34 怪力 1
「もう一度言いますね。これは2人を殺すために着替えてきました」
さっきのケンカ腰な言動や怪しげなこの空間、いるのが場違いな少女からそうなんじゃないかなとは思ってた。
でも、冗談で言ってる可能性もありそう。
しかしながらこんな物騒な冗談を言う間柄では無い。
やっぱりあの男の仲間なのか?
フェリクスは険しい顔で椅子から立ち上がる。
「冗談にしては穏やかではないですね」
「冗談だと思ったのですか? 本気ですよ。それとここにあなた達が来るように誘導したのは私達です」
洞窟近くまでは誘導されたけどここに入る直接の原因はイブリンが洞窟内に男を蹴り飛ばしてしまったからなんだけどね。
「私達? お前もあの男の仲間か?」
フェリクスが尋ねる。
「あの男というのはカイのことでしょうか?」
カイと言われてもそんな名前を私は知らない。状況的にはあの男としか思えないけど。
「この近くで冒険者が行方不明になった。何か知っていないか?」
フェリクスは尋ねた後、壁にいくつかある扉に視線を向けた。
扉のどこかに攫われた冒険者がいると思っているのだろうか。だけど私の耳にはどの扉からも人の活動音らしきものは一切聞こえてこない。
もし死んでるとしたら聞こえなくても当然か。
フェリクスの視線に少女は気づき、こう口にした。
「お帰りになりたいのですか? ですが大人しく逃がすわけには行きません」
フェリクスの表情はさらに少し険しくなった。
「質問に答えて欲しい、知っているな?」
「ええ、私ではありませんがカイが冒険者を3名捕まえました。どこかの部屋に入れておきましたが案内するつもりはありませんよ」
じゃあこの少女を捕まえないといけないな。カイというのがあの男ならディマス達が捕まえてくれるだろう。
身柄を確保したら調査班にでも引き渡せばいいのかな?
私はフェリクスの耳に口を近づけ、確認する。
「フェリクスさん。どうします、捕まえます?」
フェリクスは少し迷いを見せ、少女に視線を戻す。
「……こっちは2人、君は1人だ。大人しく僕たちを逃がした方がいいと思うぞ?」
「捕まえないんですか?」
「今ここにはディマス達がいない、それにこの女は一人だというのに何故か自信を見せている。おそらく他にも仲間がいるかもしれない。だから相手が退いてくれるなら今はそれで済ませたい」
私の耳には先ほどからこの場の3人以外の音は一切聞こえていない。
森の中ならともかく静かな洞窟内で聞こえないということは他に人がいない可能性のほうが高い。
少なくともすぐ駆け付けられる距離には仲間はいないだろう。
近くに少女の仲間はいないのは確定だけど、その理由を上手く説明できないのでフェリクスに従うことにした。
確かに2対1という状況にも拘わらず少女には余裕が見られる。1人で私達を相手にできる自信でもあるのだろう。
フェリクスの脅すような発言の後、少女は不利だと判断したのか逃がすことを受け入れた。しかし表情は一切変わらず、フェリクスとは対照的に余裕が感じられる。
「確かに2対1では私が不利かもしれませんね。分かりました。出口の扉をお教えしましょう。そういえば自己紹介がまだでしたね」
「いや、しなくていい」
拒絶するフェリクスを無視し言葉を続ける。
「私の名前はメイ。多数いる勇者の一人、勇者ランクは――」
「時間稼ぎはいいから早く案内してくれ」
フェリクスは遮るように口を挟んだ。
「――せっかちですね。時間稼ぎではありませんよ? 確かに時間を稼げばここにカイが加勢にくるでしょうがそんなもの必要ありません。まぁいいでしょう。向こうの扉が出口に繋がってます」
メイは不満は出さず出口に繋がってるという扉を指差す。
フェリクスはメイの方を警戒しながら出口につながる扉に向かう。
私は勇者について興味があったので部屋を出る前に尋ねることにした。
「メイさんって本当に勇者なんですか? 勇者ランクってのは何ですか?」
「ええ、私は勇者です。それにしても勇者というのはあまり知られてないようで不思議な顔をされることが多かったですね。まぁ知られないようにしてるので当然ですが。ランクについてですが私は闇です。と言っても分からないでしょうね。上から3番目のランク、実質的には2番目のランクです」
この人よく喋るね。こんな何もない場所にいたら暇すぎて人恋しいのかもしれない。
それはいいとして、私が勇者について知らないのは仕方ないにしても今の時代の人も知らない人が多いようだ。
私はまだ目覚めて1週間程度しか経ってないけど、その間だけで集めた情報から分かることは勇者はとにかく強いらしいということだけだ。それ以外はさっぱり分からない。
ということもあって何をもって勇者と判断すればいいのか分からないんだけど、勇者と名乗ってるからとりあえず勇者ということにしておくか。




