36 暇潰しがしたかった 2
「そういえばあなたも怪力でしたね、力も同格の可能性が少しはありますか。とは言っても全ての面で上回っているということは流石にありえません」
メイは発言のすぐ直後、あることに気づいたようでその余裕の態度を改める。
「いえ、やっぱりあり得るかもしれません。私より小柄にも拘わらず同等の速度を出せるということを失念していました。魔術の腕が私より上の可能性があるということはかなりの脅威。……暇つぶしのためにすぐに殺すのは止したかったのですがそうも言ってられませんね」
「暇つぶし……って? 私が弱かったら苦しむ姿をゆっくりと眺めながら甚振り(いたぶり)殺そうと思ってたってわけ?」
「な、失礼ですよ! 勇者がそんなこと考えるわけないじゃない?!」
平気で人を殺そうとするんだからじわじわと苦しめるのが好きなのかなって思ってたんだけど違うのか。冒険者を攫って殺すのは命令だからやってるっぽいし、苦しめるのはメイの主義に反するのかも。
「暇つぶしってのはただ雑談などをして時間を潰すというだけです。標的をここまで誘導するのは少々面倒ですがそれほど時間はかからないのですよ。だから暇な時間の方が多くて退屈なのです、少しくらいお喋りをしたっていいでしょう?」
「だったらお喋りする前に殺すなんて言わなきゃいいでしょ、相手も落ち着いて話なんかできないよ」
「そうなのですか? ですがそれだけ大事なことは予め伝えておくべきではないでしょうか?」
何を言ってるんだこいつは?
そんなこと伝えなくていいでしょ。こいつは人の気持ちが理解できないのか?
「それはともかく、もうあなたとはのんびり話す気はありません。楽しみは次に来る人にお預けですね。では参ります」
一拍置いた後、メイは魔術を発動した。
「シャイニングミスト」
メイを中心に輝く霧が広がっていく。霧が広がるにつれメイの姿は霧の中に隠れてしまった。部屋全てを包むほどは広がらなかったけど半分くらいは霧で埋め尽くしたようだ。
全部霧で覆わないのはどういうこと? できなかっただけ?
私の周囲は視界が晴れている。
メイの周囲は霧が覆っていてどう動くは視界からは読み取れない。それに加えて霧はキラキラと光っていて目に悪そうだ。
キラキラとうるさい視界なので不満の声がステラから出そうなものだけど何も反応はない。私の邪魔にならないように視界を閉じて声を出さないようにしてるみたいだ。
さて、霧の中から急に攻撃系魔術が飛んでくる可能性があるので耳を澄まし注意深く音にも注意するとしよう。
耳を澄ましていると移動する足音が聞こえた。音は近づかず別の場所に移動したので少し離れたところから魔術を放ってくるかもしれない。
「パライズニードル」
淡々とした声と共に白く発光する槍のようなものが予想通り飛んできた。
電気を帯びてるのか光の亀裂がバチバチと音を立てながら槍の周囲を点滅している。
メイより速く動くその槍を私は余裕を持って紙一重で避ける。
その後も足音の後に色々な方角から光の槍が飛んできたけど余裕を持って全てを回避した。
「これも避けますか、ならこれはどうです?」
こっちから相手の姿は見えないけど相手からは私の状態が分かるようだ。霧の中に突っ込めば周囲が見えるようになるのかな?
まだ攻めるつもりはないからこのままでいいや。
「10、9、8――」
メイはカウントダウンを始めた。
なに、どういう意味?
カウントダウンを止めれば何かを阻止できるのか? でも阻止したら何をしようとしてたのか分からなくなる。
何が起こるかは知っておいた方がいいだろう、と判断し大人しく待つことにした。
メイは10から数えていたけど10秒というわけではないようだ。
約3秒ほどで数え終わった。
「1、0、クリート・フルーワ」
何かを発動したっぽいけど何が変化したかは分からない。
でも足音が聞こえた。こっちには近づかずに移動している。
移動した先から魔術が飛んでくるということもないので何がしたいのかまだ分からない。
もう少し様子見だ。
「10、9、8――」
再びカウントダウンが始まった。移動したはずなのに移動する前と同じ所から声が聞こえる。
さっきの足音はなんだったんだ?
そして約3秒後、再び同じ言葉が聞こえた。
「クリート・フルーワ」
足音が再び同じように移動していく。
その後もさらに2回ほど同じことを繰り返し、その2回も同じように足音だけが聞こえた。




