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22 その表情は臭いから

 背後から気配がし、振り向くと黒い霧状のものが集まって形を成していくのが目に入った。

 そしてそれは先ほど見たタコのような魔物と同じ姿となった。


 イブリンが倒していたオクパスよりも倍くらい大きい。


 何もない場所に生き物が唐突に現れるとか自然に起こり得ることなのか? 


(魔物ってこうやって発生するみたいだよ?)


 私は動揺を抑えながら余裕を装ってステラに言った。


(だから何? 何かされる前にさっさと倒しちゃってよ!)


 いや、明らかに生き物とは思えない生まれ方したんだけど、なんで不思議に思わないの? ああ、そうか。今の時代の人達にとっては魔物はありふれた存在だからどうでもいいのか。

 私が「虫はさなぎになるみたいだよ」と言われるようなものだと考えれば、意味不明な生態だとしてもどうでもいいと感じるのは当然か。


 いや、単に怖くて考える余裕がないのかもしれない。

 安心させるためにもさっさと倒すとしよう。


 と、私の背後からフェリクスの駆けてくる足音が聞こえた。私を助けるために来ると思うのでフェリクスのお手並みを拝見させてもらうとしよう。


 呑気に構えていると目の前のオクパスに動きがあった。

 頭の何もないつるつるの部分から触手のようなものが現れ、その先端部分は丸く膨らむと口の形に変形し、口を開くとギザギザの歯をガチガチと鳴らして私に襲い掛かってきた。


 開いた口はステラの体を飲み込めるほどに大きい。


(ひぃい~!! デシリアー! 早ぐ! 早ぐ!)


 ステラの悲鳴が頭の中を支配する。でもステラは勝手に体を動かして逃げようとしなかった。私の事を信頼してるのだろう。偉い!

 ただ、私はその期待にはまだ応えない。一応フェリクスが間に合わなかったときのことを考え、身体強化で守備力を高める。


 こういう時ってギリギリでカッコよく助けに入るもんだよね。

 フェリクスとの距離は近かったし私が攻撃を受ける前に余裕を持って助けに入るだろう。


 しかし期待も空しく触手の口の方が先に私の体半分を覆ってしまった。

 私の視界にはオクパスの黒い口の中が映し出される。


(びゃああああ、デシリアあああああ!)


(あ、あれ? フェリクスが何かしてくれると思ったんだけど……)


(何ワケの分からないこと言ってるの! どうにかしてええええ!!)


(あー、ごめん。でもほら、大丈夫だから。ギリギリで止めたから!)


 私は触手の歯を掴み、口が閉じない様に抵抗している。

 身体強化で体が頑丈になってるので噛まれてもオクパスの口の方が壊れるとは思うけど、フェリクスが見てる前でそんな姿を見せるわけにはいかない。


 というかフェリクスは何してるの? 口がふさがる直前に足音が乱れてたし転んだのかな?


「今助けるからじっとしてて」


 少し遅かったけどフェリクスの声が届いた。

 その直後、触手は黒い靄を出し、徐々に消滅した。

 しかしオクパスの本体はまだ健在だった。


「コッテンさん大丈………………夫ですか?」


 声の方を振り向くとフェリクスは少し顔をしかめながら剣を握り、私を見つめていた。


「コッテンさん? 大丈夫?」


「え? あ、はい大丈夫です」


 しかめっ面が気になり返事が遅れた。


「助けてくれてありがとう」


「いえいえ、ところでオクパスはどうします? 僕が倒しましょうか?」


 まだ少し顔をしかめているフェリクスはどうするか私に聞いて来た。

 ふと私は自身の右腕を嗅いでみるとほんのりくさかった。もしかして触手の口に覆われたときについた臭いか?


 だから私に近づくなり嫌そうな顔をしていたのか。嗅覚の感度を下げてるから気づかなかった。

 魔法でにおいを消そうかとも思ったけど、そのような魔術が存在するのか分からないので放置することにした。


「どうします? それともコッテンさんが倒しますか? それとも逃げます?」


 フェリクスは臭いのことには触れず私の返事を待つ。

 逃げる選択肢があるのはディマスが放置しろと言っていたからだろう。


 私は冒険者ランクCの強さが知りたいのでそのランクのフェリクスに倒してもらうことにした。


「じゃあフェリクスさん、倒してもらっていいですか?」


「分かりました。それじゃあさっさと倒しちゃいますね」


 フェリクスは軽快な動きで一直線でオクパスに近づき、剣を斜めに振り降ろし斬り裂いていく。オクパスからの反撃は何故か一切なかった。


 あれ? もしかして頭の触手って1つだけしか発生ない?


 その後何度か斬り裂くとオクパスは黒い靄を出しながら蒸発し、魔石だけを残して消滅した。

 オクパスには足がタコのように付いていたのでそこからも攻撃してくるんじゃないかと予想していたけどそんなことはなかった。


 フェリクスは魔石を拾うと私の方に戻る。


「周りにもちらほらとまた新たなオクパスが出て来たみたいだね、倒してもキリがないからディマスの所へ急ごうか」


 先ほどまで少なかったオクパスが増え始めていた。

 ずっと相手をしていたらいつまでも終わらなそうなので移動することにした。


(ねぇデシリア、フェリクスってどう? 強い?)


(うーん……強いんじゃないかな?)


 オクパスが弱すぎてよく分からなかった。少なくともステラより弱いということはないだろう。

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