30 松明は使わないらしい 2
土煙が邪魔をしてイブリンがどうなったかはすぐには分からない。赤い液体から予想するにただごとじゃないだろう。
「イブリン!」
ディマスの焦る声が響く。
「もしかしたら死んでしまったかもな。さてお前達はどうする? ちなみに今のは魔術ではなくただの爆弾だ。その辺に仕掛けた。声に出さずとも一瞬で起爆するから今の俺に隙は無――」
男がそう喋っている途中、イブリンは土煙から飛び出し男に向かって拳を突き出した。
男は避けようと動くけども間に合わないと判断したのか、腕を交差して防御の姿勢を取った。
しかしそれを突き抜ける圧倒的な破壊力によって全身を吹き飛ばされ、男は絶叫しながら背後の洞穴に飲み込まれていった。
「イブリン無事か!?」
「無事だ、派手な爆発の割に威力はカスだったぞ。ちょっと痛い程度だ。少し鼻に土埃が入ってむず痒かったがそれも含めて魔術で治した」
「そ、そうか」
赤い液体だから血が大量に出るほどの怪我をしてたのかと思ったんだけどそうでもないのかな?
ピンピンとしたイブリンは洞窟に顔を向ける。
「人相手にあれほどの力で殴ったのは初めてだ。加減はしたつもりだがもしかしたら死んでしまったかもしれんな」
「なぜ俺達の邪魔をしたのか聞きたかったが仕方ないか、報告するために遺体は確保しておくぞ」
ディマスは残念そうに言った。
(……遺体ってことは死んでるってことだよね?)
ステラの怖気づく声が頭の中に響く。
(どうしたのステラ?)
(少し怖くなっただけだよ、冒険者になるにはこれくらい平気じゃないといけないよね)
死体を見るのが怖いってことか。冒険者って危険そうだしそういうことに平気でなければいけないんだろうなぁ。
「あの男はどこ行ったんだ?」
少し遅れてアージェン達がやって来た。
その問いにディマスが答える。
「お、来たな。あの男はイブリンが洞窟の中に突き飛ばしてしまったぞ。というわけだかから洞窟の中に入るぞ」
私達は男を回収するため洞窟に入ることになった。
洞窟の中は徐々に闇に染まり、少し進むだけで真っ暗になり、ディマス達は何も見えなくなったようだ。
私には暗くてもある程度は見えるわけだけど奥深くを見ても何もいないように見える。あの男はどこまで飛ばされたんだろう。
意外とあれでも死んでなかったりするのかな?
「何も見えないな、イブリン……いや、フェリクスがいいか。灯りを付けてくれ」
ディマスに言われてフェリクスは筒状の小さな物を取りだし、それで周囲を照らし、その道具をディマスに渡した。
(ステラ、あの光ってるのは何? 松明じゃなさそうだけど)
(たいまつ? ……あれは電灯だよ)
(でんとう? あれも魔力で動くの?)
(電気で動くよ。どこの家にも1つはあるありふれた物だよ)
松明よりは便利そうだと思った。ボタン1つで点くし火もいらない。それに小さい。
私は魔法があるからそれを持つ必要性は薄いけど、念のために持つのも悪くはなさそうだ。
電気の明かりで照らされた視界良好な洞窟内を進んでいくと、地面に赤いものが大量に付着しているのを見つけた。
それは奥に行くにつれ点々になり小さくなっていく。
「これは血か? こんな所まで飛ばされていたのか……」
ディマスは地面の赤いものに指で触れるとその色に染まった。
「まだ乾いていない、あの男ので間違いないな」
「ディマス、その汚れた手を私に向けろ」
イブリンはディマスの赤く汚れた手に自分の手を向けると魔術を使ったのか綺麗になった。
魔術を使う際、声は発しなかった。
声を発するときと発しないときには何か決まりがあるのかな?
「おお、ありがとう」
「別にお前のためにやってあげたわけじゃないぞ。その手で触られたら汚れが付いてしまうからだ、勘違いするなよ! ……いや、実はお前のためだ! 勘違いではないぞ」
「お前は何を言っているんだ? でもありがとう」
「殺風景に退屈してたからふざけただけだ、気にするな。それにしてもあの男、予想以上にしぶとい奴だな。だが流石に瀕死だろう。さっさと行くぞ」
血の跡を辿ることで男を追跡できるだろうと判断し、さらに奥に潜っていく。
進むほど狭くなる洞窟内、多人数では徐々に移動がしづらくなってきた。
小柄なイブリンと私は問題ないけど男3名は苦戦している。
ノロノロと移動することに耐えられなくなったのかイブリンは大声を出すと走り出した。
「お前ら! こんなチンタラしてたらいつまで経っても捕まらんぞ! 私が先に行って確保してくる!」
「おい、走るな、滑るぞ。俺も一緒に行くから待て! アージェン、俺は先に行くからお前たちは焦らずゆっくり来い!」
ディマスはそう言って早歩きでイブリンを追いかけた。
電灯を持って行ったディマスがいなくなり、私達の周囲は真っ暗になった。
誰か電灯の予備は持ってたりしないかな?




