25 栗鼠か鼠か
小屋に入るなりイブリンはベッドで眠ってしまった。
私は暇な時間が出来たので昨日手に入れた“赤白い球を高速で発射できる筒”の使い方を調べることにした。
室内で適当に触っていると危うくイブリンをぶち抜きそうになったので外で扱うことにした。幸いイブリンは起きなかったので気づかれなかった。
ちなみに筒の形はL字型だ。そういえば記憶の中にある『銃』もこんな形をしてた。
私は銃を使ったことないし見たことも無いのだけど何故か記憶の中にある。
というか生前にはこんなものはなかったはず。
知らない記憶があるのがなんか不気味だ。怖い。
まぁ私って幽霊だし、存在自体が不思議だしそんなこともあるのだろう。
なので知らない記憶があっても気にしないことにした。
記憶の中の銃と形状は似ているけど使い方は所々違うようだ。
威力はあるようなないような、実際に色々な物で試さないと正直よく分からない。
でも最低限の使い方は分かったので部屋に戻ってディマスの迎えを待つことにした。
少し待つとドアを叩く音が鳴り、その後に声が聞こえてきた。
「入っていいかー? 入るぞ」
ディマスはそう断ってから小屋の中へと入ってきた。
「コッテンか、イブリンはどうした? 結局引継ぎの奴ら来ないから調査班の所に報告に行くことにした」
「調査班?」
私は初めて聞く言葉を聞き返す。
「そうだ調査班だ。イブリンは……やっぱり寝てるな。面倒だが俺が起こすか」
調査班が何なのか聞きたかったのだけど、まぁいいか。
ディマスは少し不機嫌な顔で、寝ているイブリンの所へ行くとその小さな体を揺らし始める。
「おい、起きろ。移動するぞ、ついてこい」
「ぬあ、あ、あ、なんだぁ? 起こすなと言ったはずだぞ、なぜ起こす?」
「し・ご・と・だ!! 起きろ!」
「い、いや、やめて! えっち。どこ触ってる!」
「肩だよ! お前色気ねぇんだから変な声出すのやめろ」
ふざけてたイブリンの動きが一瞬止まった。
「……その言葉傷つくからもう言うなよ?」
ディマスの言葉は弱点だったようでイブリンはさっと起き上がった。生気の無くなったような表情だけど過去に何かあったのだろう。
「そう言われないようにお前も言葉選びに注意を払うんだな。そんなことより引継ぎの人が来ないから報告に向かうぞ」
「そうかそうか、行ってらっしゃい」
イブリンは右手をフリフリと揺らしてそう言うと再びベッドに向かうけどディマスに肩を掴まれ阻止される。
「見送りのために起こしたんじゃないんだが? お前も来るんだよ」
そう言ってイブリンを勢いよく叩こうとするものの途中でディマスの手が止まる。一瞬私の方をチラッと見ると手を引っ込めてディマスは自分の後頭部を掻いて誤魔化した。
「……仕方ないな」
イブリンはポツリと呟くと渋々と受け入れた。
そして私達は調査班とかいう役割の人の元へ向かうことにした。
* * * * *
さきほど休憩した小屋と似た形の建物が見えてきた。
調査班の人達がその建物にいるらしくディマスが一人で入っていった。
「フェリクスさん、調査班ってなんですか?」
待機時間、暇なので私は猫人のフェリクスに聞いてみた。
調査班というのはつまりはキメラの生息数の調査や冒険者への指示出し、負傷者や討伐中に行方不明になった冒険者の捜索など、全体の状況を把握して動く班らしい。
他にも色々やってるみたいだ。あと調査班は基本的には戦闘に参加しないようだ。
話を聞き終えてもまだディマスが戻ってこない。
暇なので次はイブリンに彼女の種族を聞いてみた。
「私は……栗鼠人だ」
明らかに不機嫌な顔を見せた。
栗鼠というよりは鼠な外見だけど、そう言われたなら信じるしかない。
あまり聞いて欲しくない雰囲気を出してたのでこれ以上詮索するのはやめることにした。
それから暇ながらも待っているとようやくディマスが戻って来た。
「報告は終わった。引継ぎの奴らは調査班も把握してないみたいで行方不明だ。捜索は調査班がやるから俺達には討伐に集中して欲しいだとさ」
そしてまた最初の待ち合わせ場所に戻ることになった。




