31 落下 2
局所的に水位が上がった場所に私とフェリクスは着水した。
私の放った水は粘度の高い特殊な水なので局所的に水位が高くなるという不自然な状態が可能だった。普通の水だったらこの程度で水位は上がらないし、下がり方も一瞬なので地面にぶつかってただろうね。
「フェリクスさん、大丈夫ですか?」
「コッテンさんの魔術のおかげで無事です。というかあんな早口で魔術使ってる人初めて見ましたよ、ハハ、ハハハハハハ」
フェリクスの大きな笑い声が洞窟に反響した。
(ぶふーっ! あはははははっ)
ステラも笑い出した。何がそんなにおかしい?
「な、なぜそんなに笑うんですか?」
「いや、だって、あんな早口見たら誰だってぶふっぅー! ゲーッケッホッホッハッ……」
「笑いすぎ!! ウォーターボール!」
恥ずかしくなった私はフェリクスに水球をぶつけた。
「ゲバァッ」
水球を顔にぶつけられたフェリクスは間抜けな声を出した。
(あははははははは)
(お前も笑うな!)
ステラには口で注意するしかできないのがどうにももどかしい。
「ご、ごめん、悪かった、息苦しいから撃たないで」
「おーい、コッテン、フェリクスー!」
頭上の遥か遠くからアージェンの小さな声が聞こえてきた。上を向くと暗くて見えづらいけど砂粒のように小さなアージェンが見えた。
アージェンは落ちないように注意してるのか顔だけを覗かせている。
「アージェン、こっちは無事だ! 怪我もない」
「そうかー、それは良かった! 俺じゃお前たちを引き上げる方法がないからディマス達に相談してくる。イブリンがどうにかしてくれるだろうからそこで待ってろよ!」
イブリンはほぼ手ぶらだったし魔術でどうにかしてくれるだろう。というか私も魔法を自由に使えれば余裕で上に戻れるんだよね。
でもそんなことはしない。
身体強化は魔術でも魔法のように詠唱無しで使えるっぽいので、ある程度は使い放題。なのでそれを生かして脱出したいところだけど、流石に高すぎるし一気にジャンプして上ると目立つから悩みどころだ。
ジャンプしつつフェリクスを放り投げようか?
「アージェンさーん! フェリクスさんも私がそこに投げましょうかー!?」
フェリクスは目を点にして私の方を振り向いた。
「ちょっコッテンさん! 流石にそれは危険すぎます! というかあんな高さまで投げれるんですか?」
「いや、フェリクスは投げなくていいぞ。コッテンも1人ぼっちは寂しいだろ? とりあえず俺は助けを呼びに行ってくる」
そう返したアージェンは姿を消した。
そして、暇な時間が出来た。
なんとなく周囲を見渡す。奥にここより広い空間があり、さらに奥に道は続いている。
「奥に通路がありますね、もしかしたら上に繋がってるかもしれないので行ってみませんか?」
「見えるのか?」
フェリクスには見えないようだ。
「薄っすらとですが見えますよ」
「僕には暗くて見えないよ、ああそうか、コッテンさんは僕の知らない高ランクの魔術で自分だけ見えるようにしてるのか」
魔法でもない謎能力です。生前は魔法でやってたけど今はそんなことせずとも手足を動かすように感覚の調整などができます、とは教えられないな。
「まぁ……そんなところです」
「奥の道は気にはなるけど、アージェンが待ってろって言ってたからここで大人しく待ちましょう」
そう言われたのでおとなしく待つことにした。




