36 暇潰しがしたかった 1
またもメイが魔導銃を奪いに来たので今度は避けるついでに攻撃を加えることにした。
しかし空振りに終わる。
でも想定内なので避けられてもどうということはない。
「そんなバレバレの動きでは私に当てることは不可能ですよ」
「でも攻撃したおかげで銃は奪えなかったみたいだね」
こっちは相手を倒さないように手加減をしているので速度も威力も低い。とは言えそれでも当たればきっとダメージを与えられただろう。
徐々に徐々に力を出していきメイにギリギリ勝てない程度で強化を止めるつもりだ。
いきなり力を出してしまうとすぐ倒してしまいそうだからね。
「無駄な抵抗です。私はまだ本気を出していません、この言葉の意味が分かりますか?」
「同じくこちらも本気を出していないですよ。なのでまだ無駄な抵抗とは言い切れないですよね?」
「その態度が虚勢かどうかは私が本気を出せば分かるでしょう。安心してください。まだ殺す気はないですし、いたぶる嗜好もありませんから」
メイの速度が更に上がる。さっきの時点でも異常な速さだったのにそれが更に倍になった。
そしてその速度でジグザグに軌道が予測できないように動いてる。
慢心して舐めてるなら一直線に向かってくるはず。一直線では私に対応されると思ったんだろう。
動きは速くなったけども、私がまだまだ余裕で目で追える程度だ。メイは不規則な軌道で移動し、私の背後に回ろうとしてきた。
私は後ろを取られないように体は常に相手に向け、迎撃態勢を万全にしておく。
やたらと後ろに回ろうとしていたメイは背後は諦めたのか私の真横になった瞬間飛び込んで来た。対応しにくい超低空からの超高速での体当たり。
私を足元から倒して不自由な態勢にさせようと考えているのかもしれない。
でもその体当たりは無防備過ぎる。いや、無防備に見えるだけなのか?
踏みやすい高さに頭があるのでタイミングを合わせ踏み潰す様に勢いよく足を降ろした。メイは足の手前でピタッと不自然な程の急減速で止まり、私の足が地面に着いたと同時に急加速。私は押し倒され、勢いで壁まで飛ばされた。
メイは私の灰色ローブの中に手を突っ込んできたのでその腕を捕まえようとした。しかし手を引っ込められ、すぐ距離を取られた。
一応ローブの中の魔導銃は無事だ。
「壁にぶつけたにも拘わらず怯みませんか、隙がありませんね。信じられません。私についてこれる辺り速さは同格。もしかしてまだ本気を出してないのでしょうか?」
同格ということはこれがメイの限界の速さかな?
信じられないとは言っている割にはまだ表情は余裕に見える。
まぁそれもそうか、ただ速いだけでは勝負は決まらないからね。
私はまだ本気ではない。
だけど相手を上回ってると思われて自信を無くされないように本気ということにしておこう。
「流石にこれで本気だよ。それと信じられないのは私も同じ。私の動きについてこれる人がいるとは世界は広いね」
「でしょうね。あなたの気持ちはよく分かります。だって私について来れるのですからね。ちなみにあなたのそれは私のセリフでもあります。稀に勇者でも無いのに勇者に近い力を持つ者が現れることがあると聞いてはいましたが、本当にいたことに驚いています」
とは言ってるけど驚いてるようには見えない。
「私もこれが本気ですが光の勇者は当然私よりもすべて上です。もしもあなたが彼らに対峙すれば勝ち目はありませんよ」
上位の存在をほのめかして来る辺り少しは『負けるかも』って思ってるのかもしれない。勝てると思ってるならいちいち言わないはずだ。
「そんなことを言い出すということは私に負けるかも、と思い始めてるんじゃないの?」
私はメイを煽ってみるけど相手の表情に一切動きはない。まだ余裕があるということか?
「速さでは互角ですが勇者である私は腕力も魔力量も人並み外れてあります。私より全てが上ならあなたに勝ち目はあるでしょうね」
ステラの魔力量はもしかしたらメイに負けてるかもしれない。とはいえ魔力量だけで勝負は決まらない。
魔法では魔力量が少なくても凄い魔法を使う者はいたし、魔力量が多くても低質な魔法しか使えないものもいた。きっと魔術も同じと思う。
筋力量で劣るはずのステラの体がメイと互角の速さということは相手よりも身体強化の質が高いという証拠になるだろう。まだ本気じゃないなら互角とは言わないはず。
私はまだ本気では無いこの時点で相手を上回ったことになる。
でもメイの身体強化が劣っているからと言って他の魔術が私のより劣っているということにはならない。1つが劣っていれば基本ほとんどが劣っていると見ても間違いでないことが多いけど、しかしごく一部の魔術だけは上回る可能性はある。
もしそういうのがあるのなら後々の別の闇の勇者との戦いに備えてこの目で、体で確認しておきたい。




