージェンの助けが来るのを待った場所だ。


 ここから入口に向かうには上を通らないといけないのだけど、見上げるとさっきは低くなっていた天井は少し高い位置に見えるようになっていた。


 メイは閉じていた落とし穴の床を壊して開けたようだ。

 足音もそこから遠ざかるように聞こえ、パラパラと砂や石粒などが落ちてきてるのでメイはここを通って行ったのかもしれない。

 

 私は数十メートルはある崖を天井にぶつからない様に注意しながら跳び、落ちる前の元の通路に戻って来た。

 足音はまだ聞こえ、洞窟入口の方から響いて来る。


 私は急いでそこへ向かうけど、ここも狭い通路が動きを制限してくる。


 次第に遠くなる足音。メイは通い慣れた道だから私よりも最適な速さで進んでいるのだろう、少しずつ引き離されていく。


 入口の光が見えてきた。

 徐々に大きくなる白いシルエット。

 外の光が眩しい。


 眩しかったのは目が慣れるまでの一瞬だけで、すぐにくっきりとした森の風景が視界に映し出される。


 新鮮な空気が鼻をくすぐる。

 洞窟内と違い空気が澄んでいて気持ちがいい。

 空はいつもより鮮やかな青を感じさせ美しさを抱かせる。

 ちょっとだけしか洞窟にいなかったのに不思議と感動する。


 ってそんなことは今はどうでもいい!

 それよりもメイは、足音はどこ?


 余計なことに気を取られたせいで足音はかなり遠くなっていた。

 遠くはなっているけど聞こえるということはまだ間に合うということでもある。


 狭い洞窟内とは違い今は屋外だ。本気を出せばあっという間に追いつくだろう。


 ……いや、やめておこう。


 他の冒険者に高速移動でメイを追いかける私の姿を見られる可能性もあるし、メイの足音じゃないかもしれない。

 

 目立つのは避けたい。

 逃がしてしまうことで後々出てしまうであろう犠牲者には悪いけど、今のステラに注目が集まるようなことはしたくない。


 残念だけど逃げられてしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ