35 殺意のない舐めた争い 1
「もしかして元勇者候補……でしょうか?」
「へ? いや、違いますよ」
私は即座に否定する。私は勇者のいない時代の生まれだし、ステラは冒険者未満のただの子供だ。
「ですがそれ以外は考えづらいのですよ」
「本当に違うってば!」
メイはフェリクスを逃がしたのに気にする素振りを見せない。本当にあの道は出口に繋がっているのか?
「ところでたった一人で私の相手をするつもりですか? 元勇者候補なら勇者相手に勝ち目がないことはよくご存じのはず。勇者の最低ランクにも満たないわけですから」
「だから勇者候補だったことなんかないってば」
私はムキになって否定する。
「そこまで否定するということはやはり違うのでしょうね。ですがあれを開けられた冒険者を見たことが無かったので勘違いするのも仕方が無いと思いませんか?」
「知らないよ!」
メイは何かを思い出したのか口が止まる。少し時間が経過して再度口を開いた。
「……そういえば勇者候補並と言えば他にもいるのでしたね。そういう方々なら開けられるか? しかし近くに来てるという話は聞いてませんが……」
勇者候補レベルの別の何かは存在するようだけど、それも私とは無関係だ。
さてどうしようかな。この扉から動いちゃうとメイがフェリクスを追いかけるかもしれないから動きづらい。
あ、そうだ。この扉を魔法で完全に壁と接着しちゃえばいいんだ。
接着しちゃえば扉は開くことができなくなる。
扉を開けようとしてきたら妨害すればいいわけだ。私が開けたくなったら魔法で解除すればいい。
ということでメイに背中を見せながら魔法で扉に細工をすることにした。
作業自体は1秒程度と一瞬だ。体を一回転して壁に一瞬手を付けただけなので何かしたことには気づかれないはず。
「なんで回ったのでしょうか? まぁいいでしょう」
気づかれては無いけど怪しまれた。
「元勇者候補以外には考えづらいですが、私が知らない未知の何かというのもありますからね。ハッキリしてることといえば、注意するべき対象はここに来れないのは確定ですので勇者より強いということはないでしょう」
メイは私の実力について格下という結論を下した。
まだ戦っていないのだけどそんな判断をしてしまっても大丈夫なのかな?
私にとってはどうでもいいけど。
さて、どうしようか。メイは冒険者を連れ去った犯人の内の一人のようだし、ここでどうにかしておかないと犠牲者が増えそうだ。
拘束するにしても縛るものは持ってないし、縛ったとしても簡単にちぎってしまいそう。
手足を折るか、もしくは切断すればいいか?
最悪殺してしまおう。
遺体さえあればその遺体が勇者だという証人にフェリクスがなってくれるだろうしそれでも大丈夫だろう。
そういえば勇者にはランクがあると言ってたね。ということは勇者って結構な数がいるってことか……?
「勇者ってたくさんいるんですか?」
「たくさんかは分かりませんが勇者候補を除けば1000人以上はいますね」
だとするとステラが冒険者になったら今後もこういう事に巻き込まれるかもしれないか。
1000人全員がメイみたいなことをしてるとは思えないけど、冒険者の数を減らすのが目的らしいしそれなりにいそうだ。
メイ以外の勇者とも戦う可能性を考えたらメイの戦い方や使ってくる魔術などを確認しておいたほうが良いかもしれない。
そんなものを知らなくても私が負ける可能性は低いだろうけど、知っておけば役に立つだろう。
メイの強さをある程度把握してから倒して、それからフェリクスを追いかけよう。
「ところでメイさん。のんびりとしてるようだけどフェリクス……えーと、さっきの男の人は逃がしちゃってもいいんですか?」
「良くないですね。ですが逃げられませんよ。だからこそこうしてのんびりとあなたとお喋りができます」
「逃げられないとは? あの扉は出口には繋がってないと?」
「そうではありません。あの扉からちゃんと出口に行けますよ。多少迷路のように入り組んではいますがいつかは辿り着くでしょう」
「じゃあ急がないといけないんじゃない?」
「急ぐ必要は無いとだけ言っておきましょう。……それよりもなぜ急かすのでしょうか? あなたのほうこそ急いでいるのではないでしょうか?」
焦る気配が見えないな。焦らせて本気を出させる作戦は効かなさそうだ。
仕方ない、さっさと戦うとするか。
「あーはいはいそうだよ、私は急いでいるの。だからさっさとあなたを倒します。食らえファイアボール!」
私はヤケクソな感じで言うと、イブリンのファイアボールを想像しながらメイに火球を飛ばす。命の危険を感じればメイも実力を隠す余裕もなくなるはず。
しかしメイは避ける素振りも見せず火の球を全身で受け止める。
「勇者にこんな攻撃は効きませんよ」




