33 ガラスではない透明なカップ 2
「女性の方はコッテンさんというのですね。私に気を遣わずもう1つの椅子に掛けてください」
少女はそう言ってから入ってきた時とは違う別の扉に入っていった。
もしかしてお茶菓子でも持ってくるのかな?
「この部屋はなんですかね?」
私は立ったままフェリクスに尋ねる。
「僕も知らないよ、視界全てが真っ白ってのは不気味だな」
何をするための部屋なのだろうか? 全然予想がつかない。
私は少女が入っていった扉に目を向ける。
「怪しくないですか?」
「怪しい要素しかないね。なんでこんな場所にいるのか。見た目によらずイブリンみたいに年がいってたりして」
「あの男の仲間じゃないですか?」
「だとしてもなぜ僕たちのことを襲って来たのか、なぜこんな場所にいるのかは謎だよね」
謎だらけ。男の仲間と確定していない以上、私達から何かすることはない。
男とつながってる可能性は高そうだけど、たまたまこんな場所に住んでる変人の可能性もあるわけだ。
しばらく待っていると少女が透明な容器に入った飲み物らしきものをトレイに乗せて扉から戻ってきた。
しかし先程とは服装も変わっていた。
「すみません、お待たせしました。お茶をどうぞ」
「え、あ、はいありがとうございます」
私はお茶よりも少女の姿に目が行った。
なんでそんなものに着替えて来たのだろう?
まぁともかくその鎧姿からは少し懐かしさを覚えた。
100万年以上も時代が違うにも拘わらず私の時代でも見かけたような形状をしている。フェリクス達のほっそりした鎧とは違い、大きく重厚で頼りがいのある形。
ただしその色の鎧は滅多に見なかった。
白く眩しい鎧、今にも浮きそうなふわふわの白いスカート、白い兜には羽の装飾、右手には白い刃の剣。
視認性が悪い。真っ白な部屋だから尚更そう感じるんだろう。
私はお茶を飲もうとカップの取っ手を掴む。ガラスのように透明だけど硬さは感じず、軽くて持ちやすい。力を少し込めると弾力があるのが分かる。
「コッテンさん、それはまだ飲まないでください」
カップを不思議そうに見つめていると制止された。
フェリクスは険しい顔をしている。
まぁそうだろうね。毒を入れられてる可能性がある以上は止めるだろう。
しかし私には毒は効かない。未知の毒も含めて一切効かない。魔法で無効化できるからだ。だからと飲んでしまったら安全だと勘違いしたフェリクスも飲んでしまうだろう。
それはマズイため、口を付けずにテーブルに置くことにした。
少女はフェリクスの態度にも全く動じず、その懸念を否定する。
「なぜそう思ったのでしょうか? ですが心配無用です。毒なんか使う程の相手でもないですから」
つまりは私達は雑魚だと言ってるに等しいけど、なぜ煽って来た?
「どういう意味ですか? それと鎧の理由を聞いてもいいですか?」
フェリクスの目つきが鋭くなっていく。
「あのフェリクスさん、ここから先の道は危険とかで……だからちゃんとした格好をしたんじゃないですかね?」
私は予想を口にしてみるけど、少女から返って来たのはそれはそれで予想通りな言葉だった。
「いえいえ違いますよ。これは2人を殺すために着替えてきました」
少女は淡々とした表情でさらっと物騒な言葉を放ってきた。




